プロローグ
はじめまして。
よろしくお願いします。
人も街も寝静まった午前2時。
聞こえてくるのは、
木々を揺らす風の音と、柱時計が時を刻む音のみ。
孤高の月が照らすのは、
全体が白と薄い茶色で統一された上品で落ち着いた部屋と、
窓枠に座る、少女。
ついさっきまで腰のあたりまで伸びていた
鮮やかなオレンジ色の髪は、
今はショートカットになっていて、一見少年のようにも見える。
切られた髪は、リボンでまとめて傍らにあるテーブルに置かれていた。
「そろそろ行こうか」
独り言のように呟いた少女に、反応する声がひとつ。
『本当に行くのか、主』
「行くよ。
どうせ明日には、家どころか国から追放される訳だし。
もしかして、ここを離れるの寂しい?幻夢」
少女の金の双眸が声の主に向けられる。
『いや、そうではない。ただ確認しただけだ』
幻夢と呼ばれたその小さなドラゴンは、少女の肩の上で首を振った。
『俺は主の使い魔だ。主の決定に従う』
「そっか。ありがとね、幻夢」
『礼などいい。当然のことだ』
「…………当然、か」
誰に言うでも無くそう呟いて、
少女は音もなく、窓から飛び降りた。
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