そして今日も騒がしく
ガララッ…
鈍い音が静かに響き、俺、日野川 葵はそっと…慎重に、図書室を覗いた。
あの悪魔はいつ、どこに、どうやって現れるか検討もつかないので念には念をいれておかねばならない。
……………………………………だが、どうやら敵はまだ来ていないようだ。
無駄に緊張したため俺は大きく息を吸い、肩から大きく力を抜いた。
まったく!今までの俺の行動は一体なんなんだったのだ!思い出すだけでバカバカしくなってきたではないか。
俺はこの気持ちをどこかにぶつけたくなり、肩に掛けていたリュックサックを荒々しく机に……!!
と、思ったがそれすらもバカバカしくなりそっと置いた。
そして俺はいつも座っている1番隅っこの席に腰を下ろした。
多くの古本がいたる所に積まれており、移動するのもなかなか大変なこの図書室は、場所だけは非常によく、日当たりもいいし、西日があたるので少々それが難点だが、天気のいい日は景色も綺麗だ。
おまけに俺が座っているこの席は隅っこで静かに本が読めるし、窓を開けるといい感じに風当たりもいいので、俺はかなり気に入っている。
生徒が来たとしても人目を避けれるため多少の私物を散らかしていてもバレることは滅多にないだろう。
俺は来る前に自販機で買ったお茶を飲み、一息ついた。
そして今日出された課題をリュックから出し、早速取り掛かろうとしたその瞬間……
スパアァンッッッ!!
「ひ〜〜の〜〜〜か〜〜〜〜わ〜〜〜〜〜ッッ!!!!!!!」
けたたましい音と共に鼓膜が破れてしまうかと思う程の大声が図書室中に大きく響く。
あぁ…遂にやってきてしまった……。俺がもっとも恐るあの人が……。
声大きすぎてミシミシいってるぞ。おい。
その人物は迷うことなくつかつかと俺が座る席にやってくる。
そしてそのまま俺の首に飛びついてきた。
く、首からなにやら変な音が聞こえてるんですが…??
「もう〜〜〜〜聞いてよ日野川ぁ〜〜〜昨日大好きな先生の新刊が出るから帰りにいつもの本屋に行ったんだけどね!?」
ぐりんぐりんと首を大きく振り回され視界がぐるぐると回る。
「ちょ、あの、せんぱ、ッ」
「あたしその先生の本ぜぇ〜〜〜〜ったいに欲しかったから走っていったのよ!!おかげで3回転んだんだけど!もちろんそんなの構ってられないからボロボロになっちゃって、」
「ぜ、ぜんばッ息、息がッ」
さらに首をぐりんぐりん動かされて呼吸が危うくなってくる。この人は俺の首をなんだと思っているんだ。
「そんでやっと本屋に着いたのよ!!その時にもう一回転んだわ。入り口でつまずいちゃって。合わせて4回転んだの。なのに……なのに…………」
「なのに…?」
「最後の一冊をサラリーマンに取られたの!!!!あたしが4回も転んであんなに必死で求めた新刊を!!!!目の前で!!!!サラリーマンに!!!!!」
ちくしょおおおおと叫びながら今までで1番強い力で首を締め付けながら振り回してきたからたまったもんじゃない。
これは本当にやばい。
「ふ、ふぎ、ぃ、せ、センパッ!真知子先輩!!!!」
俺は大声をだし、先輩の腕を振り払い両肩を思いっきり掴む。
「いい加減にしてください!!買えなかったなら他の書店へ買いにいけばいいでしょう!?あとサラリーマンの方には何も罪はありません!!あきらめてください!!」
そうだサラリーマンには何も罪はない。たしかに最後の一冊を彼は買ってしまったかもしれない。だがそれは定められた運命なのだ。宿命なのだ。よってそれは誰にも責められないのだ。
「わかりましたか!?」
「わ、わかった……」
そう言いもともと大きな目をさらに大きく見開いた目の前の人物。俺がこの世で1番めんどくさく正直あまり関わりたくない人。
それが我が文芸部部長の上 真知子先輩だった。