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花が咲く 第一部 ~その時見た夢~   作者: 三布
第三章  過去との遭遇
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53/93

第三章  1     過去との遭遇

 ここからの話は、今までとは違う書き方になります。

 基本的に数話で、短編を連ねていきます。

 ただ、内容は、明らかに今までよりも早く、しかも、利沙の運命が大きく転換するまでを書いていきます。

            第三章  過去との遭遇

                  

 季節は、常に巡っている。


 ひと時も休む事なく。常に一定のペースで。

 楽しい時間も、苦しい時間も、どんな時もペースを崩すことなく、同じ時間が過ぎていく。


 それは、どこに住んでいても変わらない。

 ホテルのスィートルームでも、狭いアパートでも。


 それは、誰といても変わらない。

 大好きな家族といても、苦手な友人といても。


 それは、何をしていても変わらない。

 美味しい料理を食べていても、先生の難しい授業を受けていても。


 そうして、時間は誰の元にも平等に、過ぎていった。


 季節も巡り、今は冬。木の枝には、きれいな花の代わりに霜が凍る事があった。


             1


  ~○○様


 先日より再三連絡させてもらっている通り、以後、行われないように再度警告差し上げます。

 この用件を、早急に実行して下さい。

 尚、これを無視し続行された場合、このままでは終らない事を、お約束いたします。

 

                                フラワーポットより~

 


 ある施設の、十二月のある土曜日。


 朝食が終っての自由時間。

 この時間は、各々に過ごしていた。


 当然外出する者もいる。全員の人数が多いのに、残っているのは、意外に少ない。


 受験生にとっては、非常に貴重な時間を自室で勉強していたので、

 みんなが集まる食堂には、比較的のんびりとした空気が漂っていた。


 いつも通りの週末が、この日も過ぎていくと思われていた。


 ……玄関に訪問者が来るまでは。


 午前中の仕事を淡々と済ませていた職員が、訪問者を知らせる玄関のチャイムに応じた。


 玄関の訪問者は、この施設には不似合いな、厳つい男達だった。


 職員の対応を見る限り、予想を裏切る者だったらしく、

 動揺して施設長を呼びに行き、結果、職員の集まる部屋に、男達四人が入って行った。


 男達が入って行くところを見た小さい子達は驚いたが、話し合っているのか、

 出てくるまでに相当の時間を要していて、出てくる時になって、慌てたくらいだった。


 職員に案内されて、食堂まで来た男達のうち二人が、

 子ども達が自由に使えるパソコンの前に行き、残りの二人は少し離れた後方にいた。


 子ども達は、それを遠巻きに見ていた。


 そこに、一人の少女が連れて来られた。


 しばらく真剣な表情で話し合っていたかと思うと、男達に一人が少女に手錠を掛けた。

 その時、少女は、近くにいた職員に、


「先生。私が出てから、態度の変わる子がいたら、その子を絶対に守って」


 そう伝えていた。

 職員には意味が良く分からなかったが、とにかく言われた事を施設長に伝え、

 そのまま、子ども達の様子を見守っていた。



 少女に手錠を掛けた男は刑事だった。


 少女はそのまま警察署へと連行された。

 警察に連れて来られた少女は、取調室に通された。


 取調室とは、文字通り話を聞く部屋。

 机と椅子が置かれていて、二人の刑事と机をはさんで、向かい合わせに座るようになっていた。


 その部屋に少女は、一人だけの警察官と、二人だけでいた。

 しかし、刑事も何も聞かず、その場にいた。

 まるで何かを待っているようだった。


 それに痺れを切らしたのが、少女の方だった。


「ねえ、いつまでこうしてるの? 

 ねえってば。さっきから何も言ってくれないでしょ。どうして、何も聞かないの?」


「…………」


 何度か、同じような会話らしきやり取りを繰り返していたところに、ドアが開いた。


「何を言ってるんだ? 友延利沙。さっきから同じ事言ってるだろう?」

 そう言って入ってくると、空いていたもう一つの椅子に座った。


「手錠掛けてまで連れてきたくせに、何も聞かないんだよ? 

 私に聞きたい事があるなら早く言ってよ。何でも答えるから。

 なのに、この人何も言わないんだよ、時間もったいないでしょう?」


 友延利沙。今は十七歳になっていた。


 利沙は、軽い口調だった。

 切羽詰まった感じも、捕まったという感じも何もなかった。

 利沙の態度は、仕方なくここにいるといった様子だった。


「どうした。何を焦ってる? 何かあるのか? 

 今、君のパソコンを調べてるところだ。

 あと、食堂のパソコンも、だから、結果が出るまで時間がかかる。話はそれからでいい」


 刑事は、まるでからかうように言った。

 それに対して利沙は、軽く言った。


「どっちにしても、私がやったとは思ってないんでしょ? 

