にね。
**アクリナお嬢様と専属メイドのヴェルーナの場合**
ね?エドワード様ったら意地悪だったでしょ?でもわたしはそんなエドワード様が大好きだったの。
でもまだこの気持ちをなくすことができるのはまだまだ先みたいだわ。失恋ってこんなにも悲しいものなのね・・・。
あ、でも意地悪なのはエドワード様だけじゃないのよ?彼だけではなくみんながわたしに意地悪なの。
その話をするためにも今度はわたしの一番側に仕えてくれるヴェルーナのお話をするわね。
今日は昨日に比べて天気がよかったから、ヴェルーナをつれて近くの大きな公園へお散歩にきたわ。
この公園は色々な植物や小動物たちに出会えるわたしのお気に入りの公園なの。昨日は雨だったからいけなかったけど晴れた今日なら大丈夫よね。楽しみだわ。
ヴェルーナはわたしのお世話をしてくれる可愛らしい侍女でとても仲がいい女の子なのよ。
ヴェルーナの弟のヴェルハスと違って、優しく笑うすこしのんびりした子なの。
「あら、素敵な紫陽花!雨に濡れたばっかりのお花って本当に素敵ね」
「そうですねー、アクリナ様」
「きれい~」
「あ、あちらに咲いたばかりの素敵な紫陽花がございますわ。ご覧になります?」
「ほんとう?みたいわ!」
わたしは軽く小走りにそちらへと向かったわ。だってヴェルーナがおすすめするんだもの。どんなに綺麗なのかすごく楽しみだったのよ。なのにヴェルーナったらひどいの。
「アクリナ様ー」
「なーにー?」
「そこの足元と紫陽花の周囲には昨夜わたしが毛虫とだんご虫とみみずを仕掛けた罠があるのでお気をつけくださーい」
「ええぇぇ??」
それは全部わたしの苦手な虫よ!
わたしはすぐに足を止めて足元と遠目から紫陽花の周りを急いで確認したけど、アリはいても毛虫たちはどこにもいなかったわ。わたしをだましたのね。ひどいわ。
わたしはゆっくりと追いついてきたヴェルーナを主人としての義務で怒ったわ。
「どこにもいないじゃないの。ヴェルーナの嘘つきぃー」
「騙して申し訳ございません、アクリナ様・・・」
「もうっ」
「本当は足元ではなく木の上に仕掛けたんです」
ヴェルーナが言い終わると同時にわたしの頭と顔と肩と手と、・・・要するに身体中にたくさんの虫が落ちてきて全体を這い始めたの。はっきりってすごく気持ち悪いわ。
「きゃああぁぁ!!ヴェルーナ、ヴェルーナああぁぁ!!」
「ふふふー。その驚きよう、わたしもがんばって仕掛けたかいがありました!」
「い、いいから、とって、とってええぇぇぇーっ!!」
「はぁ・・・。アクリナ様は本当にからかいがいがあります・・・!」
わたしがいくら体を振りまわしたりはしたなくスカートを上げて落とそうとしたりしても虫は離れてくれなくて、それどころか固まってわたしから離れようとしてくれない。どうやってこんなにもの虫を用意したのかしら。
身体から落ちた虫もいたけれどわたしは鳥肌がたっていて、本当にとれているのか確認できない状況よ。ヴェルーナったら、ひどいわ。
「うあぁぅっ・・・・・・ヴェ、ルーナぁ・・・!・・・ヴェルーナなんか、だい嫌い・・・!!」
数分間暴れてようやく身体から離れていった小さな虫たち。その頃のわたしは涙と汗と鳥肌ばかりで、心も身体も疲れきった状態よ。ヴェルーナのばか!!
