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◇キーワード小説

◇部活代わりの趣味。

作者: しおん

キーワード:雨やどり,鍵

「あ、家の鍵忘れちゃった」


ホームルームも終わってさあ帰ろうというときにそう口にしたのは、親友だった。

今日はあいにくの雨。晴れていたのなら放っておいてもいいと思ったんだけれど、雨の中一人で外に居させるのはさすがに良心が痛む。


「今日遊びに行っていい?」


首をかしげて問う仕草はさすが女の子、様になっている。かくいう私も生物学上では女と呼ばれる部類に属してはいるが、私が同じことをしてもこんな自然には出来ないだろう。


「いいよ」


特に予定があったわけでもないので肯定の言葉を返す。

ありがとうと言いながらにこりと笑う姿は微笑ましく思う。なんというか、この親友の素直さは幼児っぽいのだ。


傘を並べて我が家へと歩く私たちは、雨の音に負けじと声を出し会話を進める。内容は本当に些細なこと。悪口でもなく、自慢でもなく、目に入ったものをそのまま声に出すだけの単純作業のようなものだ。興味がなければ相槌を打ち、興味があったらそれについて掘り下げていく。気分にも左右されるそんな会話だった。


内容すらもうっすらとしか思い出せない会話は私の家に到着したことで終焉を迎えた。


「ただいまー」


「おじゃまします」


これはもちろん前者が私で、後者が親友の千絵だ。

こんなところで自己紹介をするのはおかしいかもしれないけど、今しかチャンスはないと思ったのでさせてもらいます。

まず、私は園部そのべ 麻衣まい。そして親友が安田やすだ 千絵ちえ。学校では同じクラスで親友という関係だ。部活には所属していないがそれに近い趣味があるため、ただの暇人というわけではない。そう、帰宅部だからと言って遊び惚けている訳ではない。そして、その趣味というのが、


「麻衣ちゃん麻衣ちゃん、マジックするよね?」


「もちろん」


そう、マジックだ。

油性ペンのほうではなく、パフォーマンスのほうのマジックに私たちは膨大な時間を費やしている。子どものお遊び感覚で始めたのだが、どっぷりとはまってしまった。トランプすら上手にシャッフルすることができなかった人間が、シルクハットからハトが出せるぐらいに。


「私ね、やってみたい事があるんだ」


やってみたい事。

それはやってみたいというだけで、私たちの身の丈に合ったものではないはずだ。


「聞くだけ聞くけど……何したいの?」


断る気は満々だけど聞くこともしないで頭ごなしに否定することもできない。なんてったって千絵は私のパートナーであり良きライバルだから。


「えっとね、箱に入ってる人を剣で串刺しにするやつ」


物騒な言い回しですことで。

そんな言い方だとグロテスクな想像をしてしまうせいで、やる気がなくなっていく一方になるのがわかんないかな。わかんないんだろうなぁ。


「例えばそれをやるとして、どっちが刺されるの?」


私の純粋な問いかけに千絵は固まった。

これは私が刺される側のパターンだな。千絵はいつもお願い事をする時に長考するのだ。特に相手が嫌がりそうなことを頼むときは必ずと言ってもいいほど考える。

最初からやるつもりは毛頭ないのだから待ってあげる必要性もないのだけれど、何となくおねだりの言葉が面白そうだから無言で待機してみる。焦ってるんだろうな。


「わ、私が刺したいから、麻衣ちゃんに刺されて欲しいなって……でもでも、刺されるけど刺されないから大丈夫!練習の時は刺さっても痛くないのにするし、刺さらないように刺すから!」


刺されるけど刺されないだとか、刺さらないように刺すだとか、矛盾してる事に気がついているんだかいないんだか。まあ何にせよ刺されることを容易に受け入れることはできない。


「却下!」


「え~麻衣ちゃんのいじわる!」


「意地悪で結構、痛いのは嫌だ」


「ケチー」


そんな口論は夕焼け空に虹が架かり、千絵の門限が差し迫るまで続けられた。結果としては、私が箱に入って刺される代わりに千絵が箱に入ってぶつ切りにされるという条件でのむことになった。


明日からの練習が恐ろしい。

まだ私たちは若いけれど、この危機的状況に遺言書を書いておいた方が良いのかもしれない。



読んでくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 互いにマジックが趣味という少し変わった(?)女学生たちの日常のほんの一コマに、「串刺し」「ぶつ切り」という残酷な表現がぽんぽんと出てきても違和感なく読むことが出来る。女学生の会話を如実にと…
2015/03/05 10:56 退会済み
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