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1-15 決着

長らくお待たせしました。

私生活がようやく落ち着いてきたので、更新を再開したいと思います。

「アァァァァ!」


「うーん」


 全身から黒い雷を放出しながら殴りかかってくるゼクトを、カラスは片手に持った大剣でいなして行く。

 拳と大剣がぶつかるたびに辺りに雷が撒き散らされ、そのうちのいくつかがカラスの衣服を焦がす。

 それを見たカラスは、何かを考え込むように首を傾げた。


「代わろうか?」


「いや、いい」


 アイビスの声に反応しつつも、カラスはゼクトから目を離さない。

 

「――やるだけやるか」


 お互いの力がぶつかり合い弾かれた瞬間、カラスは強引に腕を振ってゼクトの身体を切り裂いた。

 右肩から左腰まで深々と切り裂かれたゼクトは、呻き声とともによろける。


「両断するつもりだったんだけどな……」


 傷は深いが、本来であればゼクトの身体を真っ二つにしていたであろう一撃だった。

 なぜそれが出来なかったかと言うと、単純にゼクトが今までにない反応速度で後ろに飛んだからだ。

 こうなる(・・・・)前の彼であったならば、今の一撃で終わっていた。

 さらに、おかしな現象が起こる。

 両断は出来なかったとは言え、傷自体は致命傷。

 しかしその傷は細胞がつなぎ合うようにして再生し、流血はすぐさま治まった。

 結果として、ゼクトは無傷でそこに立っている。


「やっぱりか……そして」


 カラスは大剣を握っていた手を見る。

 その部分の衣服は千切れており、皮膚は真っ黒に焦げていた。

 何とか大剣を握っていることは出来るが、確かな火傷の痛みを感じる。

 

「迂闊に切れないな。刃を通って腕が死ぬ」


「ウウゥ……ガァ!」


「おっと」


 ゼクトが雄叫びを上げると、全方位に黒雷が放たれる。

 カラスが大剣を盾にするようにして後ろに跳ぶと、甲高い異音が響いて大きく吹き飛ばされた。

 何とか防ぎきって、カラスは纏わりついている痺れを払う。

 すると、大剣で視線が遮られていた一瞬で間合いを詰めたゼクトが、目の前にいた。


「おっ」


「オオォォ!」


「げふ!」


 回避不能の距離で拳を放たれたカラスは、顎を下からかち上げられて宙を舞う。

 そのまま背中から落ちて、呻き声をもらしながらも何とか立ち上がる。


「うむ……面倒くさいな」


「オオオオォォォォォ!」


 歯が唇に当たったのか、カラスの口の端から血が垂れる。

 それを見て歓喜したようで、ゼクトは獣と変わらぬ声で吠えた。

 

「どうするか……」


 中心で大剣を構えつつ、カラスはふぅ、と息を吐いた。

 カラスにとっては、この程度の痛みはダメージとして数えない。

 

「問題なのは、あの反応速度とオートカウンター、そして再生能力か」


 そこまで考えたところで、カラスは一度頷く。


「よし、ゴリ押す」


 カラスは両手で大剣を持ち、大きく振りかぶる。

 腕に筋が浮かび上がるほど力を込め、相変わらずの無表情でゼクトを見つめた。

 

「ウゥゥゥ……ガァ!」


「――っ!」


 ゼクトは唸り声で威嚇しながら、地を蹴りカラスのもとに飛び込んでくる。

 本能で間合いに入ったことを感じ取ったカラスは、一息で剣を振り下ろそうとした。

 しかし、いくつもの死闘を潜り抜けてきた彼は悟ってしまう。


(あ……これかわされるな)