主人に大嫌いな虫を仕掛けるなんていじめだと思うわ。ひどいわ。
「まあ、アクリナ様。それは誤解です。わたしくしはいつだってあなた様が大好きですわ。だって前の職場では主人にせまられたり同僚から痴漢にあったり無表情での勤務だったりと、働くことが苦にしか感じられませんでした」
え?ヴェルーナにそんな過去があったなんて知らなかったわ。
「でも今は違います。こんなにも毎日が楽しく思えるのはこのお屋敷に勤めてから、アクリナ様にお会いできてからです。それは弟のヴェルハスも同じ気持ち・・・。たとえあなた様に嫌われようとも私たちは生涯をかけてアクリナ様にお仕えしたい心持ちでございます」
「ヴェルーナ・・・・・・。」
まさかヴェルーナがそんなことを考えていたなんて知らなかったわ。主人として失格ね。
わたしに仕えることがそんなにヴェルーナの心を救っていたなんて・・・。てっきりわたしをからかって楽しんでいるのかと思ってたわ。でも違うのね。
「ヴェルーナは今は幸せかしら?わたしが嫌いだからいつもからかってるのだと思っていたのだけれど・・・・・・そうじゃなかったのね」
「もちろん幸せです。わたしのただアクリナ様に驚いてほしいだけなのです。そう、小さな子供が大人にかまってほしくてお茶目をしちゃうのと同じこと。ですがそれでアクリナ様の気分を害するのなら私は・・・」
私はまだ鳥肌がたっている手でヴェルーナの手をつかんだわ。そんなにも思いつめさせてしまったなんて、わたしは主人失格ね。
「ごめんなさい、ヴェルーナ。あなたのこと全然わかってなかったわ。確かにこのいたずらはあまりにもひどいと思ったけれど、それで解雇になんかしたりしないわ!だってヴェルーナもヴェルハスもわたしの大切な人なんだもの。これからもそばにいてね、ヴェルーナ」
「アクリナさま・・・・・・」
わたしたちはいまお互いの信頼を高めあっているんじゃないかしら。
わたしいつまでもヴェルーナがそばにいてほしいのよ。だってこんなにもわたしのことを考えてくれる人をみつけるのってとても大変なことだと思うわ。
「さぁ、もうそろそろ帰らないとヴェルハスに遅いってしかられちゃうわ」
「そうですね」
わたしはヴェルハスに怒られないように汚れまみれの服を軽く払ったあと、ヴェルーナと並んで馬車へむかって歩いたわ。
「今回はやりすぎました。本当に申し訳ありません」
心から謝罪してくれるヴェルーナに今回も(・)の間違いだと思うのとは言わなかったのは偉いと思うの。だってそれじゃせっかく深めた親愛を台無しにするものね。
「いいのよ。だけど次からはしないでほしいの。わたしが大の虫嫌いなことを知っていたでしょう?」
「ありがとうございます。お詫びというほどでもないのですが」
「なあに?」
「トラップ第二段をあらかじめご用意しておりました。そう、ちょうどそこの足元にあるひもをひっかけることで・・・」
最後まで聞けずに私は蹴躓いたわ。ただ転んだだけならよかったのよ。
ただ、これは本当にお詫びとは言うべきではないとわたしは思うの。でも叫び声を上げるので精一杯のわたしにそれは言えなかったわ。ひどいわ。
「ヴェ、ヴェルーナ、ヴェルーナああぁぁっ!!どうしてぇ!?」
足に紐を引っ掛けて転んだわたしはバランスを崩して前からこけちゃったのよ。でも転ぶのはよくあることだから慣れっこだわ。
問題はその先に虫でしきつめられた私の身体よりも大きな四角い大きな箱が置いてあったことかしら。ひどいわ。ひどいわっ!
わたしはもう必死で暴れまくったわ。女の子なのにちょっとはしたないかもしれないわね。でも一刻も早く虫を取ることのほうが大切に違いないわ。
「あぁ・・・・・・アクリナ様。なんて素直で純粋な大声なのかしら。あんなバカ貴族なんかにとられなくって本当によかったです!」
--だってあなたはわたしとヴェルハスの大好きな大好きなご主人様なのだから
一回目よりもたくさんくっついている虫をとろうと動くあまりつまずいてしまい蓮が浮かぶ深い湖に誤って転落。服が水を吸い取り重みを増したあげく、蓮や藻が身体にまとわりついてうまく陸にあがれずにあぷあぷと危機的状況にある主人をみながら、ヴェルーナはうっとりと呟いた。
その後、迎えにきたヴェルーナの双子の弟、ヴェルハスにより救出されました。
というわけで次は彼の話し。
ヴェルーナは普段はおっとりした女の子。
でもアクリナをいじるときはきらきらした顔で子供のようないたずらっこになる。