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渓流夜桜月に叢雲

【深月 さんが入室しました】


『深月:起きてるー?』


『深月:寝てるならアラーム連打で叩き起こすけど』


【ZASHIKING さんが入室しました】


『ZASHIKING:寝てたよバカヤロー』


『深月:永眠してないなら良いよ別に。』


『深月:とりあえず私も人里に出れたからその報告を、と。』


『ZASHIKING:それならこっちも二つ程報告がある。』


『ZASHIKING:一つはこのチャット、ログも見れるから留守番電話みてーに使え。一々起こされてもウザいしな。あとオプションでアラームとかの音量は調節できる。』


『深月:それ一応報告一つとしてまとめる?』


『ZASHIKING:むしろこっちが重要だ。』


『ZASHIKING:たらこ天狗と繋がった』


『深月:本当!?』


『ZASHIKING:だが向こうは結構ヤバいらしい。』


『ZASHIKING:なんか追いかけ回されてるらしくてな、一段落着くまではチャットに参加するのは困難だそうだ。』


『深月:それは心配ね……』


『ZASHIKING:まぁ、死んでないだけ儲けもんだろ。一応ゲームキャラのステータスが引き継がれている事は説明しておいた。』


『深月:あ、それなんだけど。』


『ZASHIKING:どうした?』


『深月:この体、妖気スキルの影響も受けてるわよ。』


『ZASHIKING:マジか?』


『深月:ええ、しかもゲーム内の効果と文字通りの効果で二つ。』


『深月:ヘビースモーカーの妖気スキルなら秘煙の時間延長と、煙草好きになる。みたいにね』


『ZASHIKING:そうか……この情報は割と重要だな。ありがとよ』


『深月:ショタ座敷童がおっさんくさい文章打ってると思うと草』


『ZASHIKING:中身はアラフォーのおっさんだからな』


『深月:おっさんがかつてロリキャラ操ってたの……』


『ZASHIKING:うるせー、そういうてめーはどうなんだよ』


『深月;二十歳ですわ』


『ZASHIKING:弄りづれえ年齢層だな』


『深月:あと、私が今いる場所が分かったわ。ガルテ王国ってとこみたい。』


『ZASHIKING:あー、すまん。今キャラバンの人達寝てるから確かめれねー。』


『深月:まぁ分かったら適当にログに残しといて。』


『ZASHIKING:了解。ああそうだ、一応忠告しとく。』


『深月:なにー?』


『ZASHIKING:どうもこの世界じゃ獣人ってのがいるらしいんだが……社会的地位がそんなに高くないらしい。』


『ZASHIKING:お前と狐帝は見てくれは獣人だし気をつけろよ、と。』


『深月:あんまり差別的な感じはしなかったけどなぁ……とりあえず分かったー。でもそれだとたらこ天狗とかどうなってんだろう』


『ZASHIKING:ログ見ろ』









『ZASHIKING:人間っぽさの欠片も無い人型烏天狗になってんだと』


『深月:あっ………御愁傷様としか言いようが無い。』







退室したチャットを消したミツキは、自分に割り当てられた宿の部屋で一息つく。普段そこまで旅人が来る訳でもない辺境の宿場は、ミツキとアリュエ二人分の部屋を用意するのは雑作も無い事だった。だが、宿泊費は荷物が流されたのなら金もないだろう、とアリュエが出してくれたものだ。流石に申し訳なくなるというものだ。


「金、ねえ………」


ゲームをやってた時は金の事など考てもいなかった。現実の話ではなくゲーム内の話である。確か単位が「両」なのは覚えているが所持金がいくらかは覚えていない。なにせ、武器を入手するためにボス周回、ドロップするアイテムを大量に手に入れる為にクソつまらない作業をし続けた深月のお財布は9が8つほどあるのだ。

だが、ゲーム内でどれほど金持ちだったとしてもここでは全く意味のない……


ピッ、ピッ(メニューからステータス画面へ移動)


ピッ(所持金の部分をタッチ)


ピッ、チャリンッ(表示された空欄の数値を1にしたところ、床に一枚の小判が落ちる)


