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死神令嬢転生記  作者: 霜月陽
序章
6/7

出会いと契約

この世界の生物は皆、必ず魔力を持っている。その中でも魔法が使える動物の事を、人間は「魔物」と呼ぶ。


魔物は他の動物と比べて知能が高い。人間の言葉を理解し、高位魔物の中には、人間と会話が出来る種族もいるほどだ。


そんな魔物を人間が使役する為の方法。

魔物に名を与え、服従させる魔法。

それが、「使い魔契約魔法」である。




黒いもやに覆われた魔法陣の中で、あたしとドラゴンは向かい合っていた。

張り詰めた空気が漂うその空間は、とても静かで、もやは視界だけでなく、外の音も遮断しているようだった。


先に声を発したのはドラゴンのほうだった。

『……その年で我を召喚するとは、なかなかやるな。少し驚いたぞ、小娘』

低く、落ち着いた声が、頭に直接響いてくる。

口は動いていない。ーー念話だ。

「ええ、正直私も驚いています。まさかあなたのような高位の魔物を召喚出来るとは思っていませんでした、幻影龍さん」

『ほう、我を知っていたか』

「あなたは有名なので」


ーー幻影龍。

その名の通り幻術魔法を使う、闇属性最強の魔物。高位魔物の中でも5本の指に入るほどの強さを持ち、倒すとなると強国の全勢力を結集させなければならない。ましてや召喚なんて、この国では前例がない。


(まさか、この国で最初の召喚者があたしになるなんて)

本当に、心底驚いた。


『おい、何を呆けている』

不意に頭に響いた、呆れたような声にはっと我に返る。幻影龍のほうを見ると、紫の瞳がこちらを見ていた。その瞳にも、声と同じ呆れの色が見て取れる。


「ごめんなさい。少し考え事をしていて……」

『そうか、まあいい。そろそろ本題に移るぞ』

「本題、ということは、契約してくれるんですか?」

その発言に、あたしは思わず身を乗り出した。

『そうなる可能性はある。が、決めるにはまだ早い』

「それはどういう意味ですか?」

『上っ面だけを見て仕えるかどうかなど判断できない。当然の事だろう?』

(それは、つまり……)

自分の口の端が引きつるのを感じる。

そして、幻影龍は目を細め、決定的な一言を発した。

『もう演技は止めろ。素のお前で我と向き合え』

(……やっぱり!)

「気付いて、いたんですか……」

『ああ。割と最初の方からな』

(ええー……)

思わぬ事実を突きつけられうなだれるあたしに向かって、幻影龍は言葉を続けた。


『召喚されてすぐは気付かなかった。

だが、お前と話していてなんとなく違和感を覚えた。自らを偽り、周囲を騙す者が信用出来ないのは、魔物も人間も同じだ。まして仕えるのならなおさらな。違うか?』


その言葉で、あたしは自分を偽る事に慣れすぎていた事に気付いた。

記憶が蘇ってから毎日、公爵家の令嬢らしく振る舞って、自分がどんな人間なのかが分からなくなっていたのかもしれない。

(今目の前にいるドラゴンは、素のあたしと話したがっている。それなら、せめて今だけは、自分らしくあろう)

心の中でそう決意して、あたしは幻影龍に向き直った。


「……そう、だね。あんたの言う通りだよ」

『……!それが、本当のお前か。先ほどとはずいぶん雰囲気が違うな』

幻影龍の驚いたような発言に、何故か少し笑ってしまった。

『おい、何故笑う』

「ごめんごめん。

でもさ、素のあたしと、って言ったのはあんたの方でしょ?」

『それもそうだな。……ああ、そうだ。

今更だが、お前、名はなんと言う』

「本当に今更だね。まあ、名乗ってなかったあたしもあたしだけど」

そこで一旦言葉を止めて、深く息を吸う。

そして、あたしは続きを口にした。


「じゃあ改めて。


イルシオン公爵家令嬢、

ラミアーナ・イルシオン。

令嬢としての義務を果たすため、

あんたと使い魔契約を結びたい」


『ラミアーナ・イルシオン、か。気に入った。

この幻影龍、使い魔として共に生きると誓おう』

「……!いいの?本当に!?」

『勿論だ。一度立てた誓いは絶対に守る。

さあ、我に名を与えろ』

「名前、か……そうだな……」

あたしはしばらく考え込んで、一つの名前を思い付いた。その名前を幻影龍に伝える。

『なるほど、いい名だな。気に入った』

「良かった。それじゃ、始めようか」

『ああ』

そう言うと、幻影龍はあたしに顔を寄せて、目を閉じた。

その顔の前に右手をかざし、目を閉じて詠唱をする。

《幻影を統べる者よ。その牙と翼で我を守護せよ。汝の名“幻夢”》


詠唱を終え、ゆっくりと目を開くと、

幻影龍ーー幻夢と目が合う。

彼の右目は美しい金色になっていた。

その瞳に映るあたしの右目も、幻夢と同じ深い紫色になっている。

契約魔法が成功した証だ。


「これからよろしくね、幻夢」

『心得た。こちらこそよろしく頼む、主』


契約を交わし、役目を終えた黒いもやがはれていく。

すると、外のざわめきが耳に飛び込んできた。

多分、幻夢に驚いているんだろう。

そんな事を考えつつ、あたしは振り向いた。


5歳になって最初の、新月の夜の出来事である。

幻夢とは、ゆめやまぼろしの事です。

まんまですね。


序章は後2話ぐらいのはずです。

でも、話はまだまだ続きます。

気長にお付き合い頂けるとうれしいです。

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