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出しゃばり勇者

ブルタウロスとの戦いの次の日。


「ミツキ、だいじょぶ?」


「んー?あー……大丈夫よ、ちょっと現実をナメてただけ、やっぱ46億年前から運営されてるプレイ人数70億超の大人気オンラインゲームなだけあるわ……」


「泣いてる?」


「うーん……ちょっとメンタルにダメージ入ったかな……」


食客に与えられた部屋のベッドの上、ミツキに抱きかかえられたプロメが不安げにミツキを見上げる。

ミツキは大丈夫だと笑うも、その顔には元気が無い。

プロメは思う。先ほど、ミツキはなにやら光の板に浮かぶ文字を見て今の状態になったのだ。アレが何かは分からないが、今度はミツキがアレを開かないように私が気をつけよう、と。




数分前



【深月 さんが入室しました】


『深月:うっす』


『ZASHIKING:よう』


『たらこ天狗:どもですー』


『深月:いやー……異世界舐めてたわ。』


『ZASHIKING:ペロッ、これはイセカリ!!』


『深月:意味分かんないわよ』


『たらこ天狗:なんかあったんですか?』


『深月:ミノタウロスのご先祖様にリンチされた』


『ZASHIKING:それはもしやリョナ的な意味で?』


『深月:ちげーよ変態親父、雌のゴリラ牛にボッコボコにされた』


『たらこ天狗:キャットファイト……いや、狸VS牛ゴリラ?怪獣大決戦ですかね』


『深月:本当眼球に建物の角が直撃したり散々でさ……相棒が助けてくれなかったらずっと牛のターン!されてたかも』


『ZASHIKING:おうグロ表現やめーや鳥肌立ったじゃねーか』


『深月:いやー、頑丈な身体だし正面切ってオラオラしようとしたけど駄目だったね』


『深月:まぁ次会うような事があれば叩き潰すけど』


『たらこ天狗:ん?』


『たらこ天狗:一応聞きますけど』


『たらこ天狗:もしかして一対一で真正面から戦ったんですか?』


『深月:え?まぁそりゃね。不意打ちされたからそうせざるを得なかったけど』


『たらこ天狗:もいっこ一応聞きますけど………道具ケチったとかやってませんよね?』


『深月:使う暇がなかったのよ。一体倒したら後ろに回り込まれててもう一体にボコボコにされたんだから』


『たらこ天狗:ハイアウトー』


『深月:!?』


『ZASHIKING:一体どうしたし』


『たらこ天狗:深月さん、そりゃ舐めプも甚だしいですよ。』


『深月:え、いや流石に一撃で倒れる相手に道具使うわけにはいかないわよ』


『たらこ天狗:そこが駄目なんです』


『深月:え?』


『たらこ天狗:まぁ私もこの山脈に囲まれた天然要塞の生態系で王者になったからこそのアドバイスなんですけどね。』


『深月:言葉のインパクト凄いわね』


『たらこ天狗:そんなことはどうでもいいんです。いいですか?これは現実であってゲームじゃありません』


『ZASHIKING:せやな』


『たらこ天狗:そもそもアイテムをケチる理由はもったいないから、次に使う為、ですよね?』


『深月:せやな』


『たらこ天狗:ですが、その根底は「次があるから」という理由によるものです。』


『たらこ天狗:ゲームではコンティニューがあり、どんな攻撃を受けて力尽きたとしてもクエスト失敗の一言で片がつきます』


『たらこ天狗:多分、お二人は早いうちに人の文化に触れてしまったから、まだゲーム気分が抜けきってないんです』


『たらこ天狗:私達は確かに強いです(ZASHIKING除く)』


『ZASHIKING:非戦闘員だしな、でもひでぇ』


『たらこ天狗:ですがチートじゃないんです、殴られれば痛いですし腕を噛まれれば血が出るんです』


『深月:実体験したわよ』


『たらこ天狗:いいえ、ちょっとやられたくらいじゃ分かってません』


『たらこ天狗:私達は強いからこそ、これが現実である事を忘れちゃうんです』


『たらこ天狗:忘却は慢心と油断を招きます』


『たらこ天狗:この程度なら耐えられるからアイテムは使わないでおこう』


『たらこ天狗:避ける必要は無い、真正面から受け止めてやろう』


『たらこ天狗:そんな廃人故の舐めプをしがちになるんです』


『深月:図星ですわー』


