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我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)  作者: 星宮歌
第三章 セイクリア教国の歪み
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第二百一話 バルディスの冒険(六)

 ギルドの地下は、随分とだだっ広い場所となっていた。壁に統一した間隔で光石が埋め込まれているおかげで、わりと明るい。ただ、魔物の査定を行う場所ということで、定期的に風魔法辺りで換気をしているのだろうが、それなりに鉄臭い。

 隅の方には、魔物の解体に使うであろう道具が取り揃えられていることから、ここは査定だけではなく解体もしてもらえる場所なのだということが容易に想像できた。そして、その一画に、取引所であろうカウンターが見える。……ただし、人の姿はない。



「誰も居ないのか?」



 誰かが常駐しているものだと思って来てみれば、なぜか人が居ない。一応、カウンターまで行ってみようと思って歩き出すと、ふいに声がかかる。



「おうっ、客か。なんだ? 査定と解体、どっちだ?」



 その声は、カウンターの方から聞こえてきた。そして、確かに人の気配も感じたのだが、やはり、姿が見えない。



「どこに居るんだ?」


「ん? おぉっ、すまんすまん。ここだ、ここ」



 そう言われて目を凝らすと、カウンターから手だけが見えた。どうやら、カウンターよりもその人間は背が低いらしい。



「……ドワーフか?」


「違うわっ。俺は純然たる人間だっ」



 単純に背が低い種族の名前を口にすれば、即座に反論が返ってくる。その素早さから、ドワーフと間違えられたのがこの一回ではないことが見てとれる。

 カウンターまで辿り着き、その内側を覗いてみると、そこには確かに男が居た。ただし……。



「子供?」


「それも違うっ。俺は今年で二十歳だっ」



 そこには、どう見ても十くらいにしか見えない人間が居た。クリッとした黄色の目に、フワフワとした天然パーマの茶髪。頬もふっくらしていて、触り心地もモチモチしていそうだ。その人間が、頬を膨らませて自分は大人だと宣言する。



「………………そうか」


「間が長いっ! 信じてないだろっ、それっ!」


「いや、信じてるつもりだぞ? 一応」


「一応ってなんだっ! 一応って!」


「とりあえずという意味だ」


「そういうことが聞きたいんじゃねぇっ」



 ちょっとからかってみると、案外食い付きが良い。しかも、他の冒険者にもさんざんにからかわれてきたのだろう。返しが鋭くて何となく心地良い。



「それは置いといて、解体と査定、どちらも頼む」


「っ、くそっ、どいつもこいつもからかいやがって。あぁ、分かった。それなら道具に近いところに運んでくれ」



 言われて、俺はすぐにジャイアントスコーピオンを出す。それも、十四体全てだ。



「……これ、お前、狩った?」



 十四体のジャイアントスコーピオンを前に、自称二十歳の男はディアムのような口調になってカクカクと問いかける。



「あぁ、狩りたてホヤホヤだ」


「狩りたて、ホヤホヤ……」


「あと、依頼書の不備で三体討伐のところが十四体になったから、その証明をしてもらいたい。現物をここに出したんだから、証言してもらえるだろう?」


「お、おう……って、三体が十四体!? どこからの依頼だそりゃっ」



 ようやく正気に戻ったらしい男に問いかけられて、俺は正直に聖騎士長からのものだと答える。



「あー、そうか。最近、聖騎士長から出される依頼に不備が多いとは聞いていたが……まさかここまでとは」


「そんなに多いのか?」



 尋ねてみれば、聖騎士長からの依頼がおかしくなったのは、『宵闇の一日』の後なのだそうだ。ギルドでは、『宵闇の一日』以降、魔物が活発に動いているせいで、調査を終えてすぐに依頼書を発行するわけではない聖騎士長からの依頼に、不備が生じるようになったのだと認識されているらしい。



「まぁ、話は分かった。こりゃあ、ギルマス案件だろうから、そっちに伝えておく。解体作業と査定に関しては、明日の朝以降に来てもらえたら大丈夫だ。それまでには仕上げておく」


「分かった」



 その後、しっかりと手続きを済ませた俺は地下から出る。



「あっ、バルさん。終わりましたか?」



 そして、地上に戻ったところで、なぜか、受付嬢が待ち受けていた。



「あぁ、終わった」


「で、では、この後、暇があるなら、なんですけど、これからご一緒に食事でもしません? 受付業務はもう、私は交代なので、その、どうですか?」



 上目遣いで見つめてくる受付嬢に、俺は首をかしげる。そして……。



「悪いが、用事がある」


「そうですか。……では、明日はどうでしょうか?」



 なぜか必死に俺と食事に行きたがる受付嬢を不審に思いながら、俺は即座に答えを出す。



「しばらく忙しい。無理だ」


「そ、そうですか……その用事はいつごろ終わりそうですか?」


「……なぜそれを話す必要がある?」



 随分と粘る受付嬢に、俺は自分が魔族だとバレたのだろうかとヒヤヒヤする。



「えっ? えっと、それはですね。是非ともバルさんと親交を深めたいなぁ、なんてっ」


「不要だ。用がそれだけなら、俺は帰る」


「えっ? あっ、待ってくださいっ。その、時間がある時で良いので、ギルドマスターに今回の件の話をお願いしますっ」



 そちらの方が重要なんじゃないかと思いながらも、俺はそれに了承を返す。下手に断って調べられでもしたら大変だ。俺は、このギルドには、用がない限り近づかないようにしようと、決心するのだった。

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