襲撃
「2人いる。一方はサブマシンガン、もう一方は刃渡りの長いナイフを持っている。二階に上がる防火扉はロックしてある。鋼鉄製だし、たぶん問題ないっす」
「他に入り口は?」
サニーは今里の用意の良さに驚きつつ質問した。
「非常口。いちおう地上入り口は鉄製だけど防火扉よりは弱いっすから」
「どっちから来ると思う」
「トライバイテックの戦闘員は強引でバカだっていう噂だから、まっすぐ防火扉を壊そうとするだろうと思うっす」
「技術スタッフは?」
「科学者6名は3階へ非難させた。二階に残っているのは俺とサニーだけっすよ」
「防火扉が問題ないっていう根拠は?」
今里は苦笑した。
「ないっす」
そう言い終わらないうちのサブマシンガンの発射音が聞こえた。続いて激しく鉄のドアをたたく音。4度目の音が終わると、ガシャンっと激しく物がぶつかる音が聞こえた。
「防火扉、破壊されたらしいっすね」
「やるしかないわ」
オフィスは3階建てで各フロア3室の構造だった。一階は入ってすぐがレセプション、向かいに1室。突き当りが階段になっている。エレベーターはない。階段入り口に防火扉があり、破壊されたのはその1階防火扉だ。2階防火扉は3階へ行く入り口に設置してある。そちらは今里がロックしたと言った。二階フロアは階段から窓際廊下を通って3室。それぞれは廊下に出なくては出入りできない。今里とサニーがいるのは階段から見て突き当たりの部屋だった。侵入者が順当にくるとすれば数分の余裕はある。
ひとつ問題があるとすれば、サニー達の持っている銃が、実は違法だということだ。オーストラリアで護身用ハンドガンの所持は認められていない。警察を呼んでいる以上、できるだけ使わないほうが好都合なのだ。けれど、とサニーは思った。警察に対する言い逃れよりも、今は戦うことを考えなければ。
ドアを開く音。階段からすぐの部屋だろう。あの部屋にはとくになにもない。誰もいないことはすぐにわかるだろう。続けて隣の部屋から物音がした。
「ドアが開いたら俺が撃つから、サニーはバックアップを頼むっす」
今里はそう言うとドアを狙える位置へ移動した。サニーはデスクの影に隠れるとワルサーを握りなおす。射撃の訓練を思い出す。シューティングレンジでしたようにやればいい、と自分に言い聞かせた。相手は兵隊だ。撃たなければ殺される。
足音。重そうなブーツが廊下をやってくる。足音が止まりドアノブが回る。ドアが開きかけた瞬間、今里は続けざまに撃つ。
一瞬の間があった。ドン、と蹴飛ばされたようにドアが開くと真っ黒な戦闘服の男が飛び込んできた。今里はさらに引き金を引いた。サニーはその音を聞いた瞬間、何かを考えて動いたわけではなかった。ただ、そうしなければならないという強い意志に突き動かされるようにデスクの影から立ち上がると侵入者に向かってワルサーの引き金をひいた。サニーは結果を確認する前にすばやくしゃがみこむ。侵入者はサブマシンガンを今里に狙いをつけたまま側面から射撃を受けたが数発を撃ち、それは今里に命中した。今里は膝の力が抜けたような感覚に襲われ、ガクっと膝から崩れ落ちた。意識が遠のく。サニーは、サブマシンガンの数発の射撃音を最後に物音がしなくなったことに気がついて、おそるおそる顔を出した。侵入者は床に倒れていた。うつぶせの顔から血が流れている。サブマシンガンがその手から数十センチのところに落ちていた。サニーはデスクの影から飛び出すとサブマシンガンを蹴り飛ばした。
今里は壁際で床に倒れていた。駆け寄って抱え起こすと、うっすらと目を開いた。
「だ、大丈夫っす。ぼ、防弾チョッキ、着込んでるっす」
慌てて今里の腹部を確認する。血は出ていない。
「ま、まだもう、一人が」
サニーは、はっとしてワルサーを握りなおす。
「あいつらもボディーアーマー使ってます。撃つときは頭を狙わないと駄目っす。サニーの銃撃のおかげで、やつを仕留められました。あのまま反撃されてたら確実に殺されてたっす」