 私だって、こんな事初めてじゃない。

 本当に私がやったと思ってたら、こんなにのんびりしてないよ。

 第一、私のパソコンが、簡単に解析できると思ってんの? 

 その方が不自然だ。という事は、私のパソコンは、何もしてない。

 形だけ解析する振りでもして、ただのパフォーマンス。

 目的は、別にある。……たぶん真犯人の洗い出し。

 言い換えると、まだ、誰がやったのかはっきりしてない。

 だから、その見当をつけるための見せしめに、私を使った?」


 利沙も、からかうように話した。

 刑事はそれに対して、冷ややかに応じた。


「ずいぶんよく話すじゃないか? 

 今までにも、こんな事は何回もあったかも知れないが、こんなに話したのは、初めてじゃないか? 

 聞いていた話と違うな。余裕か? もし、君の言う通りだったとしても、手の内は明かせない」


 利沙は、それにも慌てなかった。


「そう、でもないよ。余裕なんてない。

 もし、そうなら、協力してもいい。ただし、方法は私に任せて。

 それに、初犯なら、今回だけ見逃して欲しいな? 

 出来れば、何にもなかった事にして。ちゃんと止めさせるから」


 この時、利沙には珍しく真剣だった。


「何の事だ。取引きするつもりか? だったら無理だ。それは出来ない」


 刑事は、全く応じる気配はなかった。

 しかし、利沙も引く気はない。


 自分がだしにされた。それが悔しかった。冗談じゃない。


「こんな事して、無実の罪で手錠まで掛けて。

 それで、真犯人を脅したつもりかもしれないけど、それは間違ってる。

 私は何もしてないのに。あんな、みんなが見てる前で恥をかかされた。

 これって、冤罪だよ? 訴えてやる。裁判所に訴えるから」


「おいおい、物騒な事言うなよ。俺達は何もそんなつもりは無い。

 あそこで君は否定しなかったろ? てっきり君だと思ったんだ。だから来てもらった」


「だったら、まず、任意でしょ? 

 いきなり現行犯でもないのに、逮捕礼状もなく手錠掛けるの? 

 その方がもっと言い訳っぽい」


「よく知ってるな。でも、別に不思議はないよ。訪ねて初めて分かった事だ。逃げられても困るしね」

 刑事も平然と言った。


 利沙が逃げるつもりだったと。


「私が逃げる? やってもない事なのに。

 こういうの、濡れ衣っていうんだよ。私はやってない。

 大人って、本当に自分の行為に責任取らないね。

 人のせいにするのに頭を使う。

 犯人が誰か分からないのをいい事に、こんな強引な捜査方法を取るなんて。身勝手だよね?」


「好きに言ってろ。とにかく、こっちの捜査が進めばはっきりする」


 刑事は譲らない。

 利沙にも考えがある。

 利沙にも事情がある。


 そこへ、報告書を持って一人の刑事が入って来た。


「友延。君も色々やってみたのか?」

 利沙には、意味が分からなかった。


「何の事?」

「これ、君だろ」

 刑事が示したものを見て、


「そうよ。ねえ、刑事さん。取引きしようよ」


 いい事を思いついた。


「出来ないと言っただろ。聞いてるのか? そんな事しない」


 双方とも引く気配がない。

 利沙は思い切った事を言い出した。


「もし、応じてくれたら、裁判なんて、……訴えるなんてしない。

 以前から頼まれていた捜査に協力してもいい。

 だから、私を帰して。考えがあるの。真犯人にたどり着ける。

 でも、補導とかしないで、止めさせるから。

 それでも、もし、また同じ事をしたら私が責任をとる。

 私を好きにしたらいい。だから、一度だけチャンスがほしい」


 刑事は、いぶかしげに、


「なんで、そんなに真剣なんだ。自分の事でもないのに?」


 利沙は、今までで一番強い怒りを示して、


「私を無視したうえに、こんな目に合わせたんだからね。

 許せない。責任はきちんと取ってもらわないと」


 利沙は、乱暴な言い方になっていた。

 刑事達は、こう付け加えた。


「……いいだろう」


 そう言って持ってきたのは、ある分厚い資料だった。

 その後、利沙と刑事はその資料について話し合った。相当の時間が過ぎ、利沙は、


「これが、私をここに連れてきた本当の理由? もしかして、思いっきり騙されたの? ……悔しい」


「その通り、気づくのが遅いな? 全部終った。助かったよ」


 にんまりした刑事の顔が利沙の前にあった。

 利沙は、本当に悔しそうだった。そこで、


「これでいい? もう帰ってもいいのね? 約束守ってね」


 刑事は、了解と言い、利沙は解放された。

 利沙と一緒に押収した物を施設に送って行った。


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