 ゼクトの身体が揺らめくように動く。

 真横に飛んでかわされ、がら空きの顔面に拳を叩き込まれるのまでの流れが読み取れた。

 一瞬、剣を振り下ろすのをためらった――――そのとき。

 ゼクトの側面から、二本のナイフが襲撃した。


「ギッ!?」


 跳ね上がった反応速度で、ゼクトは腕を使いそれを防ぐ。

 雷を弾き肉に突き刺さったナイフを投げたのは、いつの間にかアイビスの横に立っていたスズメであった。

 間近にいたアイビスは、「何してんだこいつ」という顔でスズメを見ている。

 独特の空気感に冷や汗を一筋垂らしたスズメは、引きつった笑顔で口を開いた。


「あ……よ、よかれと思って」


「ギッ――――」


 怒りの雄叫びを上げようとしたゼクトは、次の瞬間に自分の状況を理解する。

 自分の顔を影が覆った。

 すでにそれ(・・)は、回避不能の距離にまで迫っている。


「いや、でかした」


 その一言とともに、大剣が振り下ろされる。

 動くことすら出来なかったゼクトの脳天から股まで、一本の線が駆け抜けた。

 左右に区切られた彼は、ゆっくりと二つに分かれて行く。

 半分になってしまった身体を地面に倒し、ゼクトは遠く離れてしまった目でカラスを見上げた。


「依頼完遂……っと」


◆◆◆

「うわぁ……気持ち悪い」


 スズメの視界の先では、両断されたゼクトが再生しようと互いを求めあっている光景だった。

 念には念を入れて引き離された左右の身体は、すでに半分ほど距離を縮めている。

 放っておけば、再び元に戻ってしまうんじゃないか――――。

 そんな嫌な想像をしてしまい、スズメの顔から血の気が引く。


「大丈夫。その男から感じる魔力は、もう再生に足りるほど残ってないから」


「そうなんですか?」


「うん。くっついたとしても、息を吹き返すほどには回復しないだろうし」


 スズメは魔術に疎い。

 見た目は自分と同じか、はたまた自分より歳が下に見えるアイビスだが、魔術に関しては一級品の物を持っている。

 要は魔術のスペシャリスト。

 そのスペシャリストが言うのだから、素人のスズメは黙って納得するしかない。


「仮に再生しても、また俺が殺すからいいよ」


「あなたは黙ってて。私回復魔法は得意じゃないから、近くで喋られると気が散る」


「うむ」


 カラスの身体は、どこもかしこも火傷を負っていた。

 最後の一撃を繰り出したとき、至近距離だったからか、相当量の黒雷をその見に受けてしまっていたのだ。

 負傷箇所が多すぎて、さすがのカラスも痛みを訴えた。

 現在はアイビスの低ランク回復魔法で、徐々に治癒しているところである。


「ま、まあ、何がともあれ依頼達成ですね! 後は帰るだけで――――」


「――――感謝するぞ、貴様ら」


 そこまでスズメが話したところで、突如聞き覚えのない声が響いてくる。 

 とっさに三人が声の方向に顔を向けると、いつの間にかくっつきかけていたゼクトの近くに何者かが立っていた。

 白いマントに、白の鉄仮面。

 マントの下も白い服であり、唯一その服には金色の装飾が施されていた。

 かろうじて、声から男と言うことが分かる。

 

「ふん、所詮は試作品。再生能力を魔力で補わなければならないとはな」


 鉄仮面の男は、途中で再生が止まったゼクトを担ぎ上げた。

 それを見て動いたのは、カラスとアイビス。

 カラスは大剣を掴んで躍りかかろうとし、アイビスはその手のひらを鉄仮面の男に向けた。 

 しかしそれを阻むように、二人の目の前にそれぞれ同じ鉄仮面をつけた人間が着地する。

 

「「どけ」」


 ただ、相手が悪すぎた。

 一人はカラスに両断され、もう一人はアイビスの炎弾に腹を撃ち抜かれて巨大な風穴を作る。

 あまりに一瞬の出来事で、残った鉄仮面の男は簡単の声を出した。

 

「ほう、凄まじい実力だな。さすがは『巣箱』の連中と言ったところか……ここは潔く退散しておくとしよう」


「そいつ置いてけ!」


「残念だがそうは行かない。こいつに埋め込んだ細胞が必要なんでね。そうだ、なんなら頭だけでもくれてやろう」


 鉄仮面の男はどこからともなく剣を出現させると、それでゼクトの頭を刎ねる。

 頭半分裂けたゼクトの頭部は、ゴロリと地面を転がった。

 そうすると、カラスとアイビスはぴたりと動きを止める。


「あ、ならいいや」


「頭があればアルバトロスに報告が出来る」

 

