5話 『宴』
戻った先は同じ商店街なんじゃないかって位賑わっていた。
老若男女がわいわいと楽しんでおり、村ならではの皆が皆それぞれを知っているような雰囲気だった。
「おぉ……これが俺を迎えるとかいう宴か、凄い賑わってるな」
「それはそうです! 何せ救世主様なんですから!」
にこっと笑ってくれる。それだけで癒されるな。
さて、皆が俺を迎え入れてくれるのならそれなりに胸を張って行かなきゃな。
「んじゃ、格好良く行きましょうか!」
「はい! アヤタさん!」
そう言って俺は思いっきり息を吸い込んで大声で発した。
「ありがとう皆! こんなに盛大に迎え入れてくれて!」
村民達は一斉に振り向く。
少し間を置いてから、どっと歓声が沸いた。皆が皆、尊敬や憧れの眼差しで俺を見た。
俺も手を振りそれに答える。
「凄いです凄いですアヤタさん! 格好良いですよ!」
リアはこの盛り上がっている空気に浮足立っているのかぴょんぴょんと跳ねながら声を掛けてくる。
「ありがとう、リア」
なんだか格好良いなんて言われるとむず痒くなるな。本当、現実じゃあり得ない事ばかり起こるな、異世界って奴は。
「救世主さん。今日はたっぷりこの村の料理を召し上がって下せえ!」
おじさんの先には、大きなテーブルがいくつも並べられており、そのテーブルの上には、
見たことのない、肉料理や野菜など……久しぶりに運動をして疲れたアヤタの空腹感を刺激する。
「おおお!美味しそうな料理が沢山あるなぁ!」
「はい!村で採れた新鮮な野菜や、質の良い肉を使った料理など!どれもとても美味しいですよ!」
「主役も揃ったみたいだし、そろそろ始めましょうか!」
救世主を歓迎する宴が始まった。
ここは、先に自己紹介をしておくべきだな。と、アヤタは深呼吸をして立ち上がる。
「みんなー! 俺から、自己紹介しておこうと思う。 俺の名前は、広瀬綾汰だ。この地域から、かなり離れた所から来たわけで、
この辺の歴史や地域の事について詳しく知らない。だから、みんなと交流を深めてこの村や、みんなの事をもっと知っていきたいと
思っている。これからよろしくな!」
おう!よろしくな! や よろしくお願いしますー! などの返答と盛大な拍手が巻き起こる。
こんなもんで良かったか…?やっぱり人前で話すのは緊張するな。
それから様々な人と話ながら宴は続いた。
「救世主さん! これ飲んでみてくれよ!」
大柄の男性が持ってきたのは一つの樽。容易に予想が付く、定番のお酒ってところか、悪くないな。
中身を見ると、赤紫の液体。
「おーけい、ちょっと貰ってみようかな」
それを聞くと大柄の男性は豪快に笑い、木製のジョッキギリギリまで注いで渡してくる。
「ほら救世主様よ!」
一体どんな味がするんだろう。少し危ない気もするが興味がそれをかき消して『飲め』と囁く。
その探求心が抑えられず、気づいた時には口いっぱいに含んでおり、それを飲み込んだ。
「あれ? 割と普通」
所謂、ワインといったところか。
色からしても葡萄を使った赤ワイン。いや、実際そんなに飲んだわけじゃないが似てる味だった。
意外とお酒の味ってのは現実世界と似たようなものなんだな。
「おぉ? 飲んだことあるのか?」
「あぁ、これそのものではないけど、似たような味のお酒なら飲んだことあるぜ
ワインって奴なんだけどさ。葡萄の種でも持ってきてりゃよかったな」
「へぇ、そんな酒があるたぁ初耳だな。珍しい酒飲んできてんだな、救世主様もよ!」
半分冗談のつもりだったがこちらではどうやらジョークなるものが通用しないらしい。
異世界に来て正直どんな事になるとか全く想像つかなかったが、村の人は皆いい人そうだし、憲兵隊との繋がりもできた、
来て一日目だが、それなりに収穫はあったんじゃなかろうか。
子供たちは家へと帰り、お酒を飲んでいた大人たちも、酔いつぶれる者いれば、そろそろ帰ろうかと腰を上げている者もいる。
そういえば、宴が思った以上に楽しかったからか眠気を忘れていたが流石に眠くなってきたな。
「そろそろ宴もお開きみたいだな……あ”」
不図気づく。
そういえば俺、どこで暮らせばいいんだ?
一文無しじゃどうにもならない、これは魔物退治とかの前に危機に面しているんじゃなかろうか。
「あれぇ? アヤタさん、どうかしたんれすかぁ?」
半分以上酔っているリアが俺に声をかけてくる。
介抱役ってのはこれまた悪くないが……って、そんな下種なこと考えている場合じゃないなこれは。
「おーい、リア大丈夫か? 水持ってこようか?」
「大丈夫れすよぉ……魔物は来てませんからぁ……うーん」
「いや見ればわかるけどさ! って違う! 俺が心配してるのはリアだよ……まったく」
どう見ても大丈夫そうじゃない、家まで送り届けるくらいなら出来るだろうが、もとから家がどこかすら知らない。
これは自分の心配もそうだが、リアをどうにかするってのが先決そうだな。どうしたものか。
どうにか知ってそうな人がいればいいんだけど……
「おい、歩けるか?」
と酔ってダメになっているリアと会話を試みつつきょろきょろしていると、
どこか見覚えのある、腰にホルスターを着けた高身長の男と目が合った。
「おや。アヤタじゃないか、何か探し物かな?」
「あぁ! よかったルークさん、リアの家ってどこか知らないか? 見ての通りこの状況でな、帰るどころかその場で寝るんじゃないかと思ってな」
リアに目をやったルークだが、何かを察したようにため息をつく。
「またですか。前回散々飲まないようにと言ったはずなんですがね……」
「なんだ? リアって酒癖悪いのか?」
「まぁ、そういったところかな。生憎私は見回りがあるからついていくことは出来ないが場所だけは伝えるよ」
そういってルークは手帳のような物を取り出し、一枚千切ってそこに簡単な地図を描く。
ささっと書いただけのはずだがとても分かりやすく、それだけでも画力があるのが伺われるものだ。
「凄い分かりやすいなこれ……何は兎も角助かったよ」
「それならよかった。また何かあったら言ってくれ」
「そうさせてもらうよ、それじゃ」
そういってその場を後にした。
「えへへー、今日のアヤタさん……格好良かったですよぉ」
この状態のリアを家まで送り届けるのにどれくらい時間がかかるのだろうか。
朝までかかったりしないことを願うアヤタだった。
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