「サクリファイス(生贄儀式)」の使用は、断固拒否!!!
よろしくお願いします!
俺は、転生した。前世で何をしていたかとかは、どうでも良いだろう。俺の異世界においての生活には関係ない。重要なのは、この世界で生き方だ。
転生後の世界は、剣と魔法の世界だった。ファンタジーランドと呼ばれるこの世界は、魔王軍との戦いに明け暮れている。平和だった前世とは大違いだ。
貴族にでも産まれれば一生不自由しなかったに違いないが、残念ながらそこにオープニングボーナスは振られなかったようだ。ゆえに、俺は勤労を強いられることになった。
このクソッタレみたいなファンタジーランドでも、ひとつ前世よりもマシなことがあった。それはスキルの存在だ。王様でも、一般人でも、奴隷でも、スキルが与えられる。
そのスキルは、剣や魔法だったり、武器作りだったり、料理だったりする。ファンタジーランドの住人は、スキルを使用して生きていく。
つまり、スキル=職業と考えるとわかり易い。俺の一生がスキルで決まるわけだ。
スキルの判定は、15歳の誕生日に行われる。それはスキルは生来的なものと、後天的なものの複合で決まるため、ある程度の年齢を過ぎないと、正確なスキル判定ができないことにある。そして、俺は15歳の誕生日を迎えた。
「おお、このスキルは!?」
スキル判定士は驚きをあらわにした。スキル判定士もスキルの1つだ。そして、重宝されているから、食いぱっぐれないことを考えれば、俺が所有したいスキルナンバー1だ。
「オレのスキルはなんだ?」
「うむ……運命を感じざるを得ない」
スキル判定士は更にもったいぶった。白い顔が血色ばってピンク色に染まっていた。一方、俺はいらいらをつのらせていた。
「もったいぶるのはいい加減飽きたよ」
「おお、すまん。心して聞け」
スキル判定士は告げる。
「おぬしのスキルは、サクリファイスだ」
「サクリファイス? なんだ、それは?」
初耳のスキルだった。俺もこの世界で生まれ育って15年だ。スキルについては、それなりに知っている。それでもサクリファイスというスキルは聞いたことがなかった。
「耳慣れぬのも無はない。このスキルは、わたしとて古文書の文献で読んだだけだからのう」
スキル判定士は、感慨深げそうだった。
「それで、そのサクリファイスとやらは何ができるんだ?」
「――何でもできる」
スキル判定士は、良くわからないことを告げた。
「ははは、何でもとは大きく出たな。それなら、俺は明日から大金持ちになれるわけだ」
スキル判定士は、俺をからかっているのだろう。そう考えて、俺は笑い飛ばした。
「望めさえすればな。それだけではない。この世の支配者になることも、魔王を倒すこともできる」
「魔王さえ? それはちょっとからかい過ぎだ」
スキルとは万能ではない。むしろ、色々と制約がある。剣のスキルを得たとしても、それだけで一流の剣士になれるわけではない。何十年もの努力の末に、一流の剣士になれるのだ。しかも、一流の剣士になっても高ランクの魔物を倒せるのはその一部だ。無論、剣士一人で魔王を倒すなんて不可能だ。人間の限界を超えている。
「嘘ではない。過去のサクリファイスの保持者は、その願いにより魔王を倒している」
スキル判定士はおごそかに、だがゆっくりと告げた。どうやら嘘を言っているわけではないらしい。
「へー、それはいいことを聞いたよ。それなら、サクっと魔王を倒してみようかな」
俺は目を細めて、スキル判定士を見据えた。スキル判定士は萎縮するでもなく、頭を振った。
「あわてるでない。望めばと言ったが、もちろん無条件というわけではない。対価が必要だ」
「対価?」
俺はスキル判定士の言葉をオウム返しする。
「サクリファイスとは別名、生贄儀式。儀式として生贄を捧げることで、自らの望みを叶えるのだ」
「生贄だって!?」
俺は大きな声を出した。このとき俺はサクリファイスというスキルの全体像を理解していた。
「そして、捧げる生贄が自らが大切にしている程に、大きな望みが叶う」
「俺に大切な人を生贄にして世界を救えと言うのか!!」
俺は激昂して机を叩いた。机上のガラス玉が空中に一瞬浮かんだ。
「人とは限らん。大切なものであれば何でも良い。例えば、おぬしが首に下げているペンダントでもな」
ぎょろりとスキル鑑定士は、俺の胸元に赤く輝くペンダントを見据える。不安を覚えた俺は、その視線を遮るために、ペンダントを手の平に隠す。
「強制はせん。選択するのはおぬしだ」
落ち着いた口調のスキル判定士とは対照的に、俺の血管はたぎっている。心臓が高く跳ねて、身体中を熱い血潮が流れる。
「選択? 選択だって? それならもう選択しているさ」
口角につばを飛ばして二の句を継げる。
「サクリファイス(生贄儀式)」の使用は、断固拒否!!!
人には幸せになる権利がある。それが俺が前世で学んだことだった。前言撤回。前世で何をしていたかとは関係なくない。俺は前世では決して人を不幸せにすることを願ったことはなかったし、自分を不幸せにしようと思ったこともない。結果的に前世ではトラックに引かれて死んでしまったので、大往生とは言えず、親しい人たちを不幸せにしてしまったかもしれないが…。それは俺の後悔であり、教訓でもあった。
だからこそ、俺はこのファンタジーランドでは幸せになりたいのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!