 そう言ってそそくさ頭を拾ったカラスとアイビスを見て、男は愉快そうに喉を鳴らす。


「くっくっく……」


 男は踵を返すと、その背中から神々しいとも言える輝く翼を展開した。

 翼を一度羽ばたかせ、男は宙へ浮かび上がる。

 

「ではさらばだ! ……またいつか会うことになるであろう」


 最後に告げて、男は天高く舞い上がって行く。

 もはや男に興味を無くしたのか、カラスとアイビスは追いかけようともしない。

 その様子を見て、スズメが声を荒らげて駆けてくる。


「ちょっと! あの人明らかに闇ギルド側じゃないですか! 討伐しなくていいんですか!?」


「「あ」」


 明らかにゼクトを知っている様子から推測したスズメの言葉に、二人はマヌケな声を出す。

 慌てて空を見上げたが、もう男の姿はなかった。


「……うむ、大丈夫だ。やつはきっと討伐対象に入っていない」


「闇ギルド構成員の連中はここで倒したので全部だった。よってやつは闇ギルドのメンバーじゃない」


「ただの現実逃避じゃないですか! ちゃんと報告を――――」


 スズメ口は、その時点で塞がれていた。

 アイビスに手を押さえ込まれ、カラスに口を押さえられる。

 もがくスズメだが、恐ろしいほどの力に動くことが出来ない。


「スズメ、世の中には言わなくていいことがあるらしい」


「そう。私たちは言われた仕事をこなした。それでいいんだよ」


「うっ……」


 常に表情の崩れない二人だが、このときばかりはその崩れない表情に妙な威圧感を覚える。

 スズメは今日、蛇に睨まれた蛙ってこんな気持だったのだろうなと悟ることになった。


「スズメ」


「ひゃい!」


「あの教会の残骸から、闇ギルドの連中の遺品を持ってきてくれ。残ってたらでいいから」


「あ! はい! 行かせていただきます!」


 カラスに言われ、拘束を解かれた瞬間にスズメは走り出す。

 彼女を見送った二人は、無言で倒れている二体の鉄仮面に近づいた。


「カラクリだね」


 アイビスは鉄仮面の断面図を見ながら言う。

 人形ではあったものの、その鉄仮面たちの中身はゼンマイやバネと言った相当加工が難しい金属類の詰め合わせだった。

 中心部には黄金に輝く模様が刻まれた四面体があり、脈打つように動いている。

 どうやらその模様は全身の金属に刻まれているようだが、四面体とは違い脈打ってはない。


「どう思う? カラス」


「俺に聞くのか?」


「ごめん」


「……」

 

 あっさり諦められてしまい、自分の頭の悪さは自覚しているが悲しくなったカラスであった。


「でも、あの男『巣箱』のこと知ってたね。父さん(・・・)に伝える?」


「伝えなきゃだろうな……いくら巣立ったとは言え、俺たちはまだあの人の管理下だ」


 カラスは片方のからくりの四面体を毟り取りながら言った。

 もう片方の四面体は丸ごと撃ち抜かれているため、すでに消滅している。

 

「なら私が行くよ。魔術に疎いカラスじゃその四面体のことも分からないだろうし、ついでに調べておく」


「うむ、頼む」


 四面体を受け取ったアイビスは、それを懐にしまい込んだ。

 

「そろそろ帰還しようか。あなたも報告に行かなきゃでしょ」


「うむ。お前もアルバトロスに報告か?」


「うん。ついでにあの男のことも話しておくよ。アルバトロスも私たちと同じ『巣箱』の一員だし」


「そうだな……じゃあ、これで」


 二人は背を向け、それぞれの方向に歩き出す。

 カラスはひとまずスズメのいる方向へ。

 アイビスは王都の方向へ。

 ある程度距離が開いたとき、アイビスは思いついたと言う様子で振り返り、カラスに声をかける。


「カラス、あなたあのスズメって人を誘ってみたら?」


「うむ?」


「あなたのギルドにさ」


 そう言って去って行くアイビスの背中を、カラスは呆然と眺める。

 その背中が見えなくなって来た頃に、ようやくカラスは声を発した。


「その発想はなかった」

 

新作投降しました。

この賢者! 禁術しか使えないんですけど!

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