『たらこ天狗:でしょうね、以前深月さんが話してた「くっ殺系美人とパーティープレイしてる」って話聞いたときそんな気はしてました』


『たらこ天狗:どうせ「私頑丈だし壁でもやろうかな」とか考えてたんでしょう』


『ZASHIKING:返事が無いな』


『たらこ天狗:無言は図星と捉えます。深月さん、あなたのキャラクターが元々どんなキャラだったのか思い出してください』


『たらこ天狗:深月はバフデバフによるサポートをメインとした後方援護のキャラの筈です。』


『たらこ天狗:仮にそんなキャラが前線に出て強化もせずに無双プレイしてたらどう思います?』


『深月:う』


『たらこ天狗:しかもそんなプレイしてるくせに回復をケチっているという。』


『たらこ天狗:しかもしかも見た目重視』


『たらこ天狗:そういうプレイヤーを私達は何と言っていたか、もう分かるでしょう?』


『深月:や、やめ』


『たらこ天狗:勇者深月、あなたは勇者様プレイの波動に魅入られたのです……』


『ZASHIKING:勇者様wwwwwwwwwww』


『深月:そんな馬鹿な……!!』


『たらこ天狗:自分は強いからアイテムケチっても問題ない、だって勇者だから』


『たらこ天狗:率先して仲間を守るのは当たり前、だって勇者だから』


『たらこ天狗:ダメージを受けても絶対に退かない、だって勇者だから』


『たらこ天狗:いいですか勇者深月よ、現実はそんな甘くないんですよ』


『たらこ天狗:速度と攻撃に振りまくった烏天狗の渾身の飛び蹴りを受けてもぴんぴんしてるドラゴンとか』


『たらこ天狗:岩すら砕く怪力を以てしても拘束を緩める事すら出来ない食虫植物Lv1000みたいなのとか』


『たらこ天狗:一口食べただけなのに驚異的即効性で三日間頭痛腹痛で苦しめてくるキノコとか』


『たらこ天狗:あなた方が思ってるよりもこの世界はハードモードなんです』


『たらこ天狗:これは忠告です。自分のステータスに惑わされてはいけません』


『たらこ天狗:道具をケチるな、一人で戦おうとするな、基本は避けゲー、決して無敵じゃない』


『たらこ天狗:あらゆる情報に目を通してください。異世界はプレイヤーに合わせたレベルのモンスターなんて配慮はしてくれません。』


『たらこ天狗:そして、全てのアイテムがどのような効果を発動し、どういったことができるのか把握してください』


『たらこ天狗:そして、これが一番重要です。決して道具を出し渋るようなことはしないでください。』


『たらこ天狗:油断と慢心が後々まで尾を引いて、結果的に大損になる事だってあるんです。』


『たらこ天狗:あと道具の説明文は何気に重要です。』


『たらこ天狗:意外と作り方が書かれてたりするんです。』


『深月:マジで?』


『たらこ天狗:ええ、例えば私が持ってた風見鶏の蒼天扇、説明文には【天を仰ぎ世界の行く末を流れる風を見る風見鶏の尾羽を使った扇】と書かれていました』


『たらこ天狗:流石に同一の風見鶏がいるかは知りませんが、尾羽を使えば烏天狗が使う羽扇が作れると分かりますね』


『たらこ天狗:それ以外にも役に立つ情報は多い筈です。』


『たらこ天狗:よく調べればアイテムを増やす事も出来るかもしれないんですよ?』


『ZASHIKING:なるほど……』


『深月:ステータスしか見てなかったなぁ』


『たらこ天狗:勇者様は一々確認する必要ないですもんね。』


『ZASHIKING:流石勇者様!!』


『深月:勘弁して……』


『たらこ天狗:とにかく、ケチな勇者様は寿命を縮めるだけです。分かりましたか勇者深月?』


『深月:あい……』


『たらこ天狗:自分が全てを担当しようとするのは相方を信頼していないのと同義です。分かりましたか勇者深月?』


『深月:イエスサー……』


『たらこ天狗:イエスマムだネカマ野郎。』


『ZASHIKING:口調wwwwwたらこ天狗軍曹wwwww』


『たらこ天狗:多分トラウマでしばらく戦おうとすると手が震えてへっぴり腰になると思いますけど困難を乗り越えるのです勇者よ』


『深月:勇者様は嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!晒しは嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』


