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第一章 5

 利沙は続けて、


「昨日、ある企業が被害届を警察に提出した。その事で、この事件も明るみに出たんだけど、その被害とは、ハッカーもどきにより業務を妨害された事。被害損額もある。警備システムの見直しによる時間と経費のロス。情報管理に関する人の責任問題。あげればきりがない。その、ハッカーもどきが、この中にいる。心当たりある人いるでしょう? 今言えば、何とかなるけど後になって言っても、知らないよ?」


 その言葉で、部員達は、とんでもなく慌てた。


「そ、そんな、絶対ばれないって言ったじゃないか」

「うまくいったんじゃないのかよ。そう言ったろ? 広瀬」


 何人かの部員が口々に叫ぶように言っているそばで、広瀬は落ち着いていた。


「何言ってんだ。俺達は何もしてない。何も慌てる事ないんだよ。これは、先生達の策略で、俺達ニュース部を困らせるための圧力なんだよ。俺達に対する先生達の抵抗さ。俺達が、ニュースにされたくない人の思惑に屈してどうする? 落ち着けばいいんだ。何も証拠はないんだし」


 その言葉に続いて、利沙が改めて話し出した。ため息まじりだった。


「証拠ね。……往生際、悪いのね。……パソコンについて詳しそうなので、基本は飛ばします、でも重要な事だけ話すと、パソコンに入力された事は、どんなに隠したつもりでも、隠しきれないって知ってますか? 削除しても、ゴミ箱を空にしても、一度入力された情報は残っているんです。ハードディスクに残ってる。入力履歴として。そして、その入力履歴は、復元できるんです。まっ、特殊な手法ですが。ここまで言えば分かりますよね。今、皆さんの手元にあるのは、このパソコン室のパソコンのハードディスクに残っていた入力履歴です。必要なものだけでもこの何倍もあったので、その一部を印刷してみました。しかも、分かるのは、誰が何日の何時から何時まで何をどんな順序で入力したかまで、詳細に分かります。いくら口でどんな言い訳をしてもです」

 ここまで言って、利沙は一息ついた。

 何か動きがあるかもしれないと期待をした。が、


「……だからって、なんで、そんな話を今ここでするんですか? ここのパソコンが使われたからって、俺達がしたとは限らないし誰がしたとか、使用者番号で判断するんでしょう? だったら、俺達の番号使って、違う誰かがハッキングしたのかもしれないでしょう。それを全部俺達のせいにされても困ります」

 広瀬が切羽詰った言い方をして、ため息を大きくついた。


「本当に、どうしようもないね。ニュース部が貸しきっている時間に部外者が入ってきてパソコンを使うのを黙って見ているなんて不自然でしょう? しかも、毎日。それにそんな人いたらニュース部が黙ってない。新聞発刊前に内容が外に知られるのを、どれほど嫌がっているか、ここの生徒なら誰でも知ってる。だから、パソコンを使ったのは部外者ではない。しかも履歴からは、誰が入力したかわかる。過去の履歴から、同一人物を割り出すのなんて簡単なんだから、番号を他人のを使おうが自分のを使おうが、簡単に区別できるの。過去提出された課題と照らし合せれば、人物の特定なんて簡単。それとも、その課題もその誰かにしてもらっていたと言うなら、話は別だけど。そうなると、単位の問題がでてくるけどね。どう、分かった? ごまかしは出来ないのよ。パソコンは正直だから、嘘つかないもの。いい事も、悪い事も何でも手伝ってくれるの」


 そう言うと、利沙は座り込んだ。その肩に杉原がそっと手を置いた。

「お疲れさん。この後は任せろ。」

「……でも、無茶はしないであげて。その後は、……私がする」


「わかった。……正直に話してくれれば、今回の事について事件として扱わないようにする事も出来る。しかし、どうしても話してくれなければ、それなりに扱わなければならなくなる」

