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1-3 最初の課題

 酒場を飛び出したカラスは、とある場所へ向かった。

 

「ただいま」


 それは自分の家である。

 冒険者が住む居住区から少し離れたところに、カラスの家はあった。

 Sランクギルドの冒険者らしく、豪邸に住んでいる――――と、思いきや、その家は所々に隙間が空いているような小さな小屋。

 馬でも突進してこようなら、一撃で崩れてしまいそうな小屋だ。

 

「よし」


 ただいまと言ったはいいが、返答する者はいない。

 カラスは床下収納の板につけられた鍵を外し、下に金の袋を投げ込む。

 床下収納だけは改築されているようで、かなり深く広い造りになっていた。

 中には同じような袋がいくつも並んでいる。

 すべてカラスが達成した依頼の報酬だ。

 袋の数だけでも数えるのが億劫になるほどの量である。

 大金がなぜこんなに雑に保管されているかと言えば、誰も彼の財産を盗もうとは思わないからだ。

 それと、これだけの量を盗み出せる者などなどなかなかいない。

 楽に盗み出せる者がいたとしたら、その人間はかなりの力を有しているはずなため、金にはあまり困っていないはずである。


「これはここに……」


 カラスは竜から剥いだウロコを、小屋に空いた小さな穴たちにあてがう。

 双竜を運んでいるときに、カラスは竜のウロコでこの穴を塞ぐことを思いついていた。

 何度も言うようだが、このウロコ一枚で金貨一枚の価値がある。

 これほどまでに贅沢な使い方があるだろうか? 

 あまり世間では知られていないが、基本的に彼はアホである。


「行くか」


 ウロコを貼り付け終わり、カラスは家を出る。

 向かう先は、再びクエスト受注所だ。

 クエスト受注所は、夕方でも多くの冒険者がいる。

 やはりカラスが近づいて行くと、誰もが道を開けるのだが。


「あら? カラスさんどうしたんですか?」


「うむ。これについて聞きたい」


 カウンターには、飛竜討伐クエストの管理をした受付嬢がいた。

 カラスは彼女にカナリアから受け取った大規模クエストの用紙を見せる。

 

「ああ、闇ギルド討伐のクエストですね。二日後にここに集合がかけられて説明がされますが――――まさか……参加なさるんですか?」


「うむ。俺も参加したい」


「え、えぇ!? ちょっと待って下さいね!?」」


「……?」


 受付嬢は一度奥に引っ込むと、他の職員と何かを話しだす。

 しばらく話し合ったと思えば、受付嬢は慌てたように戻ってきた。


「え、えっと……分かりました。受理しますので、二日後の朝に集合してください」


「うむ。分かった」


 カラスは大して気にしていないようないつもの無表情で、返された用紙を受け取る。

 そのままクエスト受注所を後にするカラスの背中を見ながら、受付嬢は額の汗を拭った。


(このクエスト……一つのギルドから最低でも三人は選出しないといけないんですが……)


 クエストに定められた規定と言うのは、基本的に覆すことは出来ない。

 しかし、この闇ギルド討伐クエストは確実に成功させなければならない案件である。

 一人しかいないが、ギルド『鳥の巣』の戦力は喉から手が出るほど欲しい。

 ただ、そう言った例外を作ってしまうのは大変まずい。

 クエストを管理する側からすれば、一つのギルドを贔屓してはいけないのだ。

 つまりここで単独参加を許してしまったために、他に単独参加を申請されてしまえば断ることが出来ないと言う状況なのである。


「まあ、一人で参加したいなんてギルドの人間はそんなに――――」


「あ、あの! すみません!」


 肩を竦めていた受付嬢に、一人の少女が話しかけた。


◆◆◆

 日付は進み、集合の朝。

 丁度街の中の店が開き始める時間帯に、カラスはクエスト受注所の前に立っていた。

 カラス以外にも多くの冒険者たちが詰めかけており、それぞれ談笑している。

 ちなみにだが、カラスに談笑する相手はいない。


「おい……何でカラスさんが?」


「このクエストって――――」


「多分受注所側が許したんじゃね?」


 周りからは噂されているのだが、カラスは特に気にした様子もなくボケーっと突っ立っている。

 しばらくして、騒がしい冒険者たちの前に受注所の人間が現れた。

 いつもカラスの対応をしてくれるあの受付嬢である。

 

