ホワイトな記念日は
小さな恋愛物語
クリスマス
「バッカみたい……」
コンクリートの上に転がる小さな石を蹴る。
クリスマスってイエス・キリストの誕生日でしょ。肩にかかった白いほこりを払いつつ塾の帰り道何度も何度も通った道を歩く。
「ホワイト……クリスマス……」
初めて君と会ったクリスマスイブあの時はちょっとした悪戯心のようなモノでクリスマスに君と歩いた街で雪が降り始めた時は運命だと思った。
でもそんな少しの悪戯心に今は恨みさえ抱いてしまう。
明るい街灯がわたしを笑っていた。
堪え切れずいつもと違う裏道を通る。人影も少なく薄暗い道こんな日でもなければ怖くて通ることなんてないだろう、、でも今日は少しだけ遅く帰りたかった。
薄暗く光る独りの自販機に近寄る私は夏によくコンビニに群がる虫の気分だった。
でもいまはひとり。
普段飲みもしないブラックコーヒーを買ってすぐ近くの公園に吸い込まれる、
昔から此処は知っていた知っていても入る事なんてなかった私からすれば背景の一つタダの模型であった
でも今日だけはそれが心を鎮める聖地に見えたのだ。
そして、たった一つの明かりが灯すベンチに誘われるように腰掛けた。
「君……ひとり?」
反対側のベンチには先客がいたようだ。背中合わせに座ったため声でしか判別できなかったが私と年が同じくらいの男の子だろう。
私はすぐにベンチを去り、手にした飲めもしないコーヒーをもって帰ろうとした。
「待ちなよ」
その落ち着いた声と懐かしい響きに何故か私の足は地面に貼り付けにされる。
……
「………………。」
「ちょうど待ってる人がいるんだ、まだ来てない。よかったら少しお喋りして時間を潰さないかい?」
「…………大丈夫です。」
私は断りの意味を込めた大丈夫のつもりだったのだが相手からは肯定で捉えられたらしい声を少し高く上機嫌になったようで喋り始めた。
「……そう……朝ね、枕元にクリスマスプレゼントが置いてあったんだ!!もちろん高校生になった今でもサンタクロースとか信じてる訳じゃないよっ!」
「……はい。」
「今日クリスマスだからゲーセン空いてるかな〜って思って行ったらいつもより人がいたんだ!びっくりだよねw」
「……は……はい……?」
「そうバイト先でねクリスマスは休みを取りたいって人が多すぎて店員が俺しかいなくなったんだw」
「…………はい。」
「今日はさホワイトクリスマスだよ!!池袋にあるある場所でホワイトクリスマス迎えたカップルは一生結ばれるとかっ!w」
彼はその後も私の相槌も何も聞くことなく喋り続けた。
15分はこの謎のクリスマストークに付き合わされた。だけど不思議と落ち着く空気に時間を僅かばかり忘れていた。
突然そんな時たわいもない雑談に質問が横入りして来た。
「君はクリスマスが嫌いかい?」
『 大嫌い 』
2、3秒してから自分の行った発言の幼稚さに気づく。
「…ハッ…いきなり…ごめんなさい…」
「大丈夫だよ、こちらこそいきなり質問してごめんね。」
寂しそうな声をする、
では失礼します。そう放った私の声は不思議な力にかき消された。
「貴方はクリスマスが好きなのですね」
「もっちろん!!俺はクリスマスが好きずっと好き昔から。この日ただの記念日から自分だけの記念日に変えてくれた人がいるから!」
待ち人の話だろう。
リア充の幸せ話を押し付けられている気がしてほんの少しイライラした。
「その人は幸せ者ですね、思い待ってくれる人がいるのですから」
固定文の返信のように口からこぼれた。
「誰にでもいるさ。思い、待ってる人が。それに気付かされる日だと思ってる」
「私にはいません」
思わず強い口調がでてしまった。
「それにクリスマスは……」
私は嫌いだ、この日を踏みにじった自分も嫌いだこの日をすごす度に自分の愚かさを他人に見せつけ嘲られている気がする。
「私は……キライ……ケンリも……ない……」
意図もしない弱気な風が胸を貫く。
「そっか……」
10分程だろうか不思議と温かい光の空間にすっかり浸っていた。
「君はクリスマスをどう思ってるの?」
決まってる。キリストの誕生日そう聞いた、
なのに口は思考とは別の切り口を開く。
「私が壊した大切な……思い出の日……」
確かにこの冷えた口からこぼれた言葉、不意に目が熱くなる。
「思い出の日が嫌いな日でいいの?」
「この日を迎える度に私は惨めになる……」
「なんで惨めになるのさ?」
「私自身がその思い出を台無しにしたからだよ」
「思い出は思い出として心に残しておく。今はどうあれその時の気持ち感情は本物でしょ?大切にした方がいいと思うな」
「うるさい!!!アンタに!!何がわかるの…さ……」
自分でもわかった言葉が震え単語を連ねる度に弱々しくなる声が。
「何も、なにもわからないよ。だからこそ言える。その記憶、思い出がどんな幸せでもどんな不幸でも背負わなくてはいけない。逃げるだけじゃ何もはじまらない」
「もし君が嫌なことがある度にその日を嫌い過ごすのなら50年後には毎日記念日になってるかもね」
小馬鹿にしたような口調と拍子抜けなオチに胸のつきものが軽くなった気がする。
……
「…………。」
肩に積もった白い雪をほろいながらコーヒー缶を口につける。
「あーあー、俺は今日という日を君に好きになって欲しいな」
「はいはい。」
精一杯適当に返答した。気を許したら自分自身に負けた気がしてならないから。
「だからさ、"好き"って言ってよ。クリスマス」
不意なお願いに張り詰めた糸が切れてしまった。
「昔から……"好きだよ今でも好き"……クリスマス」
顔なんて見えてないからいいんだ……って無理やり声を作った。
「突然声かけてごめんね、もう俺は帰るよ。もう用事は済んだから。」
背中越しに歩いていく彼の足音が聞こえる雪の作った精一杯の階段をひとつひとつ踏みしめる音。
最後まで顔は見なかった。
最後まで他人だった。
最後には言えた。
私は立ち上がりとっくに飲み干したコーヒーの缶を投げ捨てて回れ右いつもの帰り道で帰っていった。
クリスマスだったので衝動で書きました。
私はやっぱりファンタジーとかミステリーが好きですね!!!()