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当たり前の魔法に、今、ありがとう

 ロートルディの町の公園に着いた。

 気怠い午後。人影は少なく、閑散としている。


『……』


 ミーティアはふわりと宙に浮き上がった。

 そうやって高い場所から、町の様子をしげしげと眺めている。


(あの目には、何が見えているのかな)


 ふいに、ミーティアが声を上げた。


『ステラッ! 大変 ダ!』


 迅速な急降下から、地上すれすれを滑るように飛んでいく。

 何かが起きているのは明らかだ。


「どっ、どうしたの?」


 尋常ではないミーティアの声に、ステラも緊迫感をつのらせた。高速で飛翔するミーティアの後を見失わないよう、必死になって追いかける。


『……ヤハリ 間違イ ナイ ヨウダ……。シカシ、ナゼ コンナ 場所 ニ……?』


 ミーティアがとまったのは、公園の外周。道沿いに潅木が植えられているところで、ステラがざっと見たところでは、特に異変は感じない。


(ここに何があるんだろう? それらしいものは何も見当たらないけど)


 精神を集中してみても、ステラには特別なものは感知できなかった。


(それとも、ミーティアにだけ感じ取れる何かがあるのかな?)


 結論が出ない推測は、すぐに終止符が打たれた。

 ミーティアは細長い腕を伸ばし、ガサリと茂みに突っこんだ。


『見テ、ステラ! アノ 本 ノ 中 ニ イタ 羊!』


「あー、うん。はい。そうだね」


 ミーティアが目ざとく見つけたのは、茂みに引っかかったぬいぐるみだったのか。

 どうやら、やんちゃな子供の落としものだと思われる。


(よりによって、あのキャラクターのぬいぐるみか)


 黒くてモコモコとした毛に包まれた体。どことなくサイコホラー的なポーカーフェイス。そう、それはまぎれもなく絵本『嫌われブラックシープと殴られスケープゴート』に出てくる、愛をしらぬ社会の逸脱者、嫌われブラックシープちゃんである。


(こうして見ると、つくづく……不気味〜)


 なぜあの絵本を買った時、もっとよく内容を確かめなかったのだろうと後悔する。


『家 ニ、連レテ 帰ロウ!』


 葉っぱのくっついたぬいぐるみを抱っこしながら、ミーティアがそういった。それは提案でも要望でもなく、ミーティアにとってはすでに決定事項のようだった。


(うっ。やっぱりそうきたか)


 ステラは軽い困惑の表情を浮かべながら、さとすように話しかけた。


「ミーティア。それはできないんだよ」


『?』


(ああ。これはわかってない顔だ)


 ミーティアは、ぬいぐるみをぎゅっと抱いて放さない。


(うーん。誰かの落としものを勝手に持って帰るのは……、良くないよね)


 この説明でミーティアは納得してくれるかどうか、と悩みつつステラは言葉を口にする。


「えーと……。その羊さんは、他の誰かといっしょにいるはずだったんだよ。多分だけど、公園で遊んでいる間に何かの拍子で取り残されちゃったんだと思う。だから、私たちが羊さんを連れていちゃったりしたら、元のお友達がここに探しにきても、見つけられなくなっちゃうよ」


 少し疑わしげに、ミーティアが問いかける。


『……迎エ ニ、クル?』


「そうそう。きっと落とした子が探しにきてくれるはずだよ。だから、どこか見つけやすいところに置いてあげよう。ね?」


『……ソウナノカ』


 月のような銀色の目が、ふとさみしげに曇る。


『ソレナラ、連レテハ イケナイナ』


 ミーティアは聞き分け良くうなづく。

 長い帯状の腕を器用に動かして、ぬいぐるみから葉っぱや土を払い落としている。

 垣根のそばにある古びたベンチを見つけると、そこに黒い羊のぬいぐるみをちょこんと座らせてやった。


(ミーティアは……)