【深月 さんが退室しました】


『ZASHIKING:勇者様の波動に耐えきれなかったのか……』


『たらこ天狗:アヤカシ戦記オンラインじゃ勇者様は晒された上で野良でのパーティープレイはほぼ絶望的になりますしね……』


『ZASHIKING:時にたらこ天狗。』


『たらこ天狗:はい?』


『ZASHIKING:お前の例え、随分とリアリティがあったな』


『たらこ天狗:そりゃサバイバーですし』


『ZASHIKING:せやな、「苔飴食えば状態異常が治るのに高をくくってケチって悶絶し、結果的に苔飴+兵糧丸を使う羽目になった」みたいな?』


『ZASHIKING:………お前さん、元勇者様だろ。』


『ZASHIKING:闘気を込めた剣技教えてくれよ先生。』


【たらこ天狗 さんが退室しました】


『ZASHIKING:ふっ、俺は完全な後方支援且つ非力なショタボーイなんでな。勇者様とは無縁なのだよ』










そんな理由で、一般的に死にかけた者が陥るトラウマとは別のトラウマも込みで震えるミツキであった。


「そっかー……私は勇者様だったのかー………」


「ミツキ、ゆしゃ?」


「忘れなさーい」


プロメの頭に乗せた顎を動かし、ぐりぐりとプロメの頭を揺らす。


(しかし………ソロプレイのジャングル大帝に信頼を説かれるとは思わなかったなぁ……)


自分を勇者様だと言われたことよりも、何よりもミツキに堪えたのは相棒を、アリュエを信頼していないと言われたこと。


(確かに思い返してみれば、最初は支援するつもりで、次に壁役やろうと思い、最終的にトドメを自分で刺そうとしてたもんなぁ……)


まごう事なき勇者様っぷりに思わず自嘲の笑みを浮かべるミツキ。


「さて………とりあえず謝罪からかしら。」


その前に。

ミツキはたらこ天狗の忠告通り、アイテムの説明文を読む事にする。


「それ、なに?」


「んー、プロメ文字読める?」


「………たしなみていどに?」


「どこで覚えたのよそんな言葉……」


恐らくプロメに入れ知恵したであろうミューラでも読む事はできないだろう。何せ、ここに表示されているのは地球の言語、つまりは日本語だ。


「ふむふむ……」


確かに、道具の説明欄には大雑把に、とはいえ作り方のようなものが書かれていたりする。例えば回復兵糧丸は薬草を秘伝の製法で圧縮し、即効性と効果向上させたもの……とある。秘伝の製法とやらがどんなものかは分からないが、薬草を圧縮して作るということは分かる訳だ。


「それっぽいものは作れるかも、と。」


他の道具にも目を通し、作れるかもしれないものをリストアップしつつもミツキはある道具の説明欄に目を留める。


「変化の葉、【狐系、狸系が変化の際に使用する葉。妖気を多く含む葉程、変化の術に使用するに相応しいものとなる。】………妖気、ねぇ。」


「……ぬぃ?」


ミツキの髪の毛を弄って遊んでいたプロメを見るミツキ。プロメにしたように適当な葉っぱに妖力を込めればこれは量産できるのでは?と考えるミツキ。


「………試してみる価値はあるわね。」






外に出たミツキは商会の庭に生えていた木から葉を一枚だけ拝借し、再び部屋に戻る。


「別に妖力を蘇生する時みたいに半分入れる必要は無い……こう、ちょろっと蛇口をひねる感じで……」


両掌で広葉樹の葉を包むように挟み、掌に意識を集中する。


「こう……コーティングするように……」


しばらく集中していると、ミツキの掌から何か温かいものが流れて行く感覚がする。それに記憶があるミツキは出し過ぎないように気をつけながらその暖かなもの…妖力を葉に込めて行く。


「こんなもんかしら……」


試しに道具欄に入れて名前を確かめる。一瞬でミツキの掌に消えた葉っぱだったが、数秒後元の場所に再出現する。

この現象にミツキは覚えがある。これは道具の許容限界を超えた時に起きる現象だ。今度は道具欄にある元々限界まで持っていた変化の葉を一枚取り出し、代わりに今作った葉をしまう。確認すれば、変化の葉の所持数は一つ取り出したが10枚のままだ。


「やった成功ね。」


つまり、ミツキが作った葉は変化の葉として認識されたということだ。ミツキはこれで変化の術を使い放題というわけ……なのだが、


「実際あれどんくらい使えるんだろ……」


ゲーム内では「五種類の姿からランダムでどれかに変身し、ヒューマンを驚かせたり雑魚モンスターを追い払うことができる。」という効果だった。変身できる五種類は、「ドラゴン」「ヒューマン」「ゴブリン」「フェニックス」「ケルベロス」であり、それぞれの姿に一長一短の特性があった。