サニーは自分が人を殺したのかもしれないと思って寒気がした。今里はそれに気づいて首を振ったが、アバラ骨が痛むのか顔をしかめた。
「顔を撃ったのは俺っすから。サニーの撃ったのはボディーアーマーか腕に当たったみたいっす。それで射撃が遅れた」
その時、廊下でパン、パン、と音がした。続けて英語で「武器を捨てろ」という声が聞こえた。警察が来たのだろうか。サニーは、けれどもそれをすぐに心の中で否定した。
「英語が下手すぎるわ」
今里もその意味に気づくと、コルトを握りなおそうとして痛みにうめいた。
「立ち上がれそうにないっす。弾丸は貫通してないみたいっすけど、確実にアバラが折れてます」
そういうと自分のコルトをサニーに手渡す。
「こっちのほうが破壊力ありますから。こっち、使ってください」
サニーは無言でうなずくと、入り口ドアの影まで移動した。どうすればいいのかわからなかった。じっと耳をそばだてる。床に硬いものが転がるような音がして、「OK、言うとおりにしよう」という声が聞こえた。サニーはじりじりと移動して物音がするほうを見た。黒い戦闘服の男が両手を上げて立っていた。そのむこうにTシャツの男がアサルトライフルを構えて立っていた。日本人だった。
体格のいい日本人だった。いや、少し太めというべきかもしれない。髪は短く整えている。黒いTシャツにはサムライの絵がかかれていた。その顔は笑っているようでもあり、怒っているようでもあったがアサルトライフル、つまり戦闘用ライフルを手馴れた武器のように自然に構えているところを見ると普通の観光客ではないのは間違いない。
「お前には用はない。どっかに消えてしまえ」
その日本人はそう叫ぶと、ライフルの狙いは外さないまま、戦闘服の男に向かって近寄り始めた。
「そこに非常口があるだろう。そこからさっさと消えちまえ」
戦闘服は、チラっと奥の方、つまりサニーがいる部屋のほうを見たが諦めたように身を翻すと非常口を開けて走り出した。鉄製の階段を駆け下りる音が響いてきた。Tシャツの日本人はライフルを下ろすと、サニーのほうへ歩きながら
「おーい。大丈夫か、生きてるか?」
と、まるで友達に呼びかけるかのように笑顔で言った。サニーは身構えるとコルトを握りなおした。
「大丈夫っす、ちょっと動けないっすけど、大丈夫っす」
今里は、うめきながら頷いた。
「大丈夫っす、味方です」
サニーはびっくりして振り返った。
「ちょっと、どういうこと?知り合い?」
サニーは狐につままれたような気分だった。目の前には戦闘服の男が倒れていて、たぶん死んでいるというのに、今里までが見たこともない男と知り合いだという。その男が突然現れて、もう一人の戦闘服を追い払ってしまうし、まるでアメリカ軍兵士のようなライフルをぶら下げているし。
「いったい、どういうことなの?あなたは誰?」
サニーはコルトの狙いをTシャツの男に向けたまま立ち上がった。
「聞いてるよ、サニーっていうんだろ」
そう言うとTシャツの男はライフルを床に下ろして立ち止まった。
「銃を向けるのはなしにしてくれないか。俺は味方だ。ロットネスでサブっていう男に会っただろう?あいつは俺の組織のものだ」
「サブちゃん?ああ、あのマウンテンバイクの?」
「そうだ」
「じゃあ、あなたが総帥?赤い対戦車砲っていう秘密結社があると聞いたことがあるけど」
Tシャツの男は頷く。
「総帥は作戦を立案するときの暗号名だ。普段はバズと呼んでくれていいよ」
「バズ?」
「バズーカのバズ。対戦車砲ってのはバズーカだろう」
サニーはあきれてコルトを下ろした。秘密結社の名前を自分の呼び名にするなんて。いい加減な話だと思った。
「ともかくだ。ここを離れたほうがいい。もうすぐ警察がやってくる。死体が転がっている状況じゃあ、言い訳するのに時間がかかりすぎるだろう。急がないと面倒なことになるからな」