 ミーティアを迎えにくる者はいない。

 その故郷ははるか遠くで、自力で帰ることも不可能だ。

 天才といわれるほどの精霊術師が一生懸命頑張っても。魔法使い連合の優れた知識と技術を用いても。町の秩序を維持する颯爽とした騎士団に相談しても。人々がどうしても困った時にすがる最後の希望にして一種の賭けでもある冒険者に依頼しても。

 誰にもミーティアを元の居場所に帰すことはできない。

 ミーティアもそれをしっている。

 気持ちを表すのが苦手だったり、人間社会に関する常識というものが欠如しているだけで、ミーティアには感情も知性もある。


(そんな悩みや不安をなくして、救ってあげることなんて、とてもじゃないけど私にはできないや)


 ステラが完全無欠の精霊戦士でいられるのは、舞台の上だけだ。全てがヒーローに都合良く設定された世界で、空想と理想を練り上げて産まれた女の子。

 だけど実際はそうじゃない。


(そうじゃないけど、さ)


 ステラは肩にかけていたカバンから、愛用のお財布を取り出した。ささやかな楽しみを友達と味わうぐらいの小銭は入っている。


「ねえ、ミーティア! 何か美味しいものでも食べようか。まあ、美味しいものといっても、そんな大ご馳走ってわけでもないんだけど。広場の方には、可愛い感じの食べ物屋さんが色々あるんだよ」


 ヒーローみたいに完璧な解決なんてできない。それでも。


(自分のそばにいる誰かの気持ちをちょっと晴らすぐらいは、できると思うんだ)




 数分後。二人は一心不乱に、屋台で買ったばかりの丸い揚げドーナツを食べていた。


「やっぱりシナモンシュガーにして正解だったよ。変わり種も良いけど、定番の味は落ち着くよね」


『……コノ イチゴ ドーナツ……、全然 イチゴ ノ 味 ガ シナイ……。ソモソモ 生地 モ、イチゴ色 ジャナイ……。ッ!? バカナッ! 普通 ノ 生地 ノ 中 ニ、イチゴ ガ 丸ゴト 入ッテイル……!?』


「へー。そういうのもあるんだねー」


 さっきぬいぐるみを見つけた場所は日当たりが悪かったので、場所を移してちょうど良い日差しが当たるベンチに並んで座る。


「……」


 ステラは少しミーティアの様子が気になって、隣に視線をむけた。

 こうして座っていても、ミーティアの方が背が高いのは変わらない。

 中途半端に人を模倣しようとして、作り手が途中で諦めてしまった不完全な人形を連想させる、ほっそりとした異形の体躯。

 座った姿勢だと下半身部分は、黒々とした細身のスカートをはいているようにも見えた。所作はどことなく繊細で、そういう意味では女性的かもしれない。

 ただその白い顔はどこまでも無機質で、そこから人間的な性別を見出そうとするのは徒労だった。


『何カ?』


 のぞきこむような視線には、すぐに気づかれた。


「いや、別にっ。ほら太陽の光とか、嫌じゃないのかなって。なんか日陰の方が好きだったみたいだし」


 ミーティアは軽く目を閉じた。


『……ワタシ ニハ、太陽 ハ 少シ……マブシイ。デモ、ソレダケダ』


「そ、そっかー」


 しばらくは揚げドーナツを食べることに無理やり神経を集中していたステラだが、やがて紙袋の中身は空っぽになった。


「……」


 いよいよすることがなくなると、町の音が聞くともなしに耳に入ってきた。

 石畳の道で荷車を転がす音。何かを運んでいる人がいるのだろう。

 住宅から軽やかに羽毛布団を叩く音。誰かが寝具を干している。

 公園のどこかにむかって、子供たちが騒がしく駆け抜けていく。

 少し離れた場所で、落ち葉を掃き集めているおじいさんがいた。


『アノ 時……』


「っ、はいっ! なんでしょうか!」


 唐突な声掛けに、思わず敬語になる。


(ゆ、油断した。というか、てっきり寝てるものだと思ってたよ)


