プロローグ乙
三樹……もとい深月がよく一緒に攻略をする三人のプレイヤー達と適当に駄弁りながら時間を潰していると、遂にテンプレパーティー以外でクリアは可能かを検証する決死隊……という大義名分の百鬼夜行に加わろうとする酔狂なアヤカシが現れた。
【ゴゴゴッドドド さんが百鬼夜行に参入しました】
『ゴゴゴッドドド:よろしくおねがいします』
『深月:よろ』
『たらこ天狗:しくおねが』
『ZASHIKING:いします』
『狐帝:。』
『ZASHIKING:。だけwww』
『深月:この百鬼夜行はクリア確率は他の所と比べたらもの凄く低いけど大丈夫ですか?』
『ゴゴゴッドドド:だいじょうぶです』
『ゴゴゴッドドド:それにほかのところだとはじかれるので』
『ZASHIKING:ひらがなかわいい』
『狐帝:見た目は可愛くないけどな』
深月達の百鬼夜行に来たゴゴゴッドドドなるハンドルネームのアバターはどうやら「憑喪神」系統らしく、中身のない鎧武者であった。
「憑喪神」系統の種族は、選ぶ道具で特性が変わる種族だ。鎧を選んだ場合の特性は「分離合体」。
日本の鎧のくせにロケットパンチさながらに腕を飛ばしたり、攻撃を受けてバラバラになっても戦隊モノのロボットよろしく合体する様は結構なプレイヤーから愛されていたりする。
ただしロマンにパラメーターを振りすぎたせいか耐久に難がありイベントではほぼ役に立たない、というのがプレイヤーの間での評価だ。一応防御をマシなレベルに上げる事も出来るが、それをするならさっさと別の種族に転生してそっちを育てれば良い。
あと初期アバターの姿がどう見ても霧に目と口がついただけというものなので、見た目重視の三樹内での評価は低い。
『たらこ天狗:ゴゴゴッドドドさん、この百鬼夜行は一応クリアを目的としているので』
『深月:私の作った攻略チャート通りに動いてもらう必要があるのですが良いですか?』
『ゴゴゴッドドド:わかりました』
そしてクエストが開始され、イベントステージ【紅夜の遺跡】に五体のアヤカシが降り立つ。
『ゴゴゴッドドド:みなさんそうびすごいですね』
『深月:アバターに似合う装備の為なら努力は惜しまないわ。』
深月が担いでいるのはハンマーと見間違える程に巨大な煙管【大親分の金剛煙管】
その隣で自己強化の酒を飲んでいるたらこ天狗は腰の左右に佩いた青い羽を使った扇子【風見鶏の蒼天扇】
「えいえいオー!」のポーズをとるZASHIKINGは座敷童専用武器である「お供え」最上位の【黄金小豆飯】
最高脅威限定の装備を揃えただけあって手慣れた様子で準備する狐帝はレアドロップである「業物シリーズ」の太刀【旭日丸】
どれも今現在揃え得る装備の中ではトップクラスの武器だ。
とはいえ、ゴゴゴッドドドの武器もレアドロップや作成条件が厳しい深月達の武器程ではないとは言え、入手の難易度に反して最前線でも使える長巻【大蠎】であるし、戦闘力だけならば問題無いと言えるだろう。
『深月:じゃあ速度強化と疲労無視の強喝煙入れるんで、ボス前まで雑魚敵全部無視して突っ走ります。アイテム諸々は無視です。これは絶対です。』
『狐帝:先導はお任せあれです』
深月の持つ武器種「煙管」のアクション、詰めた煙草を消費して発動するプレイヤーを強化したり敵のステータスを下げる効果を持つ【秘煙】でメンバー全員を強化して行く。
「てぃやああああああ…!……ハッ!!!」
この秘煙を使用すると、アクションの終わりにキャラクターが喝を入れる為に叫ぶのだが、美少女の鈴のような声を精一杯張り上げるこの叫びが何気に好きだったりする三樹である。
『深月:では出発』
『ゴゴゴッドドド:よろしくおねがいします』
そして、五体のアヤカシが強化を受けた事で大幅に速度を上げてステージを突っ走って行く。既に雑魚敵があまり湧かないルートを知っている上に、三樹が攻略wikiを参考に組み立てたチャート通りに駆ける狐帝を先頭に、脇目も振らずに走り続ける。
そして数分後、ボス前の扉に到達する五体。
『深月:じゃあ狐帝よろしくお願いします。』
『狐帝:あいさー』
