第4話
物陰から飛び出し、ナイフを構えた右手を赤髪の男の左胸を目がけて伸ばす。
「-----っ!!」
次の瞬間、ナイフが刺さった感触は無く、代わりに殴られた様な痛みが全身に走り、気が付くと、レヴァンは道に転がっていた。
何が起こったのか分からず、うつ伏せに倒れた体を起こそうとするが、背中にある重みで起き上がることが出来ない。
「なぁーんだガキじゃねーか」
上から聞こえてきた声に顔を向けるとさっきまで正面にいた赤い髪の男が煙を吐きながら立っていた。
「これだから夜のD地区は危険だと言ったんですよ」
後ろから聞こえてくる女の声を聞き、レヴァンは状況を把握した。
ナイフが刺さるまでの僅かな時間に、この少女はレヴァンを地面に叩きつける様にして取り押さえたのだ。
最初に男にナイフを向けたのは、単純にその後、力の弱い女なら不意打ちでなくとも何とかなると考えたからだったが、それが誤算だとレヴァンが気が付いた時にはもう遅かった。
「クッソ」
レヴァンは身動きの取れない体をよじりながら男を睨みつける。
レヴァンの声を聞き、男がまた口を開いた。
「お前孤児か?」
にやけた顔の男は面白がる様にレヴァンにそう聞いた。
「見りゃ分かんだろ!」
地面に押さえつけられて身動きもできない状況の中でも強気な口調のレヴァンに、男は興味が湧いたのかにやけた顔を崩さないまま次の質問をしてきた。
「そーか、なんで俺を殺そうと思った?」
この王国で一番の貧民街に高価な装飾品を身に着けて歩いていればレヴァンの様な状況でなくともそれを狙う者は大勢いる。
男が完全に面白がって質問をしていることに気が付きレヴァンの口調はさらに強まった。
「金が必要なんだよ!」
そう口にして、レヴァンの頭にはクレアの事がよぎった。
この瞬間にも、ベットの上で高熱にうなされ、痛みに耐えている。
こんな事をしている間にも、クレアが死んでしまうかもしれない、という状況にレヴァンは焦りを隠せなくなっていった。
「なぁ頼む!見逃してくれ!今、どうしても街に行って医者を連れてこないといけねーんだ!」
「ははっ殺そうとしておいて随分勝手な奴だな」
男が呆れたように笑った。
レヴァンにもそんな事は分かっているが、自分がここで死んだら、クレアも死んでしまう。
今はこの男に命乞いをする他に無かった。
「そんな事は分かってる!でも頼む!早くしないとクレアが…」
力なく彼女の名前を呼んだレヴァンに男が質問を続けた。
「さっき医者が必要だって言ってたな?そのクレアって子が病気なのか?」
そう言われベットの上のクレアの右腕に蠢く黒い痣を思い出す。
「病気か分かんねぇけど、体に黒い痣みたいな模様が浮き出てどんどん弱ってくんだ…早くどうにかしないと」
それを聞いた男の顔が一瞬変わった。
「その痣、右手から首まで伸びてる痣か?熱は?」
男は今まで見せなかった真剣な表情でそう聞いた。
「そ、そうだけど、熱もある…」
突然声色が変わり症状まで言い当てた男にレヴァンは驚いた。
「そうか…」
顎に手を当て、少し間を置くと、男は元のにやけた顔に戻り
「少年、俺がその子を助けてやろう」