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1-1 メンバー募集中

 巨大迷宮、強大な魔物、それらを攻略するために、人々はギルドと呼ばれる徒党を組んだ。

 幾百ものギルドが設立され、互いに競い合い、冒険者界隈は常に賑わっている。

 そんな中に、一際目立つギルドがあった。


「カラスさん……一応聞きますけど、本当にこのクエスト一人で行くんでしょうか?」


「……うむ」


 冒険者として依頼を受けるための場所、クエスト受注所のカウンターには、一人の黒ずくめの男がいた。

 若い男である。

 しかし、服の上からは分からないだろうが、歳に似合わないほどの傷の跡が全身に刻まれており、彼が掻い潜った修羅場の数を思わせた。

 背中には使い込まれた漆黒の大剣を背負い、纏った黒いマントはかなり使い込まれている。

 矛盾しているようだが、若きベテランという言葉がよく似合う男だ。


「……あなたの実力はよく知っていますが、さすがにこれは――――」


 カウンターに立つ受付嬢は、手元の依頼用紙を眺めてぽつりと言った。

 そこには、クエストとして最高難易度のSランクと言う文字。

 死地をくぐり抜け、FランクからAランクに上がり、さらにその先の頂にたどり着いたギルドのみが受けることの出来るクエストだ。

 

 断じて、一人で受けるようなクエストではない。


「行ける。前にやったことある」


「誰ですか許可したの……まあ、分かりました。そう言うなら受理します。くれぐれも無茶だけはしないでくださいね? ……言っても聞かないでしょうけど」


「うむ」


 カラスと呼ばれた男は頷く。

 受付嬢は書類に判子を押した後、カラスにそれを渡した。


「期限は2週間です。それを過ぎればクエスト失敗とみなし、この依頼は二度と受けることが出来ません。よろしいですね?」


「うむ。行ってくる」


「どうかお気をつけて」


 受付嬢に見送られ、カラスは受注所を後にする。

 すれ違った他の冒険者たちが、ちらちらと彼の方を見て行く。

 その中のひとりが、たった今カラスのためにクエストを受理した受付嬢のもとへ来た。


「渋い顔してるけど、またカラスさんが無茶言って来たのか?」


「ええ……本来10人以上の規模のSランクギルドにしか受注出来ないクエストなんですがね……」


「まあ、あの人の前では規約なんてないようなものだろ?」


「だから止めづらいんですよ……はぁ、どうせこんな心配も杞憂で、平気な顔して帰ってくるんでしょうけど」


「違いねぇ」


 男冒険者と受付嬢は、受注所から出て行くカラスの背中を見送った。

 いや、この場にいる誰もが、彼の背中を見送っていたのだ。

 羨望や憧れ、そして恐怖の入り混じったその視線たちを背中に受け止めた彼は、一切振り向くことはなく、街の人混みの中に消えて行った。


◆◆◆

「――――うむ?」


 時間は進み、3日後。

 カラスは、火山の山頂付近にいた。

 そして彼の周りには、二体の(・・・)飛竜と分類される生物たち。

 

「依頼書には一体って書いてあったんだけど――――」


『グオォォォォォ!』


『ガァァァァァア!』


「……ま、いいか」


 二体の白と黒の竜は、カラスの周りを旋回しながら威嚇してくる。

 明らかな体格差。

 どう見ても、カラスの方が狩られる側である。

 

 竜と言うのは、この世界において最上位種だ。

 刃を通さぬウロコ、すべてを貫く牙、触れただけで斬れてしまいそうな爪、そして保有する膨大な魔力。

 どれを取っても、どの種族を上回っている。

 故に最上位種。

 たかが人間一人が、敵う相手ではない。


「お前たち、ちょっと悪さしすぎたな」


 ――――ただし、例外と言うのは存在する。


 カラスは背負っていた漆黒の大剣を外し、片手で構える。

 途端に、辺りを支配していた双竜の威圧感が消し飛んだ。

 代わりにこの場を制したのは、たった一人の男の雰囲気。

 その異様な何かを感じ取り、竜たちは怯んだ。

 

 そしてすぐに咆哮を上げる。

 

 自分たちは最上位種。

 そのプライドが、一匹のちっぽけな生物に『恐れ』を抱いたことを認めさせない。

 だからこそ、双竜は無策に飛び込んでしまった。

 

 絶対的狩人の領域に――――。


「ウェルカム」


 歓迎の言葉をかけられ、双竜の頭によぎったのは、深い後悔であった。

 首元にゆっくりと迫ってくる刃。

 それは限りなく遅い一振りのはずなのに、双竜は動けない。

 死を目の前にして、思考だけが加速してしまっているのだ。

 

 双竜の後悔。

 それは、このバケモノに対して戦いを挑んでしまったことである。

 やかましく、目障りだった人間の街を一つ、愉快に壊滅させてしまったことである。

 この二つの過ちさえなければ、自分はまだ生きられたのに。

 

 双竜は首が刎ねられる直前、少し啼いた。


「ふぅ……持ち帰るの面倒くさそうだな」


 最上位種を一振りずつで倒したカラスは、二つの死体を見て息を吐いた。

 そこには喜びもなく、感動もない。

 血を払った大剣を、茶色いバンドで背中に止める。

 

「帰ろ」


 カラスは持ってきた頑丈なロープで二匹の竜を縛り付けると、ずるずると引きずっていく。

 

 彼こそ、冒険者都市バルトロスに数あるギルドの中で、三年間もの年月ギルド序列一位を譲らない最強の団体の管理人である。

 この世界の言葉で、『ギルドマスター』と呼ばれる彼は、バルトロスの中でも最強の存在ということだ。

 

 ただし、彼のギルド『鳥の巣』は、最も強いと言う他に一つ異色な点がある。


「……これだけ活躍すれば、今度こそ入団者が来るかねぇ」


 そう、『鳥の巣』には、カラスしかメンバーがいないのだ。

 あまりの寂しさからか、カラスは空を仰いで少し泣いた。

 

 ギルド『鳥の巣』、絶賛メンバー募集中である。

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