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24時間営業と関西弁

「タカ」

 リョウは視線の定まらない目でタカを見ていた。

「星がきれいだね。すごくきれいだ」

 出血がひどく、このままでは危険だとタカは思った。

「タカ、行ってもいいよ」

「何を言っているんだ」

「このまま、じゃ、タカも面倒に巻き込まれる。仕事、終わったわけじゃない。タカいても意味ない」

 そう言うとリョウはタカの手をわき腹からどけようとした。

「死ぬかもしれないぞ、リョウ」

「いいんだ。なんか安心なんだよ。星がいっぱい見える。宇宙の中へ行くんだ。さっきはわからなかったことが今は見えてる。世界の果てまで僕は旅をする。簡単なことなんだよ。僕は死なない。死んでも死なない。魂だけで旅を続けるよ」

 タカは目を閉じた。

「わかった。たぶんすぐに助けが来る。オレは鍵の女を追う。それからあのインド人を倒す」

「うん、行っていいよ、タカ」

「死ぬなよ、リョウ」

 そう言うとタカは立ち上がって振り向かずに走り出した。


 阿部はリゾートに似合わない爆音をたてながら夜中のモンキーマイアにたどり着いた。

 スカイラインのタンクは3分の1ぐらいの燃料しか残っていない。給油したかったが、ガソリンスタンドはどこも開いてなかった。

「24時間営業って言葉を知らないのかよ」

 阿部が悪態をつくと、ヒデは笑って答えた。

「オーストラリアにそんなのはないでー、阿部さん」

「関西人だったのか、ヒデ」

「いえ、そんなのはないですよ、阿部さん」

「今さら遅いよ」

「ばれてもうたか。しゃーないな」

「まあ、最初から怪しい言葉遣いをするやつだとは思っていたよ」

「そりゃひどいで」

 ほっとしたような顔でヒデは返してきた。

「やっぱ関西の言葉のほうが気が楽や」

 エンジンを切って、エントランスの前に駐車した。

「さてと、ここも店じまいしているみたいだな」

 入り口の垣根は貝殻を固めたもので出来ているらしい。そういうとヒデが、近くの浜は貝殻のビーチなのだと答えた。たぶん、そこで採れる自然に貝殻の固まったブロックを使っているのだろう、という。

「オフィスアワーは夜の8時までって書いてますね」

「なんだ、標準語に戻したのか?」

 それにヒデが答えようとした時に、こちらに走ってくる人影を見つけて阿部は身構えた。だが、その二つの人影は女性だと気がつく。片方は小柄、もう一つの背の高い方には、何故か見覚えがあるような気がした。

「アベさん!」

 あきらかに、その変な発音には聞き覚えがあった。

「マリアか?」

驚く阿部にマリアが駆け寄った。

「遅かったね、アベさん。ライバルのほうが先に来てしまったね。わたしたち追われているね。とりあえずこの場、離れた方がいいね」

 そう言いながらスカイラインの方へ阿部を押していく。

「今、着いたばかりだぞ」

「そう言うなら、もっと早く来て欲しかったね。さっき銃撃されたばっかりね」

「本当か、おい、怪我はなかったか」

「わたしはないね。でも身代わりになった人、撃たれたね」

そういうと暗い顔をしたが、すぐに気を取り直す。

「はやくクルマ、出すね」


 エツコはマリアの後ろから顔を出して右手を上げると、やあ、と言った。

「よろしく、エツコです」

まるでタクシーに相乗りするくらいの気軽さでエツコはスカイラインの後部シートに乗り込んで、それからもう一方から乗り込んできたヒデにようやく気がついた。

「ヒデ?なんでここにおるの?」

 こっちも関西人か、と阿部は苦笑した。

 マリアは阿部をせかしてクルマを出させた。なるべく静かに、といっても盛大なエキゾーストノートはどうしようもなかったが、スカイラインは発進した。

「エツコを探しにいくっていう阿部さんの案内人をしてん。それよりエツコ、なんでそんなに追われてんねん?」

「そんな、わたしに言われてもわからんよ。今日なんかびっくりの連続やわ。さっきは鉄砲で撃たれそうになるし、助けを求めにいったら連れて来られるし、来てみたらヒデおるし」

 そこで一息つくと、エツコは続けた。

「それよりな、荷物残してきてるん。あれは必要だから取りに行きたいんだけどなぁ。どうすればいいねん?」

 その質問にはマリアが答えた。

「今夜は無理ね。大切なもの?」

「カメラとか出会い帳とか、いろいろ大切なものがあるの。取りに行けるのなら行きたいわ」

 マリアと話すときは標準語に戻るエツコの口調が面白くて阿部は思わず笑った。

「おかしいかな?命を狙われてるのにって思ってる?」

「いや、そっちじゃない。よくしゃべるのが面白かっただけだ」

「そうかなぁ。よく言われるけど、そんなによくしゃべるわけじゃないのに。ところで、どこへ向かっているの?」

 唐突に質問をするエツコに、一瞬阿部は戸惑った。

「ああ、どこへ行けばいいんだ?マリア」

「しばらく戻ったところにデンハムって街があるね。今夜はそこへ行くね。夜も遅いから宿は取れないかもしれないけど、姿を隠すには都合がいいと思うね」


 デンハムの町は静かに眠っているようだった。

 爆音をたてるスカイラインは場違いだった。アイドリング近辺では、まともにトルクの無いRB26改をなだめすかすようにして出来るだけ静かにドライブしていく。

「あの宿ね。もしもの時のために1週間借りてあるね。3人で取ってあるけど、別に一人ぐらい増えてもいいと思うね。でも、宿のオーナー、お金だけ置いて泊まらないから不審に思っていたね。他の人に貸してないといいけど」

 そう言いながらもルームキーは持って出たマリアは、モーテルの部屋まで案内した。そこはクルマで部屋の前まで行けるようになっていた。エンジンを切ると、あたりは静寂に包まれた。他の宿泊客は二組あるようだった。クルマが2台、停まっていたからだ。

「ホールデンか?古い型だ。もう1台はマツダのレビューだな」

 オーストラリアでは、不思議なことにマツダのレビューの中古車が多いことに阿部は気が付いていた。

「マツダ121ね。かわいいクルマね」

「ああ、でも日本では売れなかったんだ」

「そうね?ヨーロッパでは人気あったね」

「まあな。実際、外観を変えただけのデミオっていうのは日本でも売れたからな。素性はいいクルマなんだろうさ」

 マリアが部屋のドアのロックを外すと4人は部屋の中に入った。

「へえ、広い部屋じゃん」

 エツコは中を見回した。

「ベッドが2つ。ソファーが一つ。あれはソファーベッドになりそうだわ。でも一つ足りないね」

 そう言ってヒデを見た。

「オレを見ながら言うなよ、エツコ」

「マリア、阿部さんと同じベッドでいいね。だからヒデさん、ソファー使っていいね」

「それでも下僕扱いですか」

 笑いながらヒデは自分のバックパックをソファーにどすんと置いた。

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