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こちら超能力相談係 「テレポートと中二病」

作者: ばんがい

「おいこらっ山田!いい加減な聞き取りしやがって!団地の隣人がテレパシーで文句を言ってくると言われて行ってみたら、隣には誰も住んでいなかった時の恐ろしさをお前にも味合わせてやろうか!俺がパクチーの次にホラーが嫌いなことをお前も知ってるだろうが!」


ぶはぁと大きなため息を吐きながら自分の席に男が座り、机に突っ伏して、首だけを女の方に向けながら悪態をついた。


「神崎さんがタイ料理のパクチーをこっそり人の皿に入れる事と、怖い話がテレビで流れると慌ててテレビの番組変えてることは知ってます。でも今回のケースで行かなくて良い正当な理由は知りません」


パソコンをたたく手を止めることもなく山田と呼ばれた20代後半の女性が答える。


「大体、心霊現象も超能力も大した違いはないでしょう…」


その言葉を聞いて机に突っ伏す男、神崎は目をカッと見開いた。しかし姿勢は相変わらずだらけたままだ。


「てめえ山田ぁ!そいつは超能力差別だろ。

超能力者をお化けみたいな悪しき者と一緒にしてんじゃねえよ!」



あまり知られていないが、鹿児町は「超能力者誕生の町」である。

1980年、この大して見どころのない田舎町で突如として超能力に目覚める人が現れた。

しかも超能力者になったのは一人だけではなく、超能力者になる時期やどんな能力を身に着けるかも様々に、何人もの超能力者がこの日を境に現れ始めた。

この日まで超能力というフィクションだったものが現実になったことで、テレビの取材がやってきたりもして、一時期は「超能力で町おこし」をスローガンに町は大いに盛り上がった。


しかし、世界は何が起こっても日常へと戻っていく。

テレポートやテレパシーが使える人が現れたって電車は走るし、携帯だって普通に使われたままだ。

また、能力が高くて若い超能力者は手に入れた力で一旗揚げようと上京する者も多く、結果として超能力者が誕生する以前よりも若者が減ってしまった。

しかも、田舎のセンスで行われる町おこしは「超能力せんべい」と「超能力音頭」が精一杯だったのだ。


こうして、鹿児町は「見どころのない田舎町」から「超能力者が多く住む見どころのない田舎町」となった。

とはいえ何の変化もないように見える日常にも少なからず超能力関連のトラブルは増える。そういった問題の相談に乗って対応をする部署として役所に作られたのが、「超能力相談係」である。


「とにかく次の相談者が来てますから、早く対応してあげてください」


来客用の革張りのソファーに座っているのは中学生くらいの若い男だった。男は中肉中背で、特徴に欠けた容姿をしていたが、目は興奮しているのか瞳孔が開いていて、落ち着きがない。


「お待たせしました。相談課の神崎と申します」


「聞いてください!」


相談者の男は神崎が名刺を出すのも待たずに話しかけてきた。


「実はですね。昨日学校からの帰り道で車道に猫を見つけたんです。そこにトラックが突っ込んできて。僕は思わず、その猫を助けるために道に飛び出しました。猫はなんとか歩道に逃がせたんですが、トラックはそのまま突っ込んできて。これは死んだなと思いました。でも気が付いたら…」


男は前のめりになって神崎に話してくる。視線が熱い。


「知らないバス亭に立ってたんです」


話したい事を言い終わると、男はおそらく神崎が来る前に山田が出したであろうガラスのコップに入った麦茶を飲んだ。

少し落ち着いたようだが、まだ視線は熱い。


実は鹿児町にとって、こういうケースは初めてではない。この町に比べれば遥かに少ないが町の外で超能力者になる者もいる。そういった超能力者が吸い寄せられるように現れることがあるのだ。そういう人を見かけた時は相談係まで案内するように町の人には頼んでいる。


