第六十一話 アルトルム王国の病
涼しい風が肌を撫で、通り過ぎて行く石造りの街中。活気が徐々に戻り、人々の目に光が宿り出したそこを、一匹の紳士服を着た白猫、タロがゆっくりと歩く。
「にゃあにゃー(それにしても、飼い主はどうしているのであろうか?)」
事件が一段落して、考える余裕ができたタロは、飼い主のことをどうしても考えてしまう。
《やぁタロさん。元気にしてるみたいだね》
「にゃ!? にゃあ? にゃーにゃ?(うわっ!? ん? その声はセイクリア?)」
《うん、そうだよ。覚えてくれてて嬉しいよ》
突然頭の中に流れ込んできた声に、タロは少し跳び跳ねたものの、その声の主を思い出して冷静さを取り戻す。
《今日はね、欠片を回収してくれたことだし、タロさんの飼い主のことを教えようかと思ってね》
「にゃにゃっ!? (飼い主のことっ!?)」
《うん、今聞く?》
「にゃあっ(もちろんなのだっ)」
あからさまにキラキラと目を輝かせて鳴くタロは、端から見たらおかしな猫でしかないが、タロはそのことに気づくことなく尻尾をフリフリとして喜びを表す。
《じゃあ、報告するね。タロさんの飼い主の近況は、まず、あの辺りでは最難関の高校にトップで入学をしたようだね。そして……えっと、生徒会長に難癖つけられて、ことごとく打ち負かした?》
どうやら報告書を読み上げているらしいセイクリアは、書かれている内容の突飛さに疑問符を浮かべながら読み上げる。
《入学一ヶ月で信奉者が全校生徒の半数を越えた? 生徒会長の逆恨みで雇われて襲ってきた大人を全て打ち倒した? 生徒会選挙に立候補して、会長になるのが確実と言われてる? えっ、何これ、この人がタロさんの飼い主?》
「にゃあにゃっ(さすがなのだ飼い主っ)」
《あっ、うん、間違ってないのか……すごいね、タロさんの飼い主って》
「にゃあ(うむ、飼い主はいずれ、日本を掌握する人なのだっ)」
《そ、そっか……それじゃあ、また新しい更新があれば教えるね》
しどろもどろになったセイクリアは、そう言い残すとそのまま念話を切る。またしても、ロムにタロと話をさせることを忘れたまま……。
「にゃあ……にゃっ(飼い主が頑張っている……なら、我輩も頑張らなくてはっ)」
気合いを入れるタロは、有り余る感動を原動力にして走り出した。
「にゃー(バルディス、我輩、来たのだ)」
そこは、アルトルム王国の関所。そこには、黒いフードを被った魔族の三人と、チャーが居た。
「あぁ、それじゃあ、チャーと話してこい」
「にゃ(うむ)」
バルディス達は、今後、故郷に帰るべく旅をするらしい。そして、タロ自身も、欠片を探すべく旅をしなければならない。だから、タロはしばらくバルディス達についていくことにしたのだった。
「にゃあ(チャーよ)」
「に、にゃあ。にゃーっ(し、師匠ー。俺、俺ーっ)」
「にゃ。にゃーにゃ。にゃあ(我輩は、旅に出るのだ。きっと、長くて危険な旅になるのだ。だから、チャーはつれていけないのだ)」
「にゃ、にゃー。にゃあ……にゃっ。にゃーっ(わ、分かってます。俺、足手まといだから……だから、師匠、お元気でっ。俺、またいつか会える日を待ってますからっ)」
「にゃ。にゃー(分かったのだ。またいつか会おう)」
そう、別れを済ませれば、タロはバルディス達の元へと向かう。
「にゃ(出発なのだっ)」
「あぁ、行こうか」
こうして、アルトルム王国を救った魔王と勇者は、共に旅に出るのであった。
「あっ、エルブ山脈はしばらくアルトルムの騎士が常駐して立ち入りを禁じているそうなので、迂回ルートとしてルーグ砂漠を越えますね」
「装備、調達完了」
「お、おう」
「にゃ(分かったのだ)」
ルーグ砂漠の脅威を知らないまま、一行は歩を進めるのであった。




