1-8 でたらめ
少タイトル変更しました。
ギルド『百鬼夜行』と『鳥の巣』の戦闘が始まった。
しかし、それはほんの数分のこと。
徐々に状況は傾き、あっという間に片方が膝をついた。
もちろん、膝をついたのは『百鬼夜行』の方である。
「はぁ……はぁ……ば、バカな」
「無茶苦茶よ……」
『百鬼夜行』の二人は、息も絶え絶えに膝をついたまま眼の前の男を睨む。
二人の相手であるカラスは、その様子をいつもの眠そうな顔で見つめる。
もはやあくびさえしそうな雰囲気だが、別にカラスは眠いわけではない。
「えっと……まだやるか?」
「「っ!?」」
意図していないが、カラスの声には余裕がたっぷりと含まれている。
それがたまらなく二人を動揺させた。
全力で挑んだはずであるのに、カラスはその場から一歩も動いていない。
辺りは彼らの戦いによって木々が吹き飛び、所々地面がえぐれている。
そんな中で、カラスの周りだけは地面がそのまま残っていた。
「これ以上やっても無駄だろうから、大人しく拘束されてくれると助かるんだが……」
「ふ、ふざけるな!」
ナデシコが斬りかかる。
神速の一撃がカラスに迫るが、それは金属音とともに大きく弾かれた。
カラスが刀ごと斬り払ったのだ。
ナデシコが地面に転がったのと同時に、今度はリリィが飛びかかる。
「ナデシコ! 死んでもこいつはここで殺すわよ!」
リリィが腕をカラスに突き出すと、近くの空間が割れてそこから巨大な赤い拳が飛び出す。
それは数カ所から同時に出現したものであり、カラスは大量の拳に囲まれた。
「当たり前だ! マスターには近づかせん!」
それと同時に、立ち上がったナデシコがカラスに向かって飛びかかる。
このままでは、カラスは全身を殴打されて胴体を斬り開かれるであろう。
しかし、そんなことが起こるはずがない。
「いい加減にしてくれ」
カラスはそう言いつつ回転斬りを放つ。
巨大な赤い腕たちはあっという間に切り裂かれ、ナデシコの腹部に剣の先端が入り込む。
剣が通過した場所から、肉が裂けて血が吹き出した。
「ごぷ……」
ナデシコが血を吐く。
膝をついてうずくまっているが、彼女の周りには腹から出た血が広がり始めた。
「ナデシコ!」
「さっさと投降しろ。今なら二人とも捕虜にして命までは取らないが、これ以上やるならそれ相応の反撃をさせてもらう」
「ほざいてなさい! あなたは私の命に変えても――――」
「リリィ!」
リリィが言葉を言い切る前に、身体を押されて地面を転がる。
ふと顔を上げると、さっきまで自分が立っていた場所にナデシコが立っていた。
次の瞬間、ナデシコの身体から血が吹き出す。
身体をカラスによって袈裟斬りされ、それが心臓まで到達したのだ。
ゆっくりと倒れこむナデシコを受け止めたが、リリィは気づいてしまった。
すでに彼女が、事切れていることに。
「な、ナデシコ……?」
「心臓を斬った。まずは一人目だな」
カラスは剣についた血を振り払う。
殺した本人であるカラスは知る由もないことだが、リリィとナデシコは幼少期より共に過ごしてきた中である。
それだけ仲がいいと言うことだ。
目の前で一瞬にして友人の命が消えたこの状況を、簡単に受け入れられるわけがない。
「悪いけど、お前には一緒に来てもらうよ。情報を吐いてもらう」
「――――す」
「ん?」
「――――殺す!」
リリィの形相が変わる。
明らかに許容量を越えた魔力を溜めて、地面に叩きつけた。
当たった地面に広がったのは、魔法陣。
そこから地鳴りとともに、巨大なバケモノが姿を現す。
「とっておきよ……! 私の命の半分くらいを持って行きなさい!」
魔法陣から出てきたのは、巨大な飛竜。
Sランクに届きそうな具合の強さを持つ飛竜が、カラスを見て雄叫びを上げた。
それはリリィによって躾けられているようで、彼女が何か指示を出さない限り攻撃はしてくる気配がない。
しかし、これだけの戦力を呼び出すとなると、やはり消費魔力も異常なのだろう。
リリィは霞む視界を何とか保ちながら、目の間で飛竜の首が地面に落ちるのを見ていた。