第九十七話 それぞれの思考(二)
レジスタンス達と戦った翌日。僕は、まだ痛む腹を撫でながら、報告書を読んでいた。
一つの中隊が、半分ほど壊滅。しかも、レジスタンスのほとんどに逃げられた。この失態は、さすがに不味い。
「うーん、どうしよっか?」
上への報告は必要だ。しかし、この報告だけというのはよろしくない。せめて、何かしらの成果を上げてその報告もセットで行うべきだろう。
「確か、レジスタンスのアジト候補はまだあったよね?」
「はっ! 後十ヶ所ほどを割り出しておりますっ」
顔面に引っ掻き傷のある一番中隊の中隊長に尋ねると、ハキハキとした答えが返ってくる。
現状としては、レジスタンスのアジトの特定、及び、速やかな殲滅が目標とされ、そのために僕の大隊が派遣されている。レジスタンスのアジトの候補として上げられているのは、使われなくなって久しい空き家や、不審な人間が出入りする建物といったものだ。元々は五十ヶ所以上あったものを、しらみ潰しに探していたのだが、ようやくアジトを見つけたかと思えば、この失態。これを取り戻すには、レジスタンスの他のアジトを壊滅させるよりほかなかった。
「じゃあ、そこ、全部を今日中に潰そうか」
「はっ、しかし、アジトかどうかの特定はすぐにできるものではありませんが?」
今までの四十ヶ所を調べるのは、確かに時間がかかった。中隊長の懸念も分からないでもない。しかし、今回はそんな生易しいことを言っているのではない。
「だから、潰すんだよ。アジトかどうかなんて、後で調べれば良いだろ? 今日の夜、同時刻に、そこに火を放つ。良いな?」
「ははっ、承知いたしました!」
どこか顔を引きつらせながら答えた中隊長。僕は、そんな中隊長を無視して、立ち上がる。
「それと、二番中隊の報告はまだか?」
「はっ、そろそろのはずですが……」
二番中隊には、あのレジスタンスのアジトとなっていた『リリナのバー』を調べさせている。もしかしたら、何か手がかりがあるかもしれないため、念入りな調査を敢行しているのだ。しかし、中隊長の報告を聞く限り、まだ帰ってきてはいないらしかった。
「そうか、なら、帰ってきたらすぐに僕のところに来るよう「失礼します! 二番中隊、帰還しました!」……どうやら、帰ったみたいだね」
噂をすれば何とやら。優秀な二番中隊は帰ってきてくれたらしい。扉などないこの部屋に入ってきた男は、先日の作戦では別行動を取っていた中隊の中隊長だ。もちろん、その顔には引っ掻き傷などない。
「報告しろ」
「はっ! 対象の建物の捜索結果、あの場には非戦闘要員ばかりが集まっていたものと思われます。遺体を確認すると、それらは元サナフ教国の貴族であることが分かりました」
「そう、それで、あの猫の形を取った魔物については?」
「それが……全くの不明です」
「不明?」
貴族のことなんてどうでも良い。僕が知りたいのは、あの猫のことだった。しかし、二番中隊長はその情報を持っていないと言う。あれだけの戦力の情報が、レジスタンスのアジトに残されていないと言う。
「ふーん? もしかしたら、あれはレジスタンスの切り札だったのかな?」
「その可能性は高いものと思われます」
考えられるのは、あの猫の存在が厳重に隠蔽されているということ。それほどまでに、重要な存在であるということ。
「なら、きっと、全てのアジト候補を焼き払えば出てくるよね。ふふふっ、今度は、そう簡単にはいかないよ」
僕にダメージを与えたあの猫に化けた魔物は、絶対に生きたまま捕らえよう。そして、僕が屈服させて、僕の使い魔にしてやろう。あぁ、今から夜が楽しみだ。
二人の中隊長が青ざめる中、僕は楽しく仕事に取りかかるのだった。




