第三章 1 過去との遭遇
ここからの話は、今までとは違う書き方になります。
基本的に数話で、短編を連ねていきます。
ただ、内容は、明らかに今までよりも早く、しかも、利沙の運命が大きく転換するまでを書いていきます。
第三章 過去との遭遇
季節は、常に巡っている。
ひと時も休む事なく。常に一定のペースで。
楽しい時間も、苦しい時間も、どんな時もペースを崩すことなく、同じ時間が過ぎていく。
それは、どこに住んでいても変わらない。
ホテルのスィートルームでも、狭いアパートでも。
それは、誰といても変わらない。
大好きな家族といても、苦手な友人といても。
それは、何をしていても変わらない。
美味しい料理を食べていても、先生の難しい授業を受けていても。
そうして、時間は誰の元にも平等に、過ぎていった。
季節も巡り、今は冬。木の枝には、きれいな花の代わりに霜が凍る事があった。
1
~○○様
先日より再三連絡させてもらっている通り、以後、行われないように再度警告差し上げます。
この用件を、早急に実行して下さい。
尚、これを無視し続行された場合、このままでは終らない事を、お約束いたします。
フラワーポットより~
ある施設の、十二月のある土曜日。
朝食が終っての自由時間。
この時間は、各々に過ごしていた。
当然外出する者もいる。全員の人数が多いのに、残っているのは、意外に少ない。
受験生にとっては、非常に貴重な時間を自室で勉強していたので、
みんなが集まる食堂には、比較的のんびりとした空気が漂っていた。
いつも通りの週末が、この日も過ぎていくと思われていた。
……玄関に訪問者が来るまでは。
午前中の仕事を淡々と済ませていた職員が、訪問者を知らせる玄関のチャイムに応じた。
玄関の訪問者は、この施設には不似合いな、厳つい男達だった。
職員の対応を見る限り、予想を裏切る者だったらしく、
動揺して施設長を呼びに行き、結果、職員の集まる部屋に、男達四人が入って行った。
男達が入って行くところを見た小さい子達は驚いたが、話し合っているのか、
出てくるまでに相当の時間を要していて、出てくる時になって、慌てたくらいだった。
職員に案内されて、食堂まで来た男達のうち二人が、
子ども達が自由に使えるパソコンの前に行き、残りの二人は少し離れた後方にいた。
子ども達は、それを遠巻きに見ていた。
そこに、一人の少女が連れて来られた。
しばらく真剣な表情で話し合っていたかと思うと、男達に一人が少女に手錠を掛けた。
その時、少女は、近くにいた職員に、
「先生。私が出てから、態度の変わる子がいたら、その子を絶対に守って」
そう伝えていた。
職員には意味が良く分からなかったが、とにかく言われた事を施設長に伝え、
そのまま、子ども達の様子を見守っていた。
少女に手錠を掛けた男は刑事だった。
少女はそのまま警察署へと連行された。
警察に連れて来られた少女は、取調室に通された。
取調室とは、文字通り話を聞く部屋。
机と椅子が置かれていて、二人の刑事と机をはさんで、向かい合わせに座るようになっていた。
その部屋に少女は、一人だけの警察官と、二人だけでいた。
しかし、刑事も何も聞かず、その場にいた。
まるで何かを待っているようだった。
それに痺れを切らしたのが、少女の方だった。
「ねえ、いつまでこうしてるの?
ねえってば。さっきから何も言ってくれないでしょ。どうして、何も聞かないの?」
「…………」
何度か、同じような会話らしきやり取りを繰り返していたところに、ドアが開いた。
「何を言ってるんだ? 友延利沙。さっきから同じ事言ってるだろう?」
そう言って入ってくると、空いていたもう一つの椅子に座った。
「手錠掛けてまで連れてきたくせに、何も聞かないんだよ?
私に聞きたい事があるなら早く言ってよ。何でも答えるから。
なのに、この人何も言わないんだよ、時間もったいないでしょう?」
友延利沙。今は十七歳になっていた。
利沙は、軽い口調だった。
切羽詰まった感じも、捕まったという感じも何もなかった。
利沙の態度は、仕方なくここにいるといった様子だった。
「どうした。何を焦ってる? 何かあるのか?
今、君のパソコンを調べてるところだ。
あと、食堂のパソコンも、だから、結果が出るまで時間がかかる。話はそれからでいい」
刑事は、まるでからかうように言った。
それに対して利沙は、軽く言った。
「どっちにしても、私がやったとは思ってないんでしょ?