例えばドラゴンならば雑魚モンスターを確定で追い払える代わりにボスモンスターを強制的に興奮状態にさせてしまうし、ゴブリンならば雑魚モンスターから狙われる確率が高くなる代わりにボスモンスターから狙われなくなる。

一種のギャンブルであるため、ミツキは殆ど変化の術を使っていない。むしろ変化の術の最終系である現世騙し・地の為だけに変化の葉を持っている。だが、ここはゲーム内ではない。システムで姿が決められているゲームではなく、何が起こるかわからない現実の異世界だ。


(もしかして……思い通りの姿になれたりするのかしら……?)


試しにこの一枚を使って実験してみる事にする。









ロージス商会の廊下を歩いていたアリュエは、後ろから呼ばれたのに気づき振り返った。


「アリュエ。」


「ああミューラ様。」


「どうしたの?なにか悩みがあるって顔をしているわ。」


「ははは……ミューラ様には隠し事は出来ませんね……」


己の心の悩みを暴かれたアリュエは苦笑しながらその悩みを打ち明ける事にする。


「……今、ミツキが部屋に籠っている遠因は私にあるようなものですから……」


「どうして?貴女は最短でミツキの許に行ったのでしょう?それは最善の行動だった筈よ?」


「だとしても、です。ミツキは……あまりに純真すぎる。」


「命を奪う事に慣れていない、と?」


「いいえ、「悪意」に対して、です。」


ミューラは無言で続きを促す。


「彼女は強い。それは私も認めましょう、ですがそれは……相手もまた命懸けで相対した場合です。ミツキは不意打ち、罠、謀略……そう言った「卑劣」に極端に弱い。」


変わらずミューラは無言、アリュエに話させるつもりなのだろう。


「彼女は……明るく、誰とでも分け隔てなく接し、一月も終わらぬ内にこの街に溶け込んだ。それは住人達が彼女の裏表のない、真正面から向き合う態度を受け入れたからこそです。

ですが、この世の中にはどうしようもない悪がいる。救いようのない屑がいるように、如何なる手を使おうとも眉一つ動かさない外道がいるのもまた事実です。」


アリュエは、何かを思い出すかのように、強く強く拳を握り締める。


「真正面から向かっていく彼女は……それ故に背後うしろからの悪意に、相対する者の策謀に弱い。

………私は、そういった人が辿る「最悪の結末」を知っている。善意を踏みつけ、悪意で蹂躙する外道を知っている!だからこそ、また・・繰り返さないようにしていた、というのに……っ!!彼女をあそこに連れて行ったのは私です。私は、また失ってしまいそうで……己が情けなくて仕方がない……!!」


アリュエの涙腺から、悔恨と憤怒、そして悲哀の溶けた涙が溢れ、頬を流れていく。

暫くしてアリュエは涙を拭い、ミューラに頭を下げる。


「申し訳ありません、お見苦しい姿を……」


「構いません。主人の敵を討ち払うのが部下の使命ならば、部下の苦しみを分かち合うのは主人の務めですもの。」


ミューラはそう答え、二人は廊下の角を曲がる。そして、


「あら。」


ミューラはミューラと遭遇した。








一瞬、何が起こっているのか分からないアリュエは思考を停止させた。数秒後、再起動したアリュエはそのあり得ない光景に涙も引っ込み、目を見開き口をあんぐりと開ける。


「あら、これはこれは。」


「こんな時、どんな挨拶をすれば良いのかしら?」


隣には、己の主ミューラ。

眼前に、己の主ミューラ。

少しだけ驚いたような、困ったような笑みを浮かべて二人の主が対面している。

二人を交互に見て、そのどちらもが変装ではない正真正銘自分の主である事にもう一度衝撃を受ける。


「ごきげんよう私。昨日はよく眠れたかしら?」


「ごきげんよう私。今朝のパンは美味しかったですか?」


二人のミューラは互いに言葉を交わし、笑みを浮かべ………


「参りました。」


「ふふふ、ご説明お願いしますね?」


眼前のミューラがアリュエの隣にいるミューラに頭を下げた。


「あー……やっぱ付け焼き刃じゃ内面は真似できないかー。」


アリュエは信じられないものを見るように眼前の偽物のミューラを見る。あの、プライベートですら敬語を崩さず、如何なる場面であっても高貴な佇まいを揺るがさない……確かに貴族の血を引く少女が、頭を掻きながら言葉遣いを崩して苦笑しているのだから。


