表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花が咲く 第一部 ~その時見た夢~   作者: かなた 美琴
第三章  過去との遭遇
55/93

第三章 3

「復讐って言うのは、どういう事かな? 確か、拓巳は」


「こいつのせいで、俺の親父は死んだんだ。フラワーポットが余計な事しやがった、そのせいで……」


 拓巳は立ち上がり、悔しそうに拳を握って、利沙を睨みつけた。

 その視線を無視して、利沙は話し出した。


「拓巳って、確か水城(みずき)拓巳だよね。

 もしかしたら、拓巳のお父さんって、水城拓弥(たくや)

 

 だとしたら、お父さんは識越(しきごえ)産業に勤めていた。

 経理課の課長で、不正経理が明るみに出て、退職に追い込まれ、後日、自殺した。

 自殺してから事件には関わっていない事が判明。

 以後、家族には識越産業が、功労金という名目で資金援助を行っていたはず」


 利沙の説明を、大人しく聞いていた拓巳は、


「罪の意識か? 自分のした事で死人が出て、焦ったんだろう? だから、そんな事まで調べたんだ!」


 利沙に絡むように言い、立ち上がって近づいて行った。

 それに気づいた職員が止めるまもなく、利沙に拳を振り上げた。

 利沙は逃げようとせずこう告げた。


「だから、何? お父さんが自殺して、それを私のせいにする事は簡単。

 だけど私は悪くない。識越産業が全て悪いの。

 会社が保身のために、お父さんのクビを切った。

 私がしなくてもいずれは気づく、警察だって。

 ただ、時期が早まっただけでしょう? 


 それに振り回されたくなければ、強くなればいいいじゃない。

 お父さんのように会社の駒のようになりたくなければ……」


 利沙は、拓巳の拳をそのまま受けた。

 大きく後ろに投げ出され床に倒れた、その上に馬乗りになった拓巳は、

 もう一度拳を振り上げて、動きが止まった。


 振り上げた手を止められたのもあるが、泣いていた。

 男の子がこんな泣き方をするのを、利沙は初めて見た。

 全身を震わせながら、泣いていた。


 大粒の涙が次々と流れていた。

 利沙は、驚いた。


 そして、真剣に、

「そんなに悔しかったんだ。拓巳? ……でも、私は謝らない」


 拓巳は、職員により椅子に座らされた。

 机にうつぶせて、拳を机に打ち付けた。


 何度も何度も。


 利沙も、椅子に改めて座った。

 口が少し切れていたが、それは手で拭っただけだった。

 利沙の顔には、何箇所かあざができ少し腫れていた。

 冷やすようにと、氷の入った袋を準備してくれたが、断った。

 

 先生達は、それぞれに声をかけ、有二は、

「俺、もう行っていいですか? もう用ないし、ハッキングも、もう、しません。

 なんか、ハッキングって思ったより奥が深そうで、もう止めておきます。迷惑かけてすみませんでした」 

 そう言って、先生と一緒に会議室を出て行った。


 有二は、今後のパソコンの使用を制限された。


 会議室の利沙と拓巳は直接話す事はなかったが、先生を通して訴えたのは拓巳だった。


「俺は、ずっと知りたかった。

 なんで企業なんかの告発をするんだろうって? 