「なるほど。つまり、緊急事態に君のテレポート能力が発現した…」


「異世界転移ってやつですよね!!」


神崎の時間が凍った。超能力的な意味ではなく比喩的な意味で。


「まさか僕がこんな目に合うなんて!最初は中世ファンタジーかと思ったけど違うみたいだし。僕の中で何かチート能力が目覚めているんじゃ!」


「…ちょっと待っててくれるか」


神崎が席を立ちあがり、山田の机に向かった。


「どうしたんですか?相談はもう終わったんですか?」


「いや、まだだ。何というか言葉は通じるが言ってることの意味が一つもわからん。

もしかしたらあれが若者言葉ってやつなのかもしれん」


「はぁ??」


怪訝な顔をしていた山田だったが先ほど男がした話の内容を聞いて大きなため息をついた。


「異世界転移ってのは最近流行ってる小説の設定ですよ。多分彼は小説と似た体験をしたせいで勘違いしてるんです」


「なんだそりゃ?じゃあチートってのは?」


「異世界転移をした主人公は特別な能力を手に入れてることが多いんです。それをチートって呼ぶんです」


そう言って、山田がパソコンのモニターを神崎の方に向ける。

そこには異世界転移とタイトルが書かれた小説本がいくつも表示されていた。

言われてみると確かに本屋の平積みで見かけたことがある気がする。


「つまり、彼は現実と妄想の区別がつかなくなってるということか?」


「その言い方はどうかと思いますが、おおむねその通りです」


「とにかく、この後も知らん単語が出てきそうで怖い。すまんが、お前も同席してくれ。何もせんでいいから」


渋々ついてきた山田と一緒に神崎が男のところへ戻ると、男はテーブルの上のコップに両手をかざしてウンウン唸っていた。おそらく彼なりにチートを探しているんだろう。


男は神崎に気が付くとコップから視線を外して再び話し始めた。


「どうも神崎さん。さっきは突然失礼しました。びっくりしたでしょう?ぼくはツヨシって言います!実は僕、日本という別の国からやってきたんです!」


ため息をつきながら神崎はソファーに座りなおした。


「えっとツヨシ君?まず説明しておかなければならないんだが、ここは日本だ。異世界じゃない」


「それはつまり、パラレルワールドってことですか?」


「パラレル?いやいや、そういうのじゃなくて。君は超能力に目覚めたんだ。

知ってるだろ?超能力。君はテレポートの能力でここまで飛んできたんだよ」


少し面食らった顔のツヨシが神崎の顔を覗き込んでいる。


「でも、僕はテレポートなんてできませんよ?さっきも念じてみたけど1ミリも動いてませんし」


これもよくある話だった。緊急事態に超能力に目覚めるというのは火事場の馬鹿力のようなものだ。一度は凄い能力が使えても、その後は弱い力しか使えなかったり、それから一切使えない場合もある。

どう説得すれば良いのかわからなくなった神崎は助けを求めようと思って山田にアイコンタクトを送ってみたが、山田はこっちをチラリとも見ない。あれは無視だ。関わりたくないと態度が言っている。

神崎が山田に恨みがましい視線を送っていることにも気が付かず、ツヨシはそのまま話を続けた。


「それに、ここに来るまで外の風景を見てたんですけど、空はコウモリが群れで飛んでるし。手の平くらいある巨大バッタが突然道に飛び出してきたりするんですよ。あんなの、ぼくのいた世界の日本じゃ考えられませんよ」


その言葉に神崎の体温が上がった。鹿児町民は自分の町を田舎だとバカにして笑うが、他所から来た者がバカにすることを心底嫌うのだ。


「いるんだよ、異世界じゃなくても!考えられないくらい田舎で悪かったな!おい、ガキ。お前、住所はどこだ!あと電話番号も言え!」


男が神崎の突然の態度の変化に驚きながらも言った住所は都内のものだった。

もちろん鹿児町からはかなり離れている。


「おい山田!俺は今からこいつと出かけてくる。明後日には帰ってくるからな!」


そう言うと神崎はツヨシをひきずってそのまま出ていった。

山田はその突然の行動を黙って見送った。この後に相談者の予約は入っていないし、明日は休みだ。

つまり、山田にとって神崎がこの後どうしようが、全てどうでもいい事だった。



休み明け、山田が出社するとそこには休み前と同じような姿で机に突っ伏した神崎がいた。


「おはようございます神崎さん。あの後一体どうなったんですか?」


「おう、おはよう。ツヨシのやつ、いくら言ってもここは自分のいた世界じゃないって言い張ってただろ。だから違うって事をわからせる為に無理やり電車に乗せて地続きで家まで送り返してやった。18切符が残ってて助かったぜ。土産に饅頭を買ってきたから持って帰ってくれ」


山田の机の上に東京土産と書かれた黄色い紙袋がおいてある。


「それは、ずいぶん無茶をしましたね。強行軍というか荒療治というか。

それで?向こうは納得してくれたんですか?」


「おう、勘違いは早いうちに解消したんだよ。その後、電車に乗ってる間もずいぶん話しこんでな。景色見たり、一緒に駅弁食ったり。最後にはあいつもハマっちゃって、二人で時刻表見ながら最速のルート選んだりもしたな。また会いに行きますとか可愛いこと言ってたよ。あれはまちがいなく次の冬も来るぞ、電車で」


電車旅行を思い出して神崎がニヤニヤ笑いながら話しをした。


「なんというか、解決したことは良かったんですけど、テレポーターが電車好きって一番似合わない趣味を見つけちゃいましたね。どうせならテレポートが役に立つ趣味を見つければいいのに」


山田の軽口を聞いた神崎が少しだけ目を鋭くしてにらむ。


「おい、山田ぁ。いつも言ってるだろ。超能力を得たからってそれを絶対に使わなきゃいけないわけじゃ無いんだ。そんな考えをしてると、超能力を持ってないやつや弱い能力しか持ってないやつをバカにする気持ちが湧いてくる。そういったことがトラブルの元になるんだからな」


神崎の普段と違う雰囲気を感じとって山田は素直に頭を下げた。


「たしかに今のは失言でした。申し訳ありません」


山田が謝罪すると神崎はウムと頷き、すぐに雰囲気を元に戻した。


「ところで神崎さん。今日来る予定の相談者ですが、念写を試してみたところ、3年前に亡くなったお爺さんが写真に写ったそうです。相談に乗ってあげてくださいね」


「だから、お化けの話を持ち込むんじゃねえよ!」

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