 杉原が話すと、先生が、


「それなりって、どういう事ですか?」

「事件として扱うという事です。この場合、補導という手段をとらなければなりません」

 その言葉に、みんなの顔がひきつった。

「そうしない方法もありますが、そのためには、正直に話してもらう必要がある」

 と、杉原がダメ押した。住田先生が、


「大勢の前で言いにくいのなら、個人的に話を聞こう。どうかな、それでいいかな?」

 すると、何人かが頷いた。住田先生は、高野先生を連れて、

「隣の準備室まで、話したい人は来て下さい。一人ずつでも何人かずつでも構いません。待っていますから。では、後は教頭先生お願いします」

 と、準備室へ消えた。話を聞くため、真鍋も同行した。部員の何人かが連れ立ってその後を追った。


 それを見て、

「それでは、始めますか?」

 と、利沙が立ち上がり、パソコンに向き合った。すでに起動されているパソコンに、メモリーをセットし、なにやら入力し始めた。

「杉原さん、連絡お願いできますか? これから、始めたいと」

「分かった。頼んだぞ」

 そう言いながら、携帯電話で連絡を始めた。

「いいそうだ。始めてくれ、補佐しようか?」

 その声に、利沙は冷たく、

「いいです。いりません。一人の方がやりやすいから。では、始めます」

 そう言ったかと思うと、一気にキーを打ち始めた。

 その様子を残っている部員が後ろから見ていた。


 その速さと技術に驚くばかりだった。

 その中には、広瀬の姿もあった。


 それに気づいた利沙が、

「広瀬さん、今、何してるか分かりますか? これは、昨日お昼休みに荒らされかけた、企業の警備システムの見直しをしてるんです。これが出来れば、被害届を取り下げてくれるそうです。杉原さんがそんな風に先方を説得してくれました。杉原さんのおかげで、犯罪者にならずにすみそうですね? ……それと、これは言わせて下さい。ハッキングは犯罪です。絶対にしてはいけない事だと思います。まあ、……私に言える事ではないですが。皆さんのような超初心者が何人集まろうが、ハッキングが成功する事はないと思います。とにかく、もう二度とこんな事しないで下さい」


 そこまで言って、広瀬の興奮度は、絶頂に達してきていた。


「お前、何なんだよ。えらそうに、何様のつもりだよ。それに、まだ一年だろ。先輩に対してえらそうなんだよ。それに、何も知らないやつにうだうだ言われたくないね。いい加減、どっか行けよ」


 その光景を見ていた教頭先生は、冷静に言った。

「落ち着いて話そう。広瀬君」


 利沙は、ずっと作業を続けていたが、口だけは達者で、

「とにかく、あんた達みたいな、ハッカーに憧れているだけのド素人に手を煩わされたくない。それに今回の事がなければ……。とにかく、大人しく新聞作ってればいいの」


「何を言ってる? お前にそんな事言われる筋合いはない。俺達をド素人だと、俺達は素人じゃない。ハッキングくらいいつでも出来る。今回は、ちょっと難しかっただけだ。今度こそ」            

 と、広瀬は怒っていた。


「何言ってんの。二ヶ月もかけて入れないで、入り口前で、身動き取れなくされて、しかも、その事にも気づいてなかったでしょう? その上に逃げ出せないもんだから、強制終了させるのに、コンセントを抜くっていう荒業しといて、えらそうに。よくそんな恥ずかしいまね出来るよね? それで、捕まらないと思っていたところが、……まぬけだね。呆れる。それに、こんな事になったら、もう少し潔くするんじゃない?」


 と、言う利沙の頭を、後ろから小突いてきたのが、杉原だった。


「よく言うよ。こっちが聞いてて呆れる。お前だって、潔いとは正反対だった。結構、俺達を煩わせてくれたろ? まあ、その前にかなり驚かされたがな。……それより、まだか? もうずいぶんたったぞ。先方に悪い」

「分かってる。もう少しで終わる。ただ、強化しとこうって思ってね。隙をつくらせないようにして、それに、相手に戦意喪失させるようなのにしたいの。……ほら、終わり。もういいよ。先方に伝えて。出来れば警備システムだけでいいから再起動して欲しいって。その間は、ここで監視するから」

 利沙は言い終えると、画面から視線を離した。


 広瀬の方に向きを変えて、

「とにかく、ハッキングのセンスはないよ。今なら、まだ間に合うから、この事は、もう忘れた方がいい、犯罪者になる前に。それが、あなたのためになる。私が言うんだから間違いないよ」

