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第二話【当たり前の日常・裏】

皆さんは朝ごはんを食べる派ですか? それとも食べない派?


僕は朝からガッツリ派です(*´ω`*)


 聞き慣れた声と、身体を揺さぶられる感覚。

 それは回数を増すごとに強くなっていき、声色も険しいものになっていく。


「起きて、大和にぃ! 朝礼に間に合わなくなるよ!」


「······んぅ······朝飯抜くから、もう少し寝かせてくれよ······」


 剥ぎ取られそうな毛布をどうにか死守しながらそう答えると、一気に毛布を剥ぎ取られてしまった。


「京都を出る前、ちゃんと朝ご飯は食べるようにって、清一郎おじいちゃんに言われたでしょ?」


「亀爺の言う事なんて気にしなくても良いだろう?」


 取られてしまった毛布に手を伸ばすも、サッと引っ込められてしまう。


「ダーメ! ほら、早く準備して行こう? 私、お腹空いてるんだから」


「ったく、優希はしつけえなぁ······分かったよ。食いに行きゃ良いんだろ?」


 どう抗議しても、毛布を返してくれる気配は無いので仕方なく身体を起こす。


 すると、勝ち誇った表情で笑みを浮かべる優希と目が合った。


「そうやって、始めから素直に起きれば良いのに」


「へいへい、飯食いに行ってやるから、いつもの口調を戻せ」


「はーい。黒木場大佐」


「階級で呼ぶな。隊長と呼べ」


 優希は、からかうような視線をこちらに向けて、反応を伺ってきたが、俺はそれをあえて無視してベットから立ち上がり、軍服が収められたクローゼットの前に向かった。


「もう、歯磨きしてからじゃないと、歯磨き粉が飛んじゃうよ?」


「俺はお前と違って不器用じゃねえから、そんなヘマしねえよ」


 洗面台の前で歯を磨いている優希を無視して、上着に袖を通す。


 服を着えた俺が歯を磨き終えると同時に、優希も軍服の着装が終了した。


「それじゃあ、食堂に行こう!」


 相変わらず朝から元気な優希は、自室の扉を開けて廊下へと出て行ってしまった。


 その後を追って自室を出ると、廊下で待っていた優希と目が合う。


「では参りましょうか、大和隊長」


「おう」


 先程より低い声で話す優希に、俺は短く返事をして食堂へと向かった。


 食堂に繋がる廊下を進む間に、何人もの兵達が壁を背に敬礼してくる。

 その度に答礼するのが面倒だが、一応規則なのでしなくてはならない。


 答礼しないと、主に後ろから付いて来ている奴がうるさいからだ。


「大和隊長、答礼の際は指をしっかりと揃えてください。隊員達に示しが付きません」


「へいへい、分かりましたよ、優······朝月少尉」


 呆れたような小さな溜息が背中の方から聞こえる。


 ようやく食堂に辿り着き、代り映えのしない人工的な食品から作られた朝食を済ませて、億劫ながら外に向かう。


 俺達が寝泊まりする穴蔵の外に出ると、昼夜変わることの無い、雲に覆われた暗い空が出迎えてくれた。


さみい······」


「摂氏九度だそうです。まだ夏ですし、今日はまだマシな方ですよ」


 俺の独り言を聞いた優希が、隣に立ってどこかで入手した情報を伝えてきた。


「なぁ優希。本で読んだんだが、旧時代では夏になると下着姿で海を泳いでたらしいぜ?」


「まさか、そんな冗談には乗りませんよ」


「いや、嘘じゃないっつーの」


 そんな談笑をしながら草木の無い荒野を歩き、すぐそこにある職場へと向かう。


 歩いて三分ほどの場所にある、各種のアンテナが屋根に設置された木造の建物の中に入り、管制室に割り当てられた一室の扉を開けると、すぐに声をかけられる。


「よう、大和隊長。相変わらず不機嫌そうだな」


「杉本か、寝起きだからな。で、夜番に異常は無かったか?」


 この会話は朝が弱い俺を揶揄う、杉本の毎朝の日課のようなものだ。


「野良の荒神が一体出て、駆除したぐらいだな。隊員、バリケード等に被害は出ていない」 


「杉本が出たのか?」


「あぁ、俺が出てすぐに片付けてきた」


「そうか、特記すべき報告は以上か?」


「そうだな、資源回収の班も無事に帰還しているし、他は特に何もない」


「了解だ。さっさとボードをよこせ」


「あいよ」


 杉本が手渡して来た引継ぎのボードを受け取り、これで責任者間による引継ぎが終了する。


「今日の回収も、大和隊長が出るのか?」


「あぁ。下手に死なれて、始末書なんて書きたくねえからな」


「はぁ、ご苦労なこって」


「うるせぇ。そろそろ朝番の連中の整列が終る。さっさと朝礼に行くぞ」


「りょーかい。そんじゃ、行きますかねえ」


 俺と杉本は管制室から出ようとすると、扉の前で本部から送られてきた通知書類に目を通していた、優希がそれに気が付いて開けてくれた。


 皆が整列して待つ広場に向かう最中に、優希が目を通し終えた書類の束を俺に渡して来た。


 バインダーに留められた書類には、重要な場所に蛍光ペンで印がつけられている。

 これは朝礼の時にすぐ話せるよう、優希なりの気遣いだ。


 軽くそれらに目を通し、俺と杉本は一段高い壇上に立つ。


 こんな当たり前の日常が、これからずっと続くんだと思っていた。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

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