数秒後、狐帝がスキルの発動準備に入る。本来は特定のアイテムを用いる事で「夜の帳」を降ろす必要があるが、狐がいる場合はその手間を省略する事が出来る。発動するのは勿論……
「神様だって騙してやるよ!」
狐帝のキャラクターがそう叫んだ瞬間、夕暮れの空が一瞬で夜空へと塗り変わる。幾人かのプレイヤーの検証の結果ボス前で「現世化かし・天」を使えばアイテムの収集を「飛ばす」ことができるのだ。
そして、ボス前の扉の開放条件「天候を夜にする」が達成された事でゆっくりと軋みを上げながら扉が開かれて行く。
その間に、一同が全力でエンチャントから妖力回復まであらゆる準備を完了させる。
そして現れるイベントボス「吸血大公ドラキュラ」、青白い肌にいかにも吸血鬼な服装、ただし大きさはプレイヤーキャラの三倍はある。有名な声優を起用したボイスが流れるが、勿論イベントムービーはスキップ。後で見れるのだからさっさと始めるのは暗黙の了解だ。
まず飛び出したのは深月とたらこ天狗。援護役である二人、深月は開始時と同じように秘煙でメンバーを強化して行く。
そしてたらこ天狗は、戦闘開始時に一度だけ使用できる確定怯み先制攻撃である天狗系アヤカシの固有妖気「旋風」をドラキュラにぶつける。
そして、アタッカーである狐帝とゴゴゴッドドドが深月の攻撃力強化の秘煙を受けてドラキュラへと突っ込む。
数度斬りつけているとドラキュラが怯みから回復、攻撃動作に入る。
『深月:GO!』
端的な合図を出した直後、ドラキュラの薙ぎ払い攻撃を受けた狐帝とゴゴゴッドドドが吹き飛ばされる。その体力が見る見るうちに削られて行き……その減少が途中で止まった。
それは、最後方で待機するZASHIKINGによるものだ。座敷童の専用装備「お供え」、それは装備したお供えの種類によって効果が変わる一定時間特殊な効果を付与する物だ。これだけなら煙管のアクションと変わらないように聞こえるだろうが、煙管と大きく異なるのはその効果の規模だ。
今ZASHIKINGが装備している黄金小豆飯ともなればその効果は、「一定時間体力が20%以下に下がらなくなる」という効果が与えられるのだ。勿論永続で無い上、一度効果が切れれば別のお供えを装備しない限りただのサンドバッグになってしまうというデメリットもある。
そして何より装備変更中はその場から動けない為、ドラキュラのような高機動の敵の前では成す術無くやられてしまうのだ。
だがそれを見越した上での攻略である。本来は牽制が役割である天狗が座敷童のガードに付き、狸が妖術を発動させる。
「神様だって欺いてあげる!」
可愛らしい声とともに、「現世化かし・地」が発動、フィールドそのものがブロックを積み上げたかのように隆起し、ドラキュラの動きを阻害すると同時に他のプレイヤーの為の壁と足場を作り出す。
『深月:次!!!』
「か、勝ったぁ〜〜……っ!!!!」
コントローラーを机の上に置いた三樹は思わずガッツポーズをする。パーティーメンバーが自分と座敷童を残して力尽きた時は半分諦めかけたが、本当にギリギリのラインでなんとかドラキュラを打ち倒すことに成功したのだ。
断末魔と共に朝日を浴びたドラキュラが灰となって消えて行く。そして大量のアイテムをドロップする。
「装備ドロップは四つ……」
出現する装備道具は七種類。目当ての花鳥風月の羽織を含む、【山紫水明のハイカラ】と対をなす【花鳥風月のハイカラ】一式の五種類、現在はドラキュラからしかドロップしない【吸血公の杭】、そして新登場の業物【華炎馬】だ。
レア度は武器二つの方が高いので出る可能性は高いがダブる確率も含まれるので七分の一とはいかない。祈りながら取得したアイテム一覧を見る。
【取得道具
華炎馬
花鳥風月の簪
花鳥風月の簪
花鳥風月の羽織】
一つ言えるのは、数秒は確実に三樹の心臓は止まったという事だ。
「来っっっっっっっったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
思わず叫んでしまった三樹。時刻はとっくに日を跨いだ深夜であり、近所迷惑であると自分の口を手で押さえる。だが、その頬は限界まで吊り上がっており、声を押さえ込んだ三樹はその報告をすべくチャットを打ち込んで行く。