「ほあああああああ………!!?!?」


確定、金銭的な問題など最初から存在していなかった。確か、宿場の主人にアリュエが出していたのは潰れた十円玉のような銅貨だったが、今手にあるのはジャパニーズ金貨である。

しかも、1両でこれである。あと数千万枚は後ろに控えている訳だし、余程豪遊しない限りは一生金に困る事は無いだろう。

確か古代技術エンシェントとかいう古代文明のようなものがあったはず、それ由来のものと言えば誤摩化す事は可能だろう。問題は、一泊するのに銅貨数枚という事は、余程の買い物でない限り金貨の出番は無いという事だろうか。


「ううむ……どうしたものか。」


考えても異世界の常識すら知らないのだ、思いつくものも思いつかない。仕方が無いので寝ようとしたのだが……


「煙草が吸いたい。」


妖気スキルの影響が出てきてしまった。猛烈に煙草を吸いたい。割合で言えば8:2くらいの比率で害しかない煙を味わいたい。とはいえ、流石にこれから寝る、という時に秘煙を使うのはもったいなさすぎる。

しばらく欲求と理性がせめぎ合っていたが、数分して共に解決策を模索し始めた欲求と理性がミツキに「宿場なら煙草くらいあるのでは?」という回答を提出した。

欲求が早く動けと体を急かし、理性もGOサインを出した。ならば止まる理由は無いと一階へと降りて行く。

一階にはこの宿場の主人とその妻がリラックスした様子で夫婦水入らずと言った様子だったが、申し訳ないが水を差させてもらう。


「もし、お二人さん。」


「んー……おっ、何用ですかなお客さん。」


「ふんっ!」


ミツキの姿を見て露骨に顔がにやけた主人が妻に後頭部を殴られ机に額をぶつけて動かなくなったが、しかたのないことだ。


「どうしたんです?なにか問題でも?」


「いえ、そういうわけじゃないんだけど……聞きたいんだけど、煙草ってあるかしら?」


「煙草?そりゃありますが……貴女が吸うんですかい?」


「ええ、嗜む程度にはね。」


奇妙なものを見るような目を向けられ、疑問符を浮かべるミツキ。だがその理由は女将が持って来た煙草で理解できた。作りはミツキが知っているものよりも雑、且つ貧相なものであるが……その姿は映画などで何度か登場するものだ。

それは葉巻、確かにこの外見で葉巻を吸っていたら違和感しか無いだろう。


「えーと……これより細いのとかは無いかしら?」


「すいません……ウチにゃこれしかないんでさぁ……」


「あ、起きた。」


復帰した主人が申し訳なさそうに頭を下げる。とはいえ、そろそろ限界だ。このままでは宿場の主人達に八つ当たりしかねない。しばらく打開策を考えていたが、直ぐに解決策を思いつく。


「じゃあこれ一本を。代金は明日で良いかしら?」


「いえ、一本までなら宿泊費込みでさぁ。」


「あらありがたい。じゃああとはナイフかなにかを貸して頂けないかしら?」


ナイフを受け取ったミツキは、その場で葉巻の解体を始める。簡単な話だ、量が多いなら刻んで減らせば良い。開きになった葉巻から小指の先ほどの煙草を煙管の火皿へと入れる。何気に煙草を入れると自動で着火されるのが素晴らしい。マッチなどの類いを持っていなかったのでこの機能はありがたいものだ。


「……………ふぅ…」


なんというか、辺境の宿場で出される煙草に期待はしてなかったのだが、意外にこれが良い。不思議な事に、少しだけ甘いのだ。メープルシロップが一番近いだろうか?例えはおかしいが煙にメープルシロップを混ぜたような感じがするのだ。


「これはいいわね……明日まとめて買っちゃおうかしら。」


アリュエにツケてもらおう。後で小判を換金して支払えば良いだろうし。そう自分の中で決定したミツキは解体した葉巻を持って自室へと戻るのだった。








「……なぁお前。」


「……なんだいアンタ」


「……俺もおめーも結構生きてきたがよぉ……あんな色っぽく煙草吸う子は初めて見たぜ……」


「あたしもだよ……まぁそれはそれとして……にやにやしない!!」


「がふぅ!!?」











簡単に体を拭いたアリュエはそういえば、とミツキの部屋へと向かう。寝ていれば明日にするつもりだが、起きているならサルフについてからどうするつもりなのか聞いておこうと思ったのだ。