 ステラが平静さを取り戻すのを待ってから、ミーティアは続きを話した。


『アノ 時、ステラ ガ ワタシ ヲ 止メテクレテ、良カッタ ト 思ッテイル』



『町 ハ、不思議 ナ トコロ……。ドーナツ屋 ガ、ドーナツ ヲ 独リ占メ ニ シナイ ノモ 不思議。アソコ ニ イル ニンゲン ハ、地面 ニ 落チタ 葉ッパ ヲ 独占 シヨウト シテイル ヨウニ 見エルガ……』


 ミーティアがあまりにも真面目な顔で的外れな推察をのべるので、悪いと思いつつステラは笑ってしまう。


「それは違うと思うよ。あの人は掃除をしてるんじゃないかな」


『掃除……。アノ 白イ 服 ノ 冒険者 ガ、大嫌イ ナ 仕事 ダッタカ……。アノ 老人 モ、カツテ ノ ワタシ ト 同ジ ヨウニ、自分 ガ シデカシタ コト ノ、始末 ヲ ツケテ イルノダロウカ』


「多分、ちょっとした義務か善意でしていることだと思うよ」


 遠い星からやってきた精霊のトンチンカンな認識を修正していく。

 ミーティアは神妙にうなづいてみせた。


『義務 ト、善意……。白イ 冒険者 ガ、イカニモ 嫌イソウナ 言葉 ダ。今後 会ッタラ、ゼヒトモ 使ッテミヨウ』


「っふ……!」


 その光景をくっきりリアルにありありと想像してしまい、ついにステラの口から笑いがもれた。


「あはっ! あー……、うー……。ま、真面目に話してくれてるのに、わ、笑ったりして、ごめんね」


 一しきり笑った後は、気まずさに襲われる。

 だが意外にもミーティアは朗らかな眼差しで、お腹を抱えるステラを見ていた。


『……コンナ コト ヲ イエバ、ステラ ハ 笑ウ カナ ト 思ッタ』


(私のこと、笑わせようとしてたんだ)


 少しくすぐったいような気持ちになって、ステラはなんだか落ち着かない。


(……でも、困ったな。どこまでがわざとで、どこまでが本気なのか、区別がつかない)


『町 ガ、不思議 ニ 見エル ノハ、本当。ドーナツ ヲ 売ル 人間 ガ イルコト モ、不思議。公園 ヲ 掃除 スル 人間 ガ イルコト モ、不思議 ダ。朝 ガ クル タビ ニ、ニンゲン ハ 目 ヲ 覚マシ、町 ガ 動キ出ス……。毎日、毎日……。今 モ、キット 明日 モ。ソレ ハ、トテモ スゴイ コト ダト ワタシ ハ 感ジル』


 ミーティアがいっていることは、どれもごく当たり前なことなのだが。


「そうだね。みんな、とてもすごいよね」


 そんな当たり前のことが、ステラもうれしかった。




 トラブルが起きたのは、帰り道。ぬいぐるみを置いた場所にさしかかった時だった。


「あ。あの黒羊、いなくなってるね」


 持ち主がちゃんと見つけて、持ち帰ったのだろう。ステラはそう判断して、一度止めた足を踏み出した。三歩も歩いた時には、ぬいぐるみのことなどは忘却の彼方。ステラの頭は、今日の晩ご飯は何を作ろうかという難題に取り組んでいた。


「ミーティア?」


 はたと気づけば、すぐそばにいたはずの精霊の気配がない。

 くるりと後ろを振り向けば、三歩前の地点にミーティアはいた。


「ミーティ……」


 気軽に声をかけようとしたところで、ステラは異変を察する。

 隕石の精霊は不気味な沈黙をまとい佇んでいた。

 瞳は三日月のように鋭くなり、狂気じみた怒りをにじまる。


 その姿は近づきがたく、初めてステラと会った時と、よく似ていた。


「っ!」


 最悪の事態を避けるべく、ステラは素早く頭を切り替えた。状況把握に徹する。


 原因はすぐに見つかった。

 ミーティアの視線の先には、公園の広々とした草地の上で騒々しく戯れている子供たちがいた。六人ほどの男の子が集まっている。遊びに熱中しすぎているせいか、時々甲高くて耳障りな奇声を上げている。

