第6話
レヴァンは赤い髪の怪しい男と大きなトランクを持った無口なアレシアと呼ばれている少女を連れて小屋の前まで来ていた。
「ここだ」
そう言って扉に手を掛けた時、ある風景が頭に浮かんだ。
見覚えのない部屋の中、そこには何も無く、ただベットだけが置かれた部屋にそのベットの上で動かない少女の姿。
その少女はどこか悲し気な表情で、開け放たれた窓から入る風に髪を揺らすだけだった。
レヴァンが見たその風景は、嫌な予感というには余りにも鮮明で、その少女が、クレアであって欲しくないと、ただそう願ってレヴァンは小屋の扉を開ける。
そして、いつも仕事から帰ってきたレヴァンを笑顔で迎えてくれる彼女の姿を思い描いて扉をくぐった。
薄暗い小屋の中、レヴァンの目に最初に飛び込んできた景色の中に思い描いた優しい笑顔は無く、見えたのは、ベットの上で動かなくなっていたクレアの姿だった。
扉を開ける前に見た少女はやはりクレアだったのか、レヴァンはその光景を目にして我を忘れて少女の名前を叫んだ。
「クレアッ!」
ベットに駆け寄り、肩を揺するがクレアはいつものように笑うことも無く、寂し気な表情のまま動かない。
目を覚まさないクレアの姿に、悲しみと怒りがこみ上げた。
なぜあの時、苦しむクレアを一人にしてしまったのか、最期の瞬間を看取ってやることも出来ずに、一人で死なせてしまった。
小屋を出る時に、彼女を助けると言ったレヴァンだったが本当は少し違っている。
死なせたくないと、そう思ったことに間違い無い、だが、それは彼女の為ではない。
ただレヴァンには彼女を失うことが怖かった、直視すれば今にも投げ出してしまいたくなるような辛い現実を生きていたレヴァンにとって、彼女の存在、そして、彼女の見せてくれた夢だけが、この世界に生きる希望をくれたのだ。
彼女を失ってしまうなど耐えられない、そんな自己中心的な理由でレヴァンはあの時、小屋を飛び出した。
彼女を失う悲しみと、自分への怒りで最早立っていることも出来ず、レヴァンはその場で崩れ落ちた。
「はははっ」
部屋に不謹慎な笑い声が響く。
「大丈夫だ少年」
そう言ったのは、レヴァンと一緒に部屋に入ってきていた赤い髪の男だった。
鋭い目つきを更に細めてクレアを見ると、
「呼吸も心臓も止まりかけてるが、まだ生きてる」
そして男はゆっくりと黒い痣の浮き出たクレアも右腕に触れた。
「本当か!?まだ助かるのか!?」
『生きている』それを聞いたレヴァンは男に身を乗り出すようにして尋ねるが男は少し鬱陶しいというような表情の後に鼻を鳴らし
「命だけは助かるそれは約束してやるよ、だから下がってろっ邪魔だ」
そう言って、クレアに視線を戻した。
少しの間、クレアの腕の痣を観察していた男が、顔を上げて振り返る。
「おいアレシア、水晶を出せ、一番純度の高い奴だ」
「はい」
レヴァンの隣で男の様子を見ていたアレシアは男に言われ、持っていたトランクを開いて、中から水晶を取り出すとそれを男に手渡した。
それは3センチ程の小さな水晶だったが、蝋燭が灯るだけの薄暗い部屋の中で青白い綺麗な光を放っている。
それを受け取った男は、にやっと笑いレヴァンの方を見た。
そしてどこか嬉しそうな顔で
「よく見ていろ、いいものんが見れるぞ」
そう言うと、男は水晶を握り目を瞑った。
握られた手の中で、微かに水晶の砕ける音がして男の手から光が漏れ出す。
青と白の光が部屋の中を照らし、クレアを包むその光景を見たレヴァンはただ、それを美しいと、そう思った。