「ミツキ、起きているか?」


「ん〜?……ふぅー……起きてるよー」


「邪魔をする。聞きたい事があっ………」


「どうしたの?」


その光景に心奪われ、体の動きが止まる。扉を開いた先に在ったのはミツキがハードラースベアを仕留めた時に使っていた奇妙な筒、それを咥えている光景だった。口から僅かに煙が漏れていることと、机の上にナイフで切り開かれた煙草がある事から、彼女は恐らく喫煙者。寝る前に一服していたのだろう。

だが、窓に腰掛け月を眺めながら煙を吐く彼女の姿には……昼間の時とは違う、恐ろしいまでの美しさがあった。昼間ミツキと会った時、彼女に抱いた印象は幼さだった。それは体躯と不釣り合いな筒を持っていたから故に幼さが強調されているというのもあったのだろう。昼間見た彼女の表情の殆どが笑顔だったから、というのもあるだろう。

だが今目の前にいる彼女からは幼さではなく、成熟した女性の静かでありながら心を鷲掴みにするかのような色気を漂わせていた。

背を窓枠に預け、片足を窓枠に乗せている姿はお世辞にも上品とは言い難い。だが、穿いているスカートとズボンの中間の衣服のお陰で下着が見えたりと言った事は無く、むしろわずかに見える足が艶かしさすら感じさせる。

表情はどこか愁いを帯びているようにも見え、その濡れた眼は月を見上げている。

そして何よりもミツキを際立たせているのはその衣服だ。夜の月と花、そして渓流を刺繍したその衣服が彼女の美しさを際立たせ、そして窓から覗く本物の月が天然の明かりとなって、煙をくゆらせる彼女を照らしていた。その姿は、服と、彼女自身の美貌と、その他のあらゆる要因が重なり溶け合って、満開の花を咲かせる春の渓流にて、叢雲で姿を隠す月を幻視してしまう程だった。


「……ええと?何の用かしら?」


「………………はっ、あ、いや、少し聞いておきたい事があってな、うん。」


性別を問わず人を惹き付ける彼女の姿に心を奪われかけていたアリュエだったが、正気に戻ると聞きたかった疑問を問う。


「なにー?」


「いや、サルフに行ったらどうするつもりなのか聞いておきたくてな。」


「んー……とりあえず観光ね。お魚食べたい。あとは……そうね、友人が砂漠にいるらしいからそっちに向かう準備かしら。」


「砂漠?それだけか?」


「ええ、砂漠にいる、という事しか分かってないのよね……」


砂漠、とアリュエは考え込む。砂漠とは大陸西部に広がる砂で出来た土地の事だ。ファルタ大陸西部は殆どが砂漠で構成されている、と聞くが彼女はその広大な砂漠で一握の砂を見つけるような事をしようというのか。

冗談で茶化している……ようには見えない。彼女の目には必ず見つけ出してみせる、という決意が宿っていた。

事情を聞きたいと思ったが、まだアリュエとミツキは会ったばかりの初対面に等しい。ミツキ自身フレンドリーなのもあってか遠慮する事無く話す事が出来るが、自分は彼女の事情に踏み込めるような立場ではない。


「そうか……私は大陸西部には二度しか行った事が無いからな……力になれそうにない。」


「いやいや、宿泊費出してくれるだけでも大助かりよ。」


「そう言ってくれるならありがたいよ。では、明日の朝には出発するから準備しておいてくれ。」


「りょうかーい。」


アリュエは部屋から出て、扉を閉じて一つ息をつく。なんというか、見てはいけないものを見た気分というか、とても良いものを見た気分というか、相反する二つが一つになったような不思議な気分のアリュエであった。

とりあえず書き溜めてある分は上げて行きます

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