序章
目が覚めた。
薄暗い天井に、かすんだ窓ガラス。外の風景はどこまでも荒涼としたものであり、朽ち果てた町並みが広がっている。倒壊したビルが横倒しになって隣のビルに重量をかけており、今にも崩れ落ちそうだった。
空に太陽は見えない。灰色の雲だけが渦巻いて日光を遮断していた。
目を閉じる。呼吸をする。そして開く。
第三次世界大戦勃発。
世界中は核の火炎に焼き払われた。すべての国家体制は崩壊し、人類は国家誕生以前の真の意味の自由状態へと落ちぶれていた。世界にあるのはジャンクとジャンキーと聖者を名乗る詐欺師くらいなものだった。
彼は、ぼんやりした頭を振ると自分自身の過去について思いを張り巡らせた。
1、俺は運び屋だ。ひどく重要ななにかを運んでいる最中だった。
2、俺はとあるシェルターから逃げ延びてきたのだ。シェルターで人を殺めてしまったから。
3、俺は両親の制止を振り切って外の世界に出てきてしまったのだ
4、記憶がなく思い出せなかった
5、俺は別の世界からやってきたのだ。
6、もしかして悪い夢を見ている……?
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驚いたことにまったく思い出せなかった。
名前から自分がこんな場所にいることさえ理由がわからない。ただ世界は核で焼き払われており、変異した生物や夜盗が徘徊しているということだけはわかった。
まず何をするべきかわからなかったが、持ち物を調べてみるべきではないか。
そう考え彼は持ち物をあさり始めた。粗末な革鞄の中身は……。
1、拳銃とナイフ。食料と水はなかった
2、奇妙な薬品類ばかりだった
3、なにもなかった
4、残り数十秒をきったタイマー。瞬時にそれが爆弾であると悟った。
5、ガソリンの入ったジェル缶があった。
6、札束が詰まっていた。
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拳銃とナイフ。食料と水はなかった。ほかのこまごまとしたものは特筆して特殊なものはなかった。武器があって食料がないということが重要だった。
彼はうーむと喉を鳴らすと、拳銃を手に取った。
それを……。
1-2、まるで使えなかった。
2-3、普通に扱うことができた。
3-4、人並み以上に扱えた。
4-6、面白そうだ。とりあえず窓に向かって発砲してみた。
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まるで使えなかった。引き金を引けば弾が出るらしいのはわかったが、具体的にどうしていいのかわからない。記憶がないとは言え、使えないことぐらいは理解できる。彼はしばし銃をじっと見つめていたが、やがて腰のベルトに突っ込んでおいた。ナイフは手に握っておく。
古びたベッドから立ち上がって周囲を見回す。
名前も思い出せないのだから、次どこへ向かうべきかもわからない。暗闇の中を照明なしで歩くようなもの。
彼は窓際に歩いていくと、外界を見た。
煤けた街。人類の英知を集めて作り上げられた核兵器という大量殺戮兵器によって焦がされた街の成れの果て。道に、建物の影に、いくつもの蠢く影がある。自然とナイフを握る手に力がこもった。
彼は窓から下がると部屋の中央へと向かい腕を組んだ。
1、付近にシェルターでもあるかもしれないと考え捜索する
2、自分の過去についてじっくり考える
3、放浪の旅に出てみようとする
4、俺は傭兵だったのだ。怪物を狩って、物資でも剥ぎ取って生きようとする
5、よくわからないが外に出ようとする
6、寝てしまえ。ベッドに入って目を閉じる
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そうか。頭にひらめきがあった。俺は傭兵だったのだ、怪物狩りでもして生きていけばいいのだ。
根拠はなかったがそう結論付けた。
さっそく彼は意気揚々と部屋の外へ続く扉を開いた。