「みなさん! 今日は闇ギルド討伐クエストの件にてお集まりいただきありがとうございます! これより説明会を始めさせていただきます」


 受付嬢は手に持った魔石を口に当てながら話している。

 音を拾って拡散させる魔石のようだ。

 

「まず、闇ギルドの本拠地については範囲的には特定出来ているものの、正確な位置は分かっていません。相手には相当な実力を持つ魔道士がいるようで、結界のようなもので姿を隠しています。皆さんにはその空間の歪みを探していただきます」


(空間の歪みの特定か……俺の苦手な分野だな)


 その説明を聞いても、カラスはあまりピンと来ていなかった。

 カラスは魔法というものに一切精通していない。 

 知識としてはあるが、使える魔法は一つ足りともないのだ。

 歪みの探知などもってのほかである。

 この時点で、カラスはしばらくの間役立たず確定だ。


「探索の間、闇ギルド側から襲撃がないとも限りません。単独行動は危険ですので、最低二人以上で行動してください。いいですか? 二人以上(・・・・)ですからね?」


「え……」


 受付嬢の言葉は全員に向けたものであったが、なぜかカラスは自分だけに言われている気になった。

 他の者はギルド単位で動けばいい話だが、カラスにはそれがない。

 つまりは他のギルドに混ぜてもらうしかない。

 ……それが出来るほどのコミュニケーション能力があれば、彼は今一人ではないはずだが。

 無視すればいいことはカラスも理解している。

 しかし、懸念されることが一つ。

 

(あの受付嬢に怒られるのやだなぁ……)


 カラスは何か無茶をする度に、今説明をしている受付嬢に怒られている。

 特に酷いときは、一週間依頼を受けさせてくれないこともあった。

 カラスもあのときばかりはめちゃくちゃ困った。

 今回単独行動をすれば、さらに大きなペナルティを課せられてしまうかもしれない。

 そう考えると、やはり仲間を作らなければならないのだが――――。


「では解散にしますので、一時間後に街の北門に集合してください。それまでに準備をお願いします」


 受付嬢含め、職員たちは受注所の中に戻って行く。

 すでに準備が整っている者、集団でいる者たちは動き出し、あっという間にカラスは取り残された。


「……どうするか」 


「あ、あのー……」


「ん?」


 これからのことを考えているカラスに話しかけてくる者がいた。

 カラスが振り返ると、そこには短く切りそろえた茶髪に、露出度の高い服の上からマントを羽織った少女が立っている。

 彼女は少し怯えている様子で、カラスが振り返ると同時にビクついた。


「わ、私! ギルド『小人の穴蔵』所属のスズメって言います! ギルド『鳥の巣』のカラスさんですよね!?」


「うむ。そうだが……何か用か?」


「あの、私このクエストに参加することになったんですが、同じギルドの人が参加出来なくなりまして……今の説明で単独行動禁止と言われましたので、どうにか一緒に行動させてもらえないでしょうか? う、後ろについて行くだけでもっ!」


「なるほど」


 感情表現が少ないカラスではあるが、このときばかりはさすがに笑顔になった。

 彼にとっても願ってもない要求である。


「利害の一致、俺も困ってた。よろしく頼む、スズメ」


「は、はい! カラスさん!」


 カラスは拳をスズメの前に差し出す。

 スズメはまだ少し震えながらも、そこに拳を合わせた。

 冒険者特有の挨拶の仕方である。


「準備は?」


「あ……少し時間をいただけますか? 一度武器屋で装備を見ておきたくて……」


「うむ。分かった」


 歩き出したカラスに合わせ、スズメが後ろをトコトコとついてくる。

 こうして二人は何とかクエストの条件を満たし、街中にある武家屋へと向かった。


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