第百七十四話 思わぬ存在
我輩、挨拶をしてさっさとここから出ようと思って、箱から出ると、直後、硬直してしまう。
「に、にゃあ? (あ、あなた方は?)」
そこには、様々な年齢幅のある老若男女がずらりと並んでいた。……ただし、全員、半透明で。
「悔しい、悔しい」
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い」
「あの男ども、殺してやる」
「まぁまー、たすけてよーっ」
「やめてやめてやめてやめてーっ」
「痛いよぉ、痛いよぉ」
何やらとんでもなく物騒な言葉が聞こえ、そして何よりも彼らが全て死人であることが分かるだけに、我輩、ここで何があったのかと首をかしげる。
「にゃー? (そこのご老人、ここで何があったのだ?)」
錯乱した者が多い中、我輩、その中でも落ち着いた様子のご老人に声をかける。すると、ご老人は濁った瞳で、我輩の方を振り向き、すぐにその目を輝かせる。
「おぉ、ブチ。無事じゃったか! ここは危険じゃ。悪い男どもがおる。早く逃げるんじゃっ」
ご老人は、我輩のことが別猫に見えているらしく、親しげに、そして悲しげに逃げろと言ってくる。やはり、ここには何かあるらしい。我輩の直感は、それを突き止めろと言っている。
「にゃーにゃ。にゃあ? (我輩、何が起こったのか突き止めなきゃいけない気がするのだ。ご老人、教えてはくれまいか?)」
我輩の言葉が通じているかは分からない。通じてくれていれば良いなとは思うものの、通じないのが常であるため、対処法だって分かっている。甘え倒して、色々要求すれば大抵、分かってくれるのだ。
「ブチ、ここにはの、人を拐って殺す悪い奴等がおるんじゃ。ブチは猫じゃから殺されんという保証もない。じゃから、ちゃんと逃げるんじゃ」
真剣な顔で我輩に告げるご老人。言葉が通じているかどうかは分からないものの、これで、状況は分かった。つまりは、我輩は迷子になったわけではなく、我輩のプリティなボディに嫉妬した者達が、我輩を拐って殺そうとしているのだ。それは、断じて許されることではない。
いや、それ以前に、もしかしたらここに居る者達は皆、その男どもに殺された者なのかもしれない。そうとなれば、我輩にしでかしたこと以上に許されないことをしているということだ。
「にゃっ。にゃあにゃっ(分かったのだ。我輩が絶対、確実に奴等を後悔させてやるのだっ)」
半透明な者達は一様に苦しんでいる。その中には、幼い子供も、若い男女も居る。こんな非道を、我輩、許してはおけなかった。
我輩、心を鬼にして、その男どもをこてんぱんにすると決め、慎重に歩き出すのだった。