 だが重要な問題はそこではない。小さな暴君たちは、ふわふわとした柔らかな何かを蹴り上げたり、踏みつけたり、引きずったりしていた。

 それは布と綿でできたモノでしかなく、命などは宿してはいないし、痛みの感覚も持ってはいない。

 ただ、黒い羊の形をしただけの。


 ミーティアが片腕をゆっくりと振り上げる。木々にさえぎられ、こちらの動きはむこうからは見えないはず。狙いは、小さくて折れやすそうな脚十二本。


「やめなさい」


 ステラは速やかに精霊を拘束した。オーガスト局長やテラダさんのようにこんな咄嗟の時でも精霊術を行使できるほど、ステラは優秀な精霊術師ではなかった。ミーティアの腕を止めたのは、ステラ自身の腕だった。

 怒りのまま力を振るわない、ということをミーティアは学び始めたばかりだ。また降り出しに戻すようなことにはさせない。自分がこの場にいるのなら、なおさらだ。

 つかんだ腕からは、しゅうしゅうと音を立てて深い闇が湧き出ていた。金属が溶解したような甘苦い瘴気がただよう。


「あなたがその力を振るう必要はない。私が、どうにかしてみせるから」


 怒りに駆られていた銀眼が、一瞬だけ正気に返ってステラの姿を写した。


『……』


 くたり、と長い腕から力が抜けていくのをステラは感じた。


「ありがとう。私に任せてくれて。じゃあ、いってくるからね」




 ステラの問題解決方法はいたってありきたりなものだ。


「君たち、何やってるのーっ」


 小さな悪ガキ集団にむかって、ちょっとそう声をかけただけだ。

 別にヒーローの必殺技を繰り出したわけでもなく、正論で長々と説教するでもなく、ちょっと声をかけただけ。

 男の子達は、ギクッと体をこわばらせた。それから仲間の中で今後の動向を決めるように妙な沈黙を保った。やがて一人が駆け出すと、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 捨て台詞で口汚くバカだのブスだのチビだの罵っているが、そんな声もやがて遠くに消えて聞こえなくなる。


「はー。口の悪い子達だなー。それにチビって……。私よりずっと小さいくせに」


 公園の出入り口の辺りで、男の子の一人が立ち止まり、大きな声でこういった。


「出しゃばってくるな! 俺たちは何も悪いことはしてないんだ。その羊は嫌われ者だから、退治されたって当然じゃないか!」


 他の悪口は聞き流してしまえたけれど、その言葉だけはいつまでもステラの心に引っかかった。


「……」


 ステラはしゃがみこんで、ぬいぐるみを拾い上げた。


「救出、成功しました! ケガをしていますが、命に別状はない模様!」


 少し離れた場所で、ミーティアは呆気にとられたように立っていた。


(とはいったものの、ずいぶんボロボロになっちゃった。私に直せるかな、この惨状……


 もともと黒い体だったが、泥や砂の汚れや草の汁などが付着してしまっている。縫い目がほつれたり、体の一部分がちぎれていた。


(この状態を持ち主に見せるのは……。気が引けるな)


 ステラにそんな責任はなかったが、こうして一度関わりを持ってしまった以上、この状態で放置するのも忍びない。




 ブラックシープのぬいぐるみは、一時預かることにした。ステラは公園の管理者に事情を説明して、掲示板に預かりものの張り紙を貼らせてもらった。


(持ち主が見てくれれば良いけど)


 ぬいぐるみの修理は難航した。


『……ステラ。直セソウ?』


「うー……。ど、努力はしているけど」


 努力はしたが、ステラの力では無理そうだ。


『……嫌ワレ者 ハ、コウナル ノガ 当然 ダト イッテイタカ』


 ミーティアは、絵本のブラックシープと自分の姿を重ね合わせているようだ。


(なんとかして直してあげたいけど……。ぬいぐるみを縫うのって思ってたより難しい。私がやると、どうしても変になっちゃって、ちゃんと直せないよ。素人の腕じゃ無理……)


