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第一話【当たり前の日常・表】

最近、書いてる時に太ももが良く攣ります(ノД`)・゜・。




 ありふれた日常が、一秒、また一秒と、刻まれていく。


 白色のチョークが黒板を走る音。


 窓の外からは、グラウンドで球技に興じる者達の声が聞こえていた。


 先程まで古代ギリシャの話をしていたはずなのだが、ふと外を眺めているうちに話題は十九世紀の人物に変わっていた。


 気分はそう、まるでタイムスリップしてしまったような気分に陥ってしまう。


「ハインリヒ・シュリーマンは、ドイツの考古学者であり実業家だ。十三歳の頃から徒弟として働きに出て、仕事の合間を縫って十五ヵ国語をマスターした。その後、紆余曲折はありながらも、彼は優れた言語能力を駆使して商社を立ち上げ、クリミア戦争での武器の密輸入で巨万の富を得たんだ」


 世界史担当の小柳は、教室の最前列に居る生徒にプリントの束を配りながら、器用に説明を続けている。


「そして、莫大な富を得たシュリーマンが行った事は、トロイアの発掘調査だったんだよ。ここで、話は古代ギリシャに戻るんだ。彼がトロイアの場所を特定するためのカギになった物は何だと思う?」


 その問いに答える生徒は居ない。だが、それを気にする様子も無く小柳は説明を再開する。


「それはね、ホメーロス作のイーリアスなんだ。その概要をまとめたものが今、君たちに配ったプリントに書いてあるから読んでみてくれ」


 プリントには、イーリアスと題が打たれた文章が印刷されていた。


「シュリーマンは、イーリアスの中にあるトロイア戦争の記述を元にトロイアを発見したんだ。もうこの頃には本になっていたけど、元々は、全て口承で語り継がれてきたものなんだよ。もちろんシュリーマンは全て暗記していた。それも、複数の言語でね」


 昨日は寝不足だったため、眠たい目を一度だけ擦って話を聞いていると、どうやら試験に出すらしい。


「古代ギリシャの吟遊詩人、ホメーロス作の物語でテストに出るのは二つ。先程紹介したイーリアスと、オデュッセイアだ。これは大学の入試なんかでも出題される事もあるから覚えておくように」


 受けもしない大学入試の事を考えて居ると、隣に座る天野あまの 照美てるみによって折りたたまれた紙が机の上に投げ込まれた。


『まるで、あの月の小娘と其方の関係のようじゃな(´∀`*)ウフフ』


 ご丁寧に顔文字まで書かれているが、その時は何のことだか理解できなかった。


 だが、その謎は小柳の手によってすぐに解決した。というかプリントの下の方に書いてあった。


「補足になるが、オデュッセイアはイーリアスの中のトロイア戦争に出てくる、英雄オデュッセウスの物語なんだ。あらすじとしては、トロイアから凱旋しようとしたオデュッセウスが海神ポセイドンに邪魔されながらも、婚約者ペーネロペーの下に十年以上の月日をかけて、帰還する物語なんだ。興味があったら読んでみると良い。時間も丁度良いし、今日はここまで!」


 そう言い終えると同時に、四時限目の終了を告げる鐘の音がスピーカーから流れ始めた。


 日直が皆を立たせて礼をすると、昼休み時間が開始される。


「それで、俺がオデュッセウスってか?」


 俺は隣でニヤニヤと笑みを浮かべている女にそう問いかけると、休み時間の喧騒に紛れるように口が開かれた。


「そうじゃ、長い年月を越えて小娘の下へと戻ろうとする其方の姿は、さながら英雄様のようじゃと思うてな」


 そう言って口元を手で押さえ、クツクツと天野 輝美は笑う。


「ちっ、俺はそんな大層な人間じゃねえよ······それより天照あまてらす、取り合えず飯だ、岩本の奴を誘って学食に行こうぜ?」


「これ大和、学校ではその名で呼ぶなと言っておるであろう」


「別に良いだろ。岩本の話だと学校で俺は中二病患者って呼ばれてるらしいからな」


「なんじゃ、その意味を知っておるのか?」


「変な言動をする奴の事だろ?」


「間違ってはおらぬが······まぁい、妾も腹が空いた。学食に参ろうぞ」


 天照はどこか引っかかる様子だったが、腰かけていた椅子から立ち上がると、大きく伸びをした。


「妾が席を取っておいてやる。徹夜ごときで授業中から寝ておるアフィカスを起こして来るが良い」


 天照はそう言って掌を振りながら教室を後にした。


 俺は机に突っ伏して眠る岩本に歩み寄る。全く動きが無いため死んでいるようにも見えるが、微かに寝息が聞こえいる。


 こいつは睡眠時無呼吸症候群ではない。人を体型で判断してはいけない例だ。


「おい、起きろ岩本。学食に行くぞ」


「う、うーん······大和氏、何の用でござるか? 拙者は徹夜明けで眠いのでござる······どうか屍は越えて、って痛い、痛い、痛いでござるよ!」


 少しだけ面倒になってきたので、良く脂の乗った背中の肉を摘まみ上げると、すぐに岩本は肉を弾ませながら椅子から跳び起きた。


「何するでござる! ポッチャリは皮が余って無いでござるからすごく痛いんですぞ!」


「誰がポッチャリだ、全国のポッチャリに失礼だろ。謝罪しろ」


「はうっ辛辣! 今、拙者が怒っていたのに大和氏は理不尽でござるよ! 全国のポッチャリさん、すまないでござる!」


 やり方はどうあれ、岩本が起きたので学食に向かう事にする。


「はいはい、俺が悪かったよ。天照が学食で待ってんだ。遅いと何言われるか分からねえから、さっさと行くぞ」


「ひっ、何でそんな恐ろしいことを早く言わないでござるか、急いで行くでござるよ!」


 岩本はそう言って小走りで教室を出て行ったので、俺はその背中を追う事にした。




 廊下を走っているその時、ふと記憶が蘇る。


 そう言えば、毎日あいつとも食堂にかよっていたと。


 それは、今となっては遠い昔のような気がする。


 いや、きっと遠い未来の記憶と言った方が、正しいのだろう。


 そんなことを考えながら俺は、遠く離れてしまった未来に思いを馳せるのだった。


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