『深月:羽織来たわああああああああああああああああああああああああああ!!!!』
『狐帝:一発ツモとか裏山過ぎて妬ましいわー、オメ』
『たらこ天狗;おめです〜、自分は杭が出ました!でも杭一個だけか……』
『ZASHIKING:おめっとさーん、座敷童に大太刀二本もどうしろってんですかね……ww』
『ゴゴゴッドドド:ありがとうございます』
『ゴゴゴッドドド:ありがとうございます』
『ゴゴゴッドドド:かえんまでました』
どうやら、一部例外を除いて大体のメンバーがレアドロップを引き当てることができたようだ。
だがそんなことはどうでも良い、今はどうでもいいのだ。三樹はRTAでもしているかの如くアイテム欄を開き、【上着装備】を山紫水明の羽織から花鳥風月の羽織に変更する。
『装備を変更しますか?』の選択肢に迷う事なく「はい」を押し、深月の装いが変更される。
朝日を模した雲と太陽を刺繍した空色の羽織から、背に満月、前に桜の花びらをあしらえた夜色の羽織へと。
それは渓流を流れる河川をイメージさせる袴と噛み合わさり、深月を夜桜で着飾らせる。
物理防御高めの山紫水明から妖術防御高めの花鳥風月に変わった事でステータスに変化が起きるが、見た目>
>>ステータスなので気にしない。それに補助の道具を使えばある程度妖気の調整は出来るので問題はない。
『深月:パーフェクト……』
『ZASHIKING:華炎馬っていくらで売れたっけ』
『たらこ天狗:売るより玉鋼にして強化に回したらどうです?』
『ZASHIKING:ヒント、座敷童の武器種』
『狐帝:あっ……(察し)』
「まぁこんなもんか。」
妖気調整を終えた三樹はいつもの面々+ゴゴゴッドドドを含めた会話に混ざる。
『深月:パーフェクト深月様降臨』
『たらこ天狗:おー可愛い』
『ZASHIKING:これを揃える為にどれだけのイベントボスが倒されたのだろうか……w』
『ゴゴゴッドドド:すごいです』
『狐帝:多分イベントボスに挑む為に必要なアイテムの為に化かされまくったヒューマンが一番の被害者』
『深月:所詮ヒューマンは我々にアイテムを貢ぐ肉財布に過ぎないのよ……』
『ZASHIKING:やだ……なんか卑猥……』
『ゴゴゴッドドド:そういえばみなさんききたいんですけど』
『狐帝:んー?』
『ゴゴゴッドドド:みなさんてんせいってなんかいしてます?』
『深月:ゼロ。この姿こそが至高』
これは三樹のささやかな自慢だ。このゲームを始めて狸の種族を選んでから、どれだけ狸が役に立たないイベント中であっても一度たりとも転生をしていない。それは狸耳と狸尻尾を持つこの深月こそが最高であるという自信があってこそであり、ある意味では誇りである。
『たらこ天狗:二回別種族に転生しましたけど他種族の動きは肌に合わなくて天狗に戻ってきましたねー、他の種族でのプレイ時間総合しても10時間いかないかも』
『ZASHIKING:ハンドルネームがこれなんで座敷童以外選ぶとお笑いにしかならないんでw転生は一回だけ性別変更でしましたねー。少女型の座敷童が市松人形みたいで夜プレイしてると怖いww』
『狐帝:狸畜生が転生しようとすると煽ってくるんで(転生して)ないです』
なにぶん、公式の紹介で「あまり仲は良くない」とまで言われる狸系と狐系だ。仮にも狸としては狐を煽らないわけにはいかないだろう。
『ゴゴゴッドドド:このひとたちだったらいいかも』
『狐帝:ん?』
『たらこ天狗:何がです?』
『ゴゴゴッドドド:あやかしたちをたすけてあげてください』
『深月:はいぃ?』
『ZASHIKING:お前は一体何を言ってるんだ』
これはいわゆるゲーム内のキャラに完全になりきったプレイという奴だろうか?そう思いつつ机の上に置いてある(勿論倒してもPCにかからないように離れた場所に設置)缶ビールに手を伸ばし……
缶の代わりに風を掴んだ。
「は?」
自分でも驚くくらい素っ頓狂な裏声が出た。缶ビールの方を見ようとして、そもそも自分がいた筈の自室のPCの前に自分がいないという事に気づく。いや、最初から認識はしていたが脳が認めようとしていなかっただけだ。
なにせ……
自分は今、部屋の中ですらない「空」から、落ちているのだから。