第三章 24
「……現在進行形か?」
柿平は、一言だけをつぶやくように。
それに気づいた利沙が、
「そうだよ。でも、そうだとは思わなかったでしょう?
パソコン回収したからって、終わるものじゃない。
仕方ないよ、相手が悪い。
スピース相手に勝てるわけないんだから。
……それに、私を捕まえたからって、これで終わりじゃない」
わざと柿平を挑発するように、しかも表情までつけて。
「何を言ってる? 何かしてるのか?」
利沙は、とぼけてみせた。
「さあね? それより、いつ言うの? スピースを捕まえたって」
利沙は、気になって仕方なかった。
それに柿平も気づいた。
「さっきから、そればかりだな。そんなに気になるか?
それとも早く引き渡されたいか?」
「……、まあね、気になるって言うか、出来れば公表しないで、ってわけにはいかないよね?」
利沙は、今までと違って大人しく言った。
「それは、俺は決められない」
「! まだ決まってない。だったら、取引しない?」
「とりひき? どういう意味だ?」
利沙は、これ以上ないくらい下手に出た。
「条件は悪くないと思うよ。スピースを逮捕したって公表しない代わりに、何でも提供する。
日本が欲しい情報や、情報網を引き渡す。
だから、公表しないで欲しいんだよね。
なんでもするから」
「随分だな? さっきまでと違うと思わないか?」
柿平が言うと、
「分かってる。無理だろうって。引き渡されたらどうなるかも。
でも、だからかな? ……IIMCなんかに閉じ込められたくないの」
「処分について知ってるのか?
弱気だな。さっきまでの勢いは何処にいった?
……なんでスピースはハッキングを始めた?」
「弱気ね? そうかもね。
でも、私は、……スピースは、テロなんて考え持ってない。
ただ、世の中が平和になればいいなって、そう思っただけ」
柿平は、利沙があまりにも淡々と話すのを、聞いた。
まるで他人事のように。
「スピースが平和を? 核ミサイルを奪って、よく言えるな?」
「だから、奪った。……誰にも使わせないために」
「システムを奪えば、それが元で戦争が起こるかもしれないとは思わなかったのか?
だから、今スピースにシステムを奪われた国をめがけて、戦火を交えようとしている国がある。
それも、一ヶ所や二ヶ所じゃない。あっちこっちでだ」
「……分からなかった。
その時は、核ミサイルさえなければ、戦争を回避できると信じてた。
でも、実際システムを奪った事実を公表した途端、戦争の導火線に火をつけたんだって気づいた」
肩を落として話す利沙に、柿平は、怒りを覚えた。
「その時、システムジャックを手放さなかったのは、なぜだ?」
「戦争が始まりかけたら、核を使われる。
そう思ったら、もう戻すわけにはいかなかった。
戻すぐらいなら、徹底して管理した方がいいと考えたの。
私が入った国は、ほとんどスピースにシステムを開放するようにしてたから、簡単だった。
それと、知らないと思うけど、……日本にもスピースのシステムが存在しているはずよ。
多分、誰も気づいてないけどね。
だけど、例の約束に日本のサインはない。
だから、黙っておけば分からない」
「なんだと。日本にも? 日本の何処に?」
柿平だけではない、この話を聞いていた誰もが驚愕した。
まさか、気づかないなんて、きっと、スピースの戯言だと誰もが思った。
「やっぱり、気づいてないんだね? だと思った。
でも確かめてみれば、明らかになる。
ファイル番号SSFJP(スピースファイル日本の部分の略)を調べてみてよ、嘘ではないから。
パスワードはSSFJP……」
すぐに調査に向かった。
程なく結果が出た。
「ありました。ちょっと来て下さい」
柿平は、用意されたファイルを見て、正直驚いた。
「何なんだ。これは?」
パソコンの画面には、膨大な量のデーターが映し出されていた。
しかも、内容は目を覆いたくなるもので、どちらかというと、こんなもの見た覚えがない。
それほど機密性の高いデーターばかりだった。
「これがスピースか?」
内容には、日本政府の内情を含めて、保安情報についても詳細な部分まであった。
本当にこれを、すべて一人で行えたのだろうか?
それにしては、空白期間がなかった。
利沙が一人でしていたのなら、少年院に入っていた時には、何も行えなかったはずだった。
柿平は、取調室に入って行った。
「友延、スピースは一人だけじゃないな?」
「一人だよ。なんで聞くの?」
「スピースが一人なら、少年院に入っていた時はどうしてた?
スピースは常に存在し続けている。これを、どう説明する?」
柿平は利沙を、見入るように聞いた。
「……柿平さんも言ってたでしょう? 現在進行形だって」
その言葉に、柿平はゾッとした。
「まさか、……今もか?」
「そうだって、何度言わせるの。
私を捕まえたからって終わるもんじゃない。って」
「まさか、本当はもう一人いるって?」
「もう、分からない人だね?
スピースは、一回でも入ったコンピューターのシステムを書き換えてきたんだ。
常に監視し続けるために」
「どういう意味だ? 具体的に言ってくれ」
「……言った通り、常に監視してる。
私が何かしなくても、調査と報告をしてるの。
私がするのは、調査内容の確認だけ。勝手に修正もするし、開拓もしてくれる。
私が直接指示したのは、最初にハッキングして、プログラムの移殖をした時だけ。
まあ、そのプログラムが特殊なんだけど。
……だから、正確には管理というよりも観察っていう感じ。
だから、移殖した時点で、私の仕事のほぼ百パーセントが完成してる。
もし、私が特別しなくちゃならないとしたら、それは……もう、最悪の事態に陥ってしまった時。
すなわち、戦争が始まった時かな?」
この言葉に、柿平は唖然とした。
「本当に一人なのか?」
「そうよ。分かったでしょう? まだ信じられない?」
「……そうか。一人か。スピースは、お前か」
「その通り。さっさと報告してきたら。まだなんでしょ?
上の人に、はっきりスピースだったって伝えてきたらいい」
柿平達は、取調室を出て行った。
捜査員一人と利沙が残っていた。
利沙の表情は、よく分からなかった。
そこに報告を終えた柿平が戻ってきた。
「報告したぞ。
今、このドアの向こうには、スピース見たさに大勢集まっている。
この部屋の様子を伺っている。いいか、これからは今までとは違う」
利沙の表情には、特に変わったところは見受けられず、どっちかというと、捜査員の方が戸惑っていた。
「友延利沙。お前がスピースで間違いないな」
柿平の真剣な表情に、利沙は極普通に、
「間違いないよ。私がスピースとして世界中の軍事システムをジャックしてる」
それを聞いて、隣室の捜査員達が、どよめいた。
利沙の口から、はっきりと聞いた捜査員には、元々半信半疑の者も多かった。
今、事実を改めて知って、驚きを隠そうとする者はいなかった。




