6話 『支部への道中』
ふぅ……ここまで連れて来るのにどれだけ時間がかかったことか……さすがに眠いぞ俺
たどり着いたリア家は、宴会場から徒歩20分ほどの所にある小さな孤立した家だった。
「よーし、リア、着いたぞー」
「むにゃ……」
うとうとしているリアを支えながらアヤタは、リアの家のドアを開ける。
「こんばんわー。お届けものですー」
静かだな……。リアは大分若そうだけど、一人暮らししているのか?
勝手に入ったら明日リアに怒られそうだけど、リアも眠りかけているし、仕方ないよな……?
「おじゃまします」
リアの手を引っ張って家の中に入り、取りあえず一番近くにあるドアを開けてみる。
まず目に入ったのは、ドアを開けたのに反応して光るランタンのような物。そこまで発展していない感じからすると、魔法の道具的な何かか…?
その謎のランタンに照らされた部屋を見渡すと、机にベッド、完璧と言えるほどに整頓された棚。棚には、文字が理解できない本が沢山並んでいる。
「なんかすごいな……リア、寝るならベッドで寝てくれ」
その場で倒れ込もうとするリアをベッドまで運ぶアヤタ。
「さて、これから俺はどこで寝ればいいんだ……」
外も暗く、これから戻って泊めてくれる家を探すなんて体力はアヤタにない。
「リアに怒られそうだけど、その辺の床で寝ててもいいかな……?流石に部屋はまずいかな、廊下の方で寝よう」
翌朝、俺は激痛で起きた。
「いでぇ!?」
「ア、アヤタさん!?」
驚きを隠せない表情をしながらリアは後ろに倒れこむ。
昨日の事は酔っていて覚えてるのかどうか怪しいがとりあえず弁解はしないとな……
「す、すまんリア。昨日ルークさんに家を聞いて連れてきたんだが、宿とか探す伝手もなかったから適当に廊下で寝させてもらってたんだ……」
ばつが悪そうに目線を逸らす。そりゃ、女の子の家で勝手に寝てたわけだし罪悪感はあるわけだ。
「ということは……私、酔ってました?」
リアは青ざめた表情になり、ぷるぷると震えながら聞いてきた。
あ、これは覚えてないパターンか?
「あぁー……そうだな、なかなかいい感じに酔ってたんじゃないかな、ハハハ」
「あぅ……ごめんなさい、ルークさんに前にあんまり飲むなって言われたのに……誘われるがままに飲んじゃって。
しかも介抱してくださって……」
羞恥で紅く染まる顔を両手で覆ってから謝ってくる。こんな可愛いのを前にして許さない男がどこにいるのだろうか。
「いや大丈夫だよ、特に迷惑とかなかったしさ! それに俺もこうやって寝れる場所あって助かったしお互い様だからさ」
「次から気を付けます……」
「あ、そうだ!今日は特訓とかしてないのか?してるなら俺も参加したいんだが……」
「今日はしていると思います!行ってみますか?」
パッと切り替わったかのようにいつものリアに戻り、返答する。
「俺は体力に自信がないし、魔族と戦うためにも武器の扱いにも慣れておきたいからなぁ」
「そうですね!…っと、ちょっと…その前に、支度をしたいんですけど……」
「どうしたんだ?そんな恥ずかしそうに、トイレならトイレって言ってくれれば…」
「違います!昨日、お風呂に入ってないまま寝てしまったので……」
「速攻で否定されたな、そういえばそうだった。俺は外で待っとくからゆっくり準備してきてらっしゃい!別に覗いたりしないから」
「なんか目がイヤらしいです!」
「そんなまさか!」
「では、急いで支度してきますね!」
「俺の目のせいで急ぐことになったのか…?」
アヤタを外に出し、玄関のカギをしめ、リアの足音が遠ざかっていった。
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「お待たせしました!」
ドアを勢い良く開け、甘くいい香りのするリアが現れた。
「おっ、予想より早かったな、リア」
「はい、急いで支度してきました!アヤタさんはお風呂に入らなくていいんですか?」
「いや、これから運動するし、良ければだが、運動後にシャワーを浴びさせてもらえると嬉しいが……」
「しゃわー?」
なぜ通じる言葉もあれば、通じないのもあるのか……謎が多いな、異世界ってやつは。
「ああ、俺が住んでた地域では、お風呂でお湯を体に浴びることをシャワーって言うんだ。」
「なるほど! アヤタさんの説明分かりやすいです! では、運動後にしゃわーを浴びましょ!」
「助かるよ。ありがとな、リア。」
リアには異世界に召喚されてかなりお世話になっているな。なにかしらの恩返しができればいいが……
「今日は、2時間後にメイヤー支部で剣術の特訓があるので、そこにアヤタさんも参加してみましょう!」
「ふむふむ…時間割みたいなのがあるんだな…!ほかにどんな特訓があるんだ?」
「そうですね、剣術の他に、治癒や解毒などの回復魔法、魔族を退治するための攻撃に使用される攻撃性の高い魔法、その他に、ルークさんのような魔具を用いた戦闘の練習、剣の他に体術もありますよ!」
「なるほど……沢山あるんだなぁ」
「はい!ですが、魔法や魔具は、自己の魔力が高くないと詠唱や使用が不可能なので、特訓できる人は限られているんです。」
「それは、実際に唱えたり、握ったりしたら分かるのか? それとも見た目で人の持つ魔力が分かるとか!?」
「かなりの実力者だと、見るだけで分かるそうですが、そこまでの実力者は、この村にはいません」
見るだけで分かるのが化け物クラスってわけか……
「なるほどな…俺にも高い魔力が備わっているっていう事もあるかもしれないのか」
「そうですね!支部に着いたら試してみるのもありかもしれません」
魔法や魔具とやらが使えたら最悪体力が皆無でも戦えるって訳か……頼む!俺の魔力、めちゃくちゃ備わっててくれ。
朝はちょうど涼しいくらいの温度で、歩きながら林や茂みを見渡していると、角が生えたウサギのような小動物や、右羽左羽それぞれ色の違う蝶々を目撃する。
これを持って帰れば、一躍有名人なんだけどな、俺とか思いつつ、目が合った角の生えたウサギに警戒する。あいつの捕獲を試みる勇気が俺に備わっていない。
角が悪魔のようにごつく、地球にいるような可愛い目をしていないのだ。魔獣どころか、ノウサギに殺されそうだ。
「もうすぐ着きますよ!」
先を歩いていたリアが振り返り、笑顔でアヤタにもうすぐ着くことを知らせる。
「おっ! 何だかんだ早かったな。」
「はい! まだ、時間があるので、簡単な魔法の練習でもしてみますか?」
「おおっ!それはいいな!果たして俺に魔法は使えるのかどうか……」
リアはにこっと微笑み、説明を始める。
「では、初歩的な氷の結晶を生成する魔法からやってみましょう。手のひらに集中して、”ザード”と唱えるのです!」
「ザード!」
リアの手のひらの上には、昨日見た氷の塊が生成された。
「おおお!その呪文が、昨日見せてくれたやつだな!」
集中して唱えるだけで魔法つかえるなんて、異世界すげぇ……
「慣れると詠唱無しでもできちゃいます!」
次は、左手の上に少し大きめの氷の結晶を生成した。
心の中で唱えるとかそういうのだろうか。考えると難しくなりそうだから今は考えないでおこう。
「では、アヤタさん、どうぞ! 手のひらに集中して、”ザード”と唱えてください」
もう一度そう言うと、手のひらの氷を、軽く握る動作をして四散させた。
「緊張するなぁ……よっしゃ、いくぞ!」
「ザード!」