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我輩は紳士である(猫なのに、異世界召喚されたのだが)  作者: 星宮歌
第一章 アルトルム王国の病

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第十五話 魔王と勇者

 我輩、頑張った。食い気味に質問をしてくる魔王、バルディスに対して、懸命に分かる範囲の答えを出した。そして、そこで、我輩、気づいたのだ。



 もしかしたら、我輩、普通ではないのだろうか?



 そう思う原因は、マウマウとの戦いを話した時の反応だった。顎が外れそうな程にパカリと口を開けたバルディスの反応は、やはり、普通ではないと思うのだ。

 ラーミアとディアムに関しても、我輩が特にバルディスの魔法で、何らかの守りを得ていたわけではないと知り、混乱しているようであった。



「つまり、だ。俺が普通の猫だと思ったお前は、普通じゃないってことだな。……なぁ、この猫、何だと思う?」


「……生物兵器?」


「にゃっ。にゃにゃあっ(失礼なのだっ。我輩、至ってまともな猫なのだっ)」



 ただ、普通じゃないことを何となく察知したとしても、面と向かって言われるのは気に入らない。それに、我輩の世界ではネズミを狩るのは当たり前なのだ。だから、我輩、何もおかしくはないのだ。文化の違いというやつなのだ。


 我輩、必死にバルディスに向かって物申すが、バルディスは全く聞いていない。我輩を奇異の目で見て、何やらああでもないこうでもないと話し合っている。



 ううむ、ここは、我輩がしっかり自己紹介すべきなのやもしれぬのだ。



 要するに、バルディスらは我輩のことを知りたいだけなのだろう。で、あるならば、隠す必要などありはしない。我輩のありのままを伝えることとしよう。



「にゃーにゃにゃ(そんなに我輩のことが知りたいのであれば、改めて自己紹介するのだ)」



 そう言えば、バルディスはようやく我輩の話を聞く気になったらしい。そして、通訳を行うから、ゆっくり話してほしいとも頼まれる。



 うむ、善処するのだ。



「にゃあ。にゃ(我輩は紳士である。名前はタロ)」


「えーっと、『我輩は紳士である。名前はタロ』」



 バルディスが我輩の言葉をラーミアとディアムの二人に聞かせると、またしても我輩は口を開く。



「にゃにゃにゃ(勇者召喚とやらで召喚された、ただの白猫なのだ)」


「……は?」



 最後まで自己紹介を終えたところ、バルディスは先程マウマウを倒したことを話した時と同じくらいに口をパカリと開ける。そして、我輩の言葉が分からない二人は、そんなバルディスの様子を不安げに見つめている。



 我輩、何も変なことは言っていないはず……となると、レディに不安を与えるなど、言語道断っ!



「にゃっ(これっ、我輩の言葉をしっかり伝えるのだ)」



 我輩、テシテシとバルディスの足を前足でつつく。が、反応はない。



「バル? その猫は何と言ったのですか?」


「説明、求む」



 ラーミアとディアムにも催促されるバルディスだが、やはり、呆然としたまま反応はない。



「にゃあ。にゃ…(むむ、強敵なのだ。ならば…)」



 仕方ない。我輩の必殺技が必要なのだ。



 そう思い、我輩、前足の爪を立てる。そして……。



 ガリッ!



「いっ!?」



 多少手加減して、我輩、バルディスの足を引っ掻く。すると、さすがに痛かったのか、バルディスはちゃんと反応を返してくれた。



「にゃあ。にゃーにゃっ(しっかりするのだ。レディを不安にさせるなど、男の風上にも置けないのだっ)」


「はっ? レディ? そんなのどこに……ぐはっ」



 と、バルディスを睨んでいると、なぜか、いきなり腹を押さえて呻く。



 ……いや、分かってはいるのだ。ちゃんと、我輩、見ていたのだ。ラーミアがバルディスの腹を殴る瞬間を…。



 少しばかり衝撃的な光景に、軽く現実逃避をしたくなりながら立っていると、どことなく冷たい空気を纏ったラーミアが可憐に口許を押さえる。



「あら、手が滑りましたわ。ふふふっ」


「同情、余地なし」



 目が、目が、笑ってないのだ。我輩、絶対ラーミアには逆らわないのだっ。



 そんな決意を胸に、我輩、ラーミアから視線を反らす。



 決して、ラーミアが怖くてそうするわけではないのだ。本当なのだっ。



「す、すまなかった!」


「ふふふ、何のことか分かりかねますわね。ですが、言葉には充分注意なさいませ」



 ……やはり怖いのだーっ。



 とうとう、我輩は全身の毛を逆立ててしまう。本当に、本当に、怖いのだっ。



「ラーミア、猫、怯えてる」


「あら、私としたことが。ごめんなさいね」



 我輩、ラーミアに抱き上げられ、頭を撫でられる。しかし、我輩の全身の毛は、意に反して逆立ったままだ。怖かったから仕方がないなど、絶対に言うわけにはいかないのに、どうすることもできない。我輩にできることは、ただただ大人しく撫でられるのみだ。



「それで、バル? なぜこの猫の言葉の通訳を途中でやめたのですか?」



 我輩が大人しく縮こまっていると、ラーミアはバルディスを問い詰める。



 うむ、それは我輩も気になっていたところなのだ。我輩、変なことは言っていないはずなのだ。



「あ、あぁ、そうだった……とりあえず、落ち着いて聞いてくれるか?」


「えぇ」


「御意」



 二人の返事を受けて、バルディスは大きく息を吐く。そして……。



「こいつは、勇者召喚で召喚されたらしい」


「……バル、ごめんなさい。私が殴ったせいでおかしくなったのですね?」


「ポーション、治る?」



 バルディスは、全力の憐れみの視線を浴びる。その事態に、我輩、内心首をかしげる。



「ちょっと待てっ。別に俺はおかしくなったわけじゃないっ。その猫が本当にそう言ったんだっ!」



 ふむ、まぁ、バルディスが疑われるのはどうでも良いのだ。それよりも、我輩、ちゃんと自己紹介したのに、名前で呼んでもらえないのが寂しいのだ。



「にゃあ(我輩の名前はタロなのだ)」



 ポーションとやらを飲まされようとしているバルディスに向かって、我輩、自己主張をしてみるものの、バルディスはそれどころではないのか、見向きもしてくれない。



 それにしても……何だか眠くなってきたのだ。



 構ってもらえず、つまらないと思っていると、懸命に走り回った疲れが出てきたのか、我輩、強い睡魔に襲われる。



 むむ、少しだけ…少しだけ、眠るのだ。何やら我輩にも質問があるらしいこの三人ならば、我輩が眠っている間に居なくなることもないであろう。



 そう思い、我輩、大きくあくびを一つすると、ポカポカ暖かく、陽当たりの良い窓辺で丸くなる。



 それでは、おやすみなのだ。



 そうして、我輩は、まだ何やら言い争っている三人に構うことなく、心地好い眠りについたのであった。

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