「よし……解除っ!どろんっ!!」


次の瞬間、偽ミューラが突如発生した白煙に包まれ……その煙が晴れた時、そこには全くの別人が立っていた。

プライベートであるが故にいつも身に纏っているあの不思議な衣装でも、時折着ている黄昏のコートでもない、ゆったりとした服装。そしてゆらりと揺れる茶色と黒の尻尾に緑を帯びた茶色の長髪から飛び出している獣の耳。


「ミツキ?!」


「ハァイ、ドッキリ大失敗よちくしょー」






「……で、あれはどういう事だ?魔法なのか?」


「んー、まぁ二人の事は信用してるしある程度話すつもりだったから言っちゃうわ。」


予定が無い時はもっぱら三人のティータイムに使われている応接間にて、二人に説明をする事に。ミツキは道具欄から変化の葉を一枚取り出し、二人に見せる。


「まぁ私は魔法なんて使えないんだけど……この葉っぱを使う事で変身する術を使えるの。」


「それは魔法なのでは?」


「いいえ、魔法ではないということだけは断言できるわ……魔法みたいだけどね。」


「そうですか……」


ミツキから、何を読み取ったのかは分からないが、ミューラは納得したようにあっさりと引き下がる。彼女の脳内で断片としてあったミツキの情報が一つ完成したのだろう。


「今までは補充手段が無かったからケチってたんだけどね……ちょっと心境の変化があってね。補充の目処も立ったし………そうね、アリュエ。」


「なんだ?」


アリュエに呼びかけたミツキはソファから立ち上がり、地面に両手両膝をつき………


「本当に、ごめんなさい。」


誠心と誠意を込めた土下座を敢行した。


「え………は?ちょ、え?!」


土下座の意味は分からずとも、地べたに蹲り謝罪をするミツキに尋常ではないものを感じ取ったアリュエは数秒の呆然のうち慌ててミツキを起こそうとする。だが、ミツキは力持ちの妖気スキルもあってかアリュエが起こそうとしてもびくともしない。


「か、顔を上げてくれミツキ!一体……」


「これは私なりのケジメ、貴女を信頼していなかった事に対する謝罪よ。」


変化の術を使ったドッキリ云々は別として、これだけは言わねばとミツキは土下座のまま言葉を続ける。


「私は貴女を信頼せず、自分の力に慢心してあの体たらく。許してもらおうとは思わない、ただ謝罪だけはしなければと思ったの。」


「………顔を上げてくれ。」


「……………」


アリュエの言葉に従い、顔を上げるミツキ。


「………ミツキが私を信頼してくれなかった、と言う事実は確かに哀しい。」


ミツキはそれに弁解も反論もせず、ただ瞑目してその言葉を受け入れる。


「……だが、事実として君は私を何度も助けてくれた。私にとって、君が命の恩人でありかけがえの無い友人である事に変わりはない。

……そして、これからもだ。」


アリュエはミツキに手を差し伸べ、にこりといつもの飾り気の無い笑顔を浮かべる。


「立ってくれミツキ。私は君を許すし、これからもよろしくお願いしたい。」


その笑顔を見てミツキは暫し沈黙し………目を逸らし、頬を赤らめぼそりと一言。


「これはやばいわぁ………クリティカル入ったかも…………」


どうやらミューラは大体察したらしく、ニコニコからニヤニヤに笑顔が変わっている。その笑顔を忌々しげに見つつ、ミツキはアリュエの手を握り、立ち上がる。


「……ありがとうアリュエ。これからはちゃんと貴女を信頼する、約束するわ。」


「ああ。」


立ち上るためにつないだ手をそのまま握手へと変え、ミツキとアリュエは互いに笑みを浮かべる。

その時だった。


「会長!!」


廊下を息も絶え絶えに走り、ミューラを呼ぶ商会に仕える使用人の男性がミューラの前で立ち止まる。


「……なにやら非常事態の様子ですね、説明を。」


ミツキ達でも分かる程尋常の様子ではない使用人に、プライベートの顔から仕事の顔に切り替わるミューラ。


「先ほど……連絡が……!!」


なんとか息を整えた使用人は、その言葉を伝える。


「通商ルート4で……魔物逃暴スタンピードが発生したと……!!」


通商ルート4、そこは………






通商ルート開拓の仕上げとして、竜の鐘ドランベルが向かった場所だった。

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