とある少年の放課後
とある日の、とある放課後…。
泉真高校は必ず部活に入らなければならないため、多くの生徒がそれぞれの部活に向かっていた。
生徒数もかなり多いため、HRが終わったこの時間帯はいつも人でごったがえしていた。
そしてそれはどこの教室も変わらなくて……。
(はぁ…今日はなるべく早く家に帰って…スーパー行って…妹迎えに行って…それから…)
「……おい!まーもーるーー!!」
「ふぎゃあああ!!?!」
ガタガタッガタン!
自分の空想ワールドを展開していたため、友人の突然の呼びかけに予想以上に驚いてしまった彼…日野川 葵は椅子ごと倒れてしまった。
「ブッッ…ちょ、ふつ、倒れるか…ッ…ハハ!やべえつぼった!!アハハッ!!」
「く……目の前で人が倒れてるのに助けるかなにかできないのかよ…この豆つぶ」
「よし☆今日こそお前を殺す☆☆」
「ケッ!!殺せるもんなら殺し…あ、ちょっと待って…あっ….ギャーーッ!!!」
椅子ごと倒れてしまったことで机と椅子の間に足を挟んでしまい、動けなくなった所をこの状況を生んだ友人(?)である豆田に襲われそうになっていた。
豆田は名前にコンプレックスがある故、豆に関する悪口を言われると必要以上に相手を敵視するのだ。
まったく困ったやつだ。
ていうかそこの女子!
騒いでないで助けろ!!お願い助けて!!!
「ぐ、ぐえぇ…ちょ、豆田さんん……そろそ、ろ…やば…い」
「あぁそうだ。こんなことするために来たんじゃなかった」
「うわっ!?」
ゴンッ
と、今まで俺の首を絞めていた手をいきなり離したため鈍い音が響いた。
クソ…こいついつか見てろよ。
「葵っ!俺今日バスケ部休みなんだ!どっか遊びにいこうぜ!!」
なにもなかったかのように無邪気に遊びに誘うヤツを俺は呆れた顔で見返す。
そして溜息を一つ。
「……いつもいってるだろ。俺は今からぶ!か!つ!!」
「ええーー!!?」
「えーーじゃない!」
やっと挟まっていた足を抜いて立ち上がる。…あ〜頭が痛い。
「いいじゃねぇか1日くらい!大丈夫だって!」
「俺だって今日はスーパーの特売日だし妹迎えに行かなくちゃ行けないし晩御飯だって作らないと行けないから早く帰りたいよ!!」
「…お前、将来いい嫁になるわ…」
豆田が母親を見る目でこちらを見ていたが気にしない気にもしない。
「ちぇっなんだよーせっかくお前に荷物持ちしてもらおうと思ったのに……」
「俺はお前の彼氏か!?」
まったくこいつは俺を友人とも思っていない気がする。
俺はまた一つ溜息をつき部活に行く準備をする。
「……そういえばお前、またバレー部に勧誘されたんだって??」
「あぁ、うん。まぁな」
「そりゃその身長で運動もできりゃあ運動部の皆様は欲しがるだろうなー主将もこないだまたボヤいてたぞ」
「うげっまじ??あの人無駄に足速いから逃げても逃げても追いかけくるんだよ」
俺は小学生の頃から平均男子の身長をゆうに超えていたため、いつも頭一つ分は飛び出ていた。
それに運動もそこそこできていたため中学、高校では運動部の勧誘に日々(現在進行形で)悩まされていた。
「まぁお前は運動部!!って柄じゃねぇもんな」
「そうなんだよなーむしろ本とか読んでた方が俺好きだし……」
「だからお前文芸部か」
「そう…静かに読書できるかと思って入ったのに…入ったのにいぃ……」
ガクッと俺は項垂れたまま今日で何度目かになるか分からない溜息をつく。
「まぁそう落ち込むなって!!いいじゃねぇか美人な先輩もいんだろ!??」
「……………………………………見た目だけな」
「間長くね!!??」
そう見た目だけ。見た目だけなのだ。
それ以外は本当に……。
「悪魔みたい人なんだよ……」
あれから俺は豆田と別れ、1人部室へと向かった。
新校舎が出来てからは大抵の部活はそちらに新しい部室がつくられたため、今は旧校舎と呼ばれる校舎に残る部活はなかった。
むしろのその逆で、わざわざ部室を移動する部活なんてある訳がなくて…いや、ある。
俺が所属する文芸部様だ。
6年前の文芸部の部長は何を思ったか、今は本の倉庫と化したその図書室に部室を!勝手に!移動させたのだ!!
まったくろくな部長がいないものだ。
おかげでいちいち靴を脱いで内ばきを持ち、無駄に遠い距離を歩かなくてはならないので困っている。
最近では学校のスリッパを一つ拝借して(決して盗んだのではない。借りたのだ。)そのまま置いてあるので、いちいち内ばきを持って行っていた自分がすごく恥ずかしい。
旧校舎はもともと校舎が古くなってしまい、何度も修復はしていたがそろそろ限界が近くなったために新校舎が建てられたためあちこちボロボロだ。
窓ガラスはひび割れ、風穴があき、ミシミシといたる所が崩れそうだ。
おかげで根も葉もない噂があっちこっちに飛び交っており誰1人近づこうとするものはいない。
まぁおかげで読書中は例外を除き、静かに読書ができるためそれだけは長所にしておこう。
「だがしかし…私は時間にも融通が効くと思って文芸部に入ったのに…どうしてこうなったのだろうか…」
ちょっと詩人風に独り言をブツブツといっている間に図書室兼部室の前にやってきてしまった。
これから始まるであろう地獄に俺は眉間にシワをよせる。
今日はなにが何でも早く帰ってやる。
特売セールなのだ。
卵がものすっっっごく安いのだ。
この機会を逃せばきっと俺は後悔の波に飲み込まれるだろう。
それだけはイヤだ!!なんとしてでも帰るのだ!!!
俺はそう決意し滑りの悪い扉を重々しく開けた。