 お金にうるさい奴か、ヒーローになりたがってる大人かと思ってた。


 なのに、こんな子どもが、思いつきでやりやがって。


 俺の家族は、こんな子どもに振りまわらされた。

 なんで、……なんで親父の会社なんだよ?」


 拳を握ったまま、やっとそれだけ口にした。

 それを聞いた利沙は、


「私は、どこかの企業を決めて侵入したわけじゃない。

 公開されてる経理情報に、不自然な所だけを気づいた時に調べた。

 そういう所って意外に多くて、悪質な所を優先してた。


 識越産業は、社員が毎月積み立てた会費を、会長以下、幹部が賄賂に使っていた。

 それを、業績が不振だとか、経費がかかったとか適当に理由をつけて、社員に還元せず、

 利益は自分達のポケットに入れてた。


 その事を発見して、会長やその幹部にメールを送った。

 でも、全く相手にしなかった、それだけならまだ良かった。


 それどころか、私が脅迫したと思われて、買収してきた。


 ……でも、どこでも大体は、同じように買収の話はでるけどね。

 情報を買い取るって言うんだよ? それも、莫大な額。

 多分その金の出所も似たようなもんだろうけど……」


 そこにいる全員が、一斉に利沙を見た。


「それって、どういう事。脅迫って?」

 利沙は呆れ気味に。


「? 私はそんな話に乗ってませんよ、いくらなんでも。

 第一、ゆすってたわけじゃないし、お金で解決しようとした人が、多かったって話ですから。

 ……本当に買収の話、一度も受けてませんから」


 みんなの視線を冷たく感じながらも、何とか説明した。


 反応ははっきりしないが、利沙は構わずに話を続けた。

「それに、こんな話がしたいわけじゃなくて。

 ……識越産業は、功労金として毎年お金を払っていたはず。子ども達が学校を卒業するまで」


「そんなもん、すぐになくなった。兄貴は大学を辞めて働いた。

 母親は無理が原因で働けなくなった。だから収入もなくて生活できなくなった。

 それから、妹は親戚に引き取られて、俺はここにいる。

 お前のせいで、俺達は無茶苦茶にされた。俺達はお前の気まぐれで」


 拓巳は立ち上がって、利沙を睨んだ。


「そう、あの会社、そんな事だったんだ。

 ……一度は潰してやろうかって思ったけど、償うっていうから見逃したのに。

 そうだったんだ。


 だったら、今からでも、何かしようか? 出来なくは無いよ」


 利沙は、表情を崩さず、拓巳に向かって話した。

 それに慌てたのは、先生達だった。


「何を言ってる。それはしなくていい事だ」


「そんな事ない。だって識越産業は嘘をついた。貰える分を貰うだけ。

 だったら問題ない。

 だって、自分の会社の社員と、その家族の救済は、会社に責任がある」


 利沙は本気だった。

 利沙は立ち上がり、出て行ったかと思うと、自分の部屋からパソコンを持ってきた。


「何をするつもりだ。利沙、やめなさい」


 利沙は、手を止めず、

「大丈夫。違法な事は何もしないから。

 ……まだ、この時間なら、識越産業のメインコンピューターは動いてる。

 もしかしたら、幹部もいるかも」


「何をするつもりだ? 一体、はっきり言ってからでないと、何もさせない」

 園長先生が利沙からパソコンを奪った。


「大丈夫ですよ。ホームページにアクセスして、問い合わせに繋ぐだけです」

 園長は、しぶしぶパソコンを返した。


 利沙は、識越産業のホームページを開き、問い合わせをクリックした。

 その後、何か打ち込んだかと思うと、


「これで、何らかの結果がでると思います」

 利沙は何も言わず、ただ一言。


「もう、この話は終わり。多分、少しくらいなら……変化があるかも」

 その後、利沙は部屋に戻った。


 その時の園長は、利沙が何をしているのか、ずっと見ていた。

 そして、止めようとしたが、出来なかった。

 あまりにも利沙の動きに隙がなかった事もあるが、内容に共感していた事もあった。


 この事件の後、拓巳と利沙が話をする事も、視線を合わせる事もなかったが、

 それ以外は、普通に過ごしていた。


 

 月曜日になり、事態は動いた。


 三光園に、識越産業の幹部の人間が訪ねてきた。拓巳に用があった。


 拓巳が学校から帰ってくると、幹部との面会があった。

 そこで何がどう話されたのかはわからない。


 ただ、それからの拓巳は、人が変わったように、前向きになった。

 なんにでも積極的で、勉強の成績も上がった。

 進学も早々に決まった。第一志望に合格が出来たのも、拓巳の脅威の追い上げがあったからだ。


 そして、拓巳のお兄さんも大学への復学が認められたが、本人は断ったという。

 しかし、親子四人一緒に暮らせるようになり、一月の末に拓巳は退所して行った。


 今まで以上の笑顔と、明るい声を置いて。


 そういえば、あの時、利沙は何をしたのだろうか? 

 あれから事態が変わっていた。


 この時の事を、佐根園長は、こう振り返っている。


「不思議な事が起こった。

 でも、これにはちゃんと理由がある。

 私はそれを目の前で見た。

 それは、決して、全てが正しいわけではないが、間違ってるとは思わない」



 識越産業の問い合わせに、ある土曜日。

 こんなメールが届いた。


 ~識越産業の皆様~

 お久しぶりです。

 しばらくお話をさせてもらっていませんでしたが、あいかわらずの様子、恐れ入ります。


 体質に変化なく。

 いつも通りの業績を維持できるなんて、素晴らしい。


 しかし、その影は、やはりいつもの様子が伺えます。


 しかも、以前にお約束くださいました件。

 あなた方の被害を一番受けたであろう方々への、手厚い保証は、いかがなものでしょう。


 お粗末。


 私には、その言葉以外に思いつきません。


 故・水城拓弥様の家族に対して、あなた方は、見捨てる以外に何もしていない。

 出来ないならともかく、出来るのにしていない。


 この事は、私が以前に聞いていた内容とは、全く違う。


 水城家に対して、あなた方の責任の取り方を検討いただきたい。


 その方法について、少々提案があります。


   1、水城家の復活。

   2、水城家の人達が揃って生活できる環境の提供。家がないので、そこをよろしく。

          ローンはなしで。

   3、水城家の長男の大学への復帰。これは、貴社の資金力で。

   4、水城家の次男、長女の教育費を大学卒業まで面倒みる事。

   5、母親の治療の費用。

          これは貴社により早々に資金援助が打ち切られなければ、体調を崩す事はなかったはず。

   6、以上により、収入の確保がしっかり出来るまでの保証。

 

    どうですか、ざっとこのレベルならば、貴社にはどうって事ないはず。ですよね。

    次男については、三光園という児童福祉施設にいる。

    長女は親戚宅に預けられているもよう。

 

 私には、詳しく情報を提供してくれる方がいる。

 これからも、水城家以外の人についても、もらえる事になっている。


 楽しみだ。

 一体どんな情報をもたらせてくれるのか。


 貴社について、私の仕事は終っていない事が分かってしまいましたね。

 

                            ~フラワーポットより~          


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