前世のバーチャル、今世のリアル
更新遅くなってすみません。
死神は普段、普通の人間のふりをして生活している。その理由は、より効率的に魂を冥界へと導くため。一つの町をいくつかの区域に分け、それぞれに死神を配置して、その地の霊達の浄化を担当させるのである。
そのせいか、死神は結構地域に溶け込んでいたりする。(町内会長になった人もいる)
もちろん、普通に会社で働いてるし、中には学校に通っている死神もいる。ちなみに、住む家は冥界が用意してくれる。
ーで、ここからが本題。
とある区域の担当になった時、あたしが冥界から用意された家は、とあるマンションの一室。すぐ近くには高校もあった。
あたしの見た目の年齢は、ちょうど高校生くらい。一人暮らしで、近くに保護者が住んでいる訳でもなく、生身の人間としては仕事をしている訳でもない。
そんなあたしが学校に通っていない、というのはかなり不自然だった。
そのためあたしは、マンション近くの高校に通いつつ、夜は複数のアルバイトを掛け持ちして、
「親元を離れて一人暮らしをする女子高生」として暮らしていた。
実際は、現世で暮らすのに必要な費用や家具などは、全て冥界から支給されていたのだが。
まあ、そんなことはどうでもいい。
重要なのは、あたしが女子高生だったということ。
高校生というのは多感な年頃。やたらと周りの目を気にするし、少しでも人と違う行動をとれば、すぐに「変な子」というレッテルを貼られて、クラスで浮くことになる。
そうなると、変に目立ってしまい、死神の本来の仕事がやりずらくなってしまう。
それを避けるため、あたしは世の女子高生が興味を持ちそうな事を片っ端から調べた。
その中でも、高校で仲良くなった友人の影響で、特に詳しく調べたことがある。
それが「乙女ゲーム」だったーー
ーー回想終わり。
はい、現在あたしは、自分の部屋の姿見の前にて泣きそうになっています。
その原因は、あたし自身の容姿。
鮮やかなオレンジ色の長い髪に、少し強気な印象を受ける金色の瞳、日焼けを知らない白い肌。
俗に言う、美少女。
泣けるような要素なんてどこにも無い。むしろ恵まれている。
ただし、大きな問題が一つ。
「やっぱり…どっからどうみても……
ラミアーナ・イルシオン本人、なんだよなぁ」
覚悟はしていた。でも、実際確認すると少し泣けてくる。
ラミアーナ・イルシオンは間違いなくあたしの名前だ。
けど、あたしの言う「ラミアーナ・イルシオン」は、また別の人間だ。
彼女は実在する人間じゃない。
あたしがリアルなら、彼女はバーチャル。
乙女ゲーム「いつか君とあの場所で」通称「いつ君」に登場するキャラクターである。
「いつ君」とは、所謂テンプレ乙女ゲームというやつである。
ゲームの舞台は、シュトラール王国にある貴族の子供が通う学園。
この学園に特待生として編入したヒロインは、4人の攻略対象と親睦を深め、悪役令嬢からのいじめにも負けず、最終的に彼らと結ばれる。
ルートごとに、ノーマル、ハッピー、バッド、トゥルーの、4種類のエンディングが設定されている。隠しキャラはいない。
しかし、逆ハールートが存在する。
そしてラミアーナ・イルシオンは、全ルートにおいて、主人公の前に立ちはだかる悪役令嬢である。
とりあえず、ゲーム主要キャラについて箇条書きしてみる。
・ルーチェ・アンダーソン 17歳(子爵令嬢(養女))
「いつ君」のヒロイン。ストロベリーブロンドの髪に、緑色の瞳を持つ。
・リオン・シュトラール 18歳(シュトラール王国第一王子)
攻略対象その1。金髪蒼眼の正統派王子。
・シェイド・イルシオン 16歳(侯爵令息)
攻略対象その2。濃い紫の髪に、金色の瞳の腹黒ドSな次期宰相。ラミアーナの弟。
・マルス・イグニス(伯爵令息)
攻略対象その3。赤色の髪と瞳の、脳筋な次期騎士団長。
・キース・エトワール 17歳(伯爵令息)
攻略対象その4。白髪に、ダークブルーの瞳の人見知りな天才魔術師。
・ラミアーナ・イルシオン 17歳(侯爵令嬢)
「いつ君」の悪役令嬢。オレンジ色の髪に金色の瞳を持つ。リオンの婚約者で、シェイドの姉。高慢で高飛車な性格の持ち主。
これはあくまでゲームでの設定で、実際はどうかわからない。少なくともあたしは、記憶が戻る前から無茶な要求をした覚えは無いし、姉弟の仲も至って普通だ。
まだ5歳だからこれからどうなるかはわからないが、今のまま成長すれば、学園で弟に断罪される事態にはならないと思う。
だが、油断は禁物だ。
この世界がゲームの世界そのものなのか、歴史や文化が酷似しているだけの別世界なのかがわからない以上安心はできない。下手をすればゲーム補正がかかる可能性もある。
もしそうなら、対策を立てる必要がある。
「いつ君」では、ヒロイン達に断罪された後、ラミアーナは国を追放され、家とも縁を切られる。
そうなった時のためにも、今から鍛えておいた方がいい。
やることは山積みだ。
(明日は忙しくなりそうだ)
そんなことを考えながら1日を終えて。
また、新たな1日がやってくる。