第八十二話 リリナのバーにて(二)
全ての追撃を華麗にかわし、我輩、走った。地下の入り口があるはずの奥の部屋へと。しかし……。
「にゃにゃっ(地下への入り口が閉まっているのだっ)」
よくよく考えれば、当たり前のことだ。人間は、とにかく良く扉を閉める。そのせいで我輩達猫が閉め出されるにもかかわらず、関係ないとばかりに閉めてしまう。開けるためには、扉をガリガリ引っ掻いて開けてほしいことをアピールするほかない。
ただ、今は、そうするだけの余裕がない。
「にゃあっ(どうするっ)」
「この猫めっ」
若干血走った目で我輩に飛びかかった老人を華麗に避け、我輩、バルディスの方をチラリと見る。
「にゃにゃー(多分、ご老人の体の下に扉があるのだ)」
我輩ではどうしようもないことならば、バルディスに頼るしかない。
我輩、顔面を床にぶつけて悶絶している様子の老人に背を向け、またしても走る。
「大丈夫ですか? ご老人?」
バルディスが老人を助け起こそうとしているのを横目に、我輩、ディアム達の手を逃れる。しかし、そんな時、ふいに表が騒がしくなってきているのを感じ取った。そして……。
「我らはミルテナ帝国騎士団っ! ここはレジスタンスのアジトである疑いがあるっ。全員、動くなっ!」
ドカッと蹴り破られた扉。その先には、宣言通り、ミルテナ帝国の騎士達が居て、雪崩れ込んできていた。しかも、見えてる範囲だけで十人以上。
「っ!?」
老人は青ざめるが、バルディス達は慌てる様子もなく、ミルテナ帝国の騎士に従うそぶりを見せる。
我輩はどうするべきだろうかと一瞬考え、すぐに物陰に隠れることにする。そうして、気配を消し、前に使用したことのある『闇化』を使用してしまえば、完璧だった。
「おいっ、じじいっ、さっさと立て!」
老人は蹴り上げられ、呻き声を上げながらヨロヨロと立ち上がり……その目に、強い意志を宿す。
「教皇様万歳っ! サナフ教国に栄えあれっ!」
ビリビリと響く大音量で叫んだ老人は、目の前に居た騎士へと隠し持っていたらしいナイフで斬りかかる。
「ガフッ、こ、この、糞じじいがぁぁっ!!」
しかし、ナイフは致命傷を与えるに至らなかった。ジンワリと血が滲んではいるものの、それだけ。老人の行為は、目の前の騎士を激昂させるのみだった。
騎士は、即座に老人を掴み、その顔に容赦ない拳を降り下ろした。