 ステラが急に椅子から立ち上がったので、近くにいたミーティアはビックリしてよろけた。


「プロの知り合いがいたーっ!!」




 マーシャが営む仕立て屋の前で、ステラとミーティアは注意事項を確認し合っていた。


「ドアを開けると、何か驚くようなものが出てくるかもしれれませんが、正体は人間の女の子なので、むやみに攻撃してはいけません」


『ハイ』


「彼女のとても奇妙な振る舞いに混乱するかもしれませんが、当初の目的を忘れず、上手く交渉していきしましょう」


『ハイ』


「……では、突入します」


 ミーティアがうなづくと、ステラは重々しい手つきで、アンティーク調の呼び鈴を鳴らした。


「いらっしゃいませ。どんなご用かしら」


 そういってドアを開けたのは、コウモリの翼とヤギの角を持つ悪魔娘だった。




「……私は凋落した古の神の末裔。古き信仰は失われ、今ではすっかり堕ちぶれてしまったけれど、心の奥底には気高さを秘めているの」


「……」


『……』


 マーシャが妖しげに微笑んだ。


「それが今日のファッションテーマよ」


 すでに三十分はファッションテーマについて一方的に語られた気がする。気がするだけでなく、実際にそうなのだろう。


「それで、今日は私にどんな用?」


 長話ですっかり萎えた気力を振りしぼり、ステラは要件を切り出す。ただし物語の形で。


「えーと……。古き女神に頼みがあるのです。その秘術で、どうかこの者の体を癒してくださいませんか」


 ステラは持ってきたバスケットから、例のぬいぐるみを取り出した。


「まあ、まあ! なんてひどい。どうしたらこんな風になっちゃうの?」


 マーシャは悪魔のファッションをしたままで、仕立て屋の顔つきに変わった。


「そのぬいぐるみ、直してほしいんだ。服じゃないから、マーシャちゃんの仕事の範疇じゃないかもしれないけど。他に頼りになる人がいないんだよー!」


 半ば泣きつくように頼みこむ。


「仕方がないわね。わかったわ。やってみる」


「マーシャちゃん、ありがとうー!」


 持つべきものは友人だ。たとえ少々奇人変人だとしても。




 ステラはぼんやりと部屋の窓から外を見ていた。

 すでに夜の帳が降りている。空には星が輝いていて、地上にはステラが灯した明かりが光っていた。


『ステラ』


 名前を呼ばれる。


『……ヤット 言葉 ガ、見ツカッタ』


 ステラの隣に、ミーティアがするりと腰を下ろす。


『ワタシ ノ 心 ヲ 言葉 ニ スルカラ。聞イテ ホシイ』


 そういわれると、なんとなくきちんと座って向き合わねばならないような気がして、ステラは居住まいを正した。


『他 ノ 人間 ヲ 手助ケ シタリ、他 ノ 人間 ガ 助ケテ クレタリ……。ソウイウ 関係 ヲ 築イテイル。ソウイウ トコロ ガ、スゴク ステキ ダト 思ウ』


 それはごく普通のことで。

 まったく平凡な生き方で。


『朝 ニ ナッタラ、目 ヲ 覚マシテ 出カケテイク。ソウイウ 繰リ返シ ヲ……、太陽 ト 同ジ グライ 送ッテイル トコロ ガ、好キ』


 時々は自分自身でもそんな暮らしが嫌になったりもするけれど、ミーティアはそういうところがステキだと、そういってくれた。


『……イッショ ニ イルト……。宇宙 ノ 闇 ノ ヨウニ 混沌 ト シタ ワタシ ヲ 照ラシ出シテ、輪郭 ヤ 形 ヲ 与エテクレル。トテモ、大切 ナ 人……』


 ミーティアはそこで少し息をついた。

 両腕をするりと動かして、小さな四角いカードを取り出した。

 お世辞にも上手とはいえないが、文字が書いてあることはわかる。

 異形の精霊は、常に平凡であり続けた少女に、言葉を贈る。

 ミーティアがカードの文字と同じ言葉を口にした。


『アリガトウ。大好キ』

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