私だって、こんな事初めてじゃない。
本当に私がやったと思ってたら、こんなにのんびりしてないよ。
第一、私のパソコンが、簡単に解析できると思ってんの?
その方が不自然だ。という事は、私のパソコンは、何もしてない。
形だけ解析する振りでもして、ただのパフォーマンス。
目的は、別にある。……たぶん真犯人の洗い出し。
言い換えると、まだ、誰がやったのかはっきりしてない。
だから、その見当をつけるための見せしめに、私を使った?」
利沙も、からかうように話した。
刑事はそれに対して、冷ややかに応じた。
「ずいぶんよく話すじゃないか?
今までにも、こんな事は何回もあったかも知れないが、こんなに話したのは、初めてじゃないか?
聞いていた話と違うな。余裕か? もし、君の言う通りだったとしても、手の内は明かせない」
利沙は、それにも慌てなかった。
「そう、でもないよ。余裕なんてない。
もし、そうなら、協力してもいい。ただし、方法は私に任せて。
それに、初犯なら、今回だけ見逃して欲しいな?
出来れば、何にもなかった事にして。ちゃんと止めさせるから」
この時、利沙には珍しく真剣だった。
「何の事だ。取引きするつもりか? だったら無理だ。それは出来ない」
刑事は、全く応じる気配はなかった。
しかし、利沙も引く気はない。
自分がだしにされた。それが悔しかった。冗談じゃない。
「こんな事して、無実の罪で手錠まで掛けて。
それで、真犯人を脅したつもりかもしれないけど、それは間違ってる。
私は何もしてないのに。あんな、みんなが見てる前で恥をかかされた。
これって、冤罪だよ? 訴えてやる。裁判所に訴えるから」
「おいおい、物騒な事言うなよ。俺達は何もそんなつもりは無い。
あそこで君は否定しなかったろ? てっきり君だと思ったんだ。だから来てもらった」
「だったら、まず、任意でしょ?
いきなり現行犯でもないのに、逮捕礼状もなく手錠掛けるの?
その方がもっと言い訳っぽい」
「よく知ってるな。でも、別に不思議はないよ。訪ねて初めて分かった事だ。逃げられても困るしね」
刑事も平然と言った。
利沙が逃げるつもりだったと。
「私が逃げる? やってもない事なのに。
こういうの、濡れ衣っていうんだよ。私はやってない。
大人って、本当に自分の行為に責任取らないね。
人のせいにするのに頭を使う。
犯人が誰か分からないのをいい事に、こんな強引な捜査方法を取るなんて。身勝手だよね?」
「好きに言ってろ。とにかく、こっちの捜査が進めばはっきりする」
刑事は譲らない。
利沙にも考えがある。
利沙にも事情がある。
そこへ、報告書を持って一人の刑事が入って来た。
「友延。君も色々やってみたのか?」
利沙には、意味が分からなかった。
「何の事?」
「これ、君だろ」
刑事が示したものを見て、
「そうよ。ねえ、刑事さん。取引きしようよ」
いい事を思いついた。
「出来ないと言っただろ。聞いてるのか? そんな事しない」
双方とも引く気配がない。
利沙は思い切った事を言い出した。
「もし、応じてくれたら、裁判なんて、……訴えるなんてしない。
以前から頼まれていた捜査に協力してもいい。
だから、私を帰して。考えがあるの。真犯人にたどり着ける。
でも、補導とかしないで、止めさせるから。
それでも、もし、また同じ事をしたら私が責任をとる。
私を好きにしたらいい。だから、一度だけチャンスがほしい」
刑事は、いぶかしげに、
「なんで、そんなに真剣なんだ。自分の事でもないのに?」
利沙は、今までで一番強い怒りを示して、
「私を無視したうえに、こんな目に合わせたんだからね。
許せない。責任はきちんと取ってもらわないと」
利沙は、乱暴な言い方になっていた。
刑事達は、こう付け加えた。
「……いいだろう」
そう言って持ってきたのは、ある分厚い資料だった。
その後、利沙と刑事はその資料について話し合った。相当の時間が過ぎ、利沙は、
「これが、私をここに連れてきた本当の理由? もしかして、思いっきり騙されたの? ……悔しい」
「その通り、気づくのが遅いな? 全部終った。助かったよ」
にんまりした刑事の顔が利沙の前にあった。
利沙は、本当に悔しそうだった。そこで、
「これでいい? もう帰ってもいいのね? 約束守ってね」
刑事は、了解と言い、利沙は解放された。
利沙と一緒に押収した物を施設に送って行った。