「なんで、お前が言うと間違いないんだよ? それにさっきから何なんだよ」

 広瀬は、けげんそうに話した。

「何でもいいの。とにかく、二度としない事ね。犯罪者になりたくないなら。」


 そこへ、杉原が、

「再起動成功したそうだ。もういいぞ。」

「オッケイ。じゃ、離脱するよ。」

 利沙は、再び作業にかかった。その後ろで、杉原と教頭先生がなにやら話していた。


 そこへ、広瀬が興奮したままで、

「いったい、なんなんですか? 他人にえらそうに。まだ一年生でしょ?」

 杉原は冷静に、


「君達にとって、ハッキングって魅力的に写るのかな? それとも、力試し、チャレンジ精神なのかな?」


 広瀬にとって意外な質問だったらしく、答えられずにいた。利沙は一通り済ませてから、会話に加わってきた。


「違うよ。そんな事なんにも考えてない。どうしてかっていうと、ただの興味だけ、それも冷やかしだよ。……たちの悪いね」

「なんでそんな事が分かるんだ?」

 不思議そうに、杉原が聞いた。


「なんでって。さっき、履歴調べてて分かった事だけど、今年の一月の学校新聞にハッキングの事をテーマにしてあった。でも、ハッキングする側ではなくて、されないように気をつけようっていうもの。しかし、その一ヶ月後に、一般紙に今回の企業が特集されていて、その中に、「ホームページ始めました。でもセキュリティが心配」といった記事が載っていた。ハッキングを始めたのは、それからすぐ後だったから、そこが本当にセキュリティが弱いのか試したかった。あわよくば、新聞の記事にでもするつもりだったのかも? 自分達にも出来ました。みたいなの。でも、なかなか侵入できない、すると、今度は、意地になって、ずるずると続けた。……でも、早く気づくべきだったのよ」


 広瀬が青い顔して興奮気味に、

「なんに、だよ?」


「ああいうのは、記事になった時点で、もうすでにセキュリティは強化済み。やれるもんならやってみろ。くらいにはなっていたはず。それに気づかないなんて、本当に呆れる。だから、ド素人っていうのよ」

 半分からかい気味に言った。

「じゃあ。お前には分かるのかよ」

「分かるも何も、私だったら、こんなところは絶対に狙わない。普通ならね。第一、ハッキングの仕方どこで調べたか知らないけど、ツールを使ったとしてもお粗末よ。あれでは、どこにも侵入できないよ」


「お前、いったいなんなんだよ。さっきから分かった風な事言って」

 利沙は、平然と言ってのけた。


「私? 私は、元ハッカーだよ。それも、ここの誰よりもレベルは上だと思うけど。ね? 杉原さん」

 利沙は、杉原に視線を向けた。


「そうだな。たぶん、間違いないだろうな。今の利沙なら、サイバーフォースのエリートでもついていけないだろう。……だからって、するなよ」

「大丈夫。今は、何もしてないしする気もないよ。たとえしても、杉原さんの手を煩わす事はないと思うよ?」

「なんでそんな事が分かるんだ? ハッキングしたら、今度こそ捕まえてやるよ」

「無理よ。私が何度侵入しても、誰も気づいた事ないのに?」

「……今日はよくしゃべるな。でも、今ならできないだろう?」

 杉原は、確信めいて言った。


 それを聞いていた広瀬達が、

「なんで、出来ない。面がわれてるからか?」

「まあ、それもあるけど、私だって、自分の立場は分かっているつもりだし、捕まりたくはないしね」

「それ以上言う必要ないだろう。今は関係ない」

 杉原は利沙を遮ろうとしたが、利沙は平然と、


「学校にもばれたし、今さら隠したところで、知られる時には、知られるし、第一、何らかの処分があるよ。さっき先生達が話してた。……最悪、退学もありだって」

 利沙が、あっさり言った。


 広瀬は、そんなやり取りを聞いて、

「何の事だよ。処分? 退学? 何なんだよ。さっき捕まらないみたいな事、言ってなっかったか?」


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