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第二章 20

 一方、倉庫に残った利沙は、男達に見張られたまま、どうしようかと思っていた。


 夕実には考えがあると言ったものの、実のところ何もなかった。


 夕実を逃がす方法は思いついた。

 それが思った通りになった。


 でも、これからどうしたらいいか。

 全く分らなかった。


 第一、ここがどこかさえ見当がつかない。


 こんな事なら、ここの事夕実に聞いておけば良かったと思った。


「ねえ、これからどうするの?」

 それに対して、マサノブが、いやらしい目で、


「何も、何かして欲しいか?」

 と、言い寄ってきた。


「そんな事言ってない。用がないなら、帰してよ。もう、やる事ないみたいだし」


「もう少し待てよ。今、二回目の現金を引き出しに行ってる。

 それで盛大に盛り上がろうぜ。お前もまぜてやるよ。お前の成果だもんな?」


 妙にご機嫌だった。


 利沙は、その言葉で、一瞬固まった。

 と、同時に早く逃げなければと思った。


「どうした。何かあったか?」


 利沙の様子が変わった事に、マサノブが気づいた。


「ううん。なんでもない」

「そうか?」


 マサノブの機嫌は、今までで最高だった。


 だからこそ、この後の事を考えると、利沙はゾッとした。

 なぜなら、マサノブの通帳には、合計で百万円あるかどうか。

 一度目で五十万円下ろしたなら、もう残りは少ない。


 はず、もしもそれがばれたらどうなるか。


 ご機嫌すぎるだけに、想像がつかない。



 利沙が、先程のハッキングで何をしたか。


 それは、渡された通帳の同一住所地で作られた他の通帳から残高を移しただけで、

 見知らぬ人や銀行から盗んだものではなかった。


 しかも、この通帳が使われたら、額面だけを一度だけ一億円と記載するように

 システムに細工をしただけだ。


 だから、もし、実際に移した額以上の金額を引き出そうとしても、

 それは無理だ。

 残高不足で引き出せない。


 それがばれたら。

 そう思うと、利沙は全く落ち着かなかった。


 早く逃げなければ。その気持ちだけが先走った。


「どうしたらいい?」


 つい、そう口から出てしまうほどに。


 そんな事を考えていると、急に外が慌しくなった。

 お金を引き出しに行った二人が帰って来たらしい。


「帰って来た」


 利沙は、途端に緊張した。

「おい。帰って来たぞ。これからパーティーだな」


 何も知らないマサノブは、非常に喜んでいる。

 利沙に向けられた顔は、ニコニコだ。


 利沙は、とても微笑む事など出来るわけがない。


「おい、どうした?」

 利沙の様子がおかしい事に、マサノブも気づいた。


 利沙が不機嫌なので気分を慨したらしい。

 利沙の胸倉を掴んで、


「少しぐらい喜べよ。お前の手柄だろう?」


 そこに慌てて駆け込んで来たのは、通帳以外に何も持っていないカツヤとコウイチだった。


「お前、何で何も持ってないんだよ。金下ろして何か買って来いって言ったろ?」


「それが、大変なんだよ。マサノブ聞いてくれ」


 そう言われて、マサノブは利沙から手を放して、二人に近づき話していた。


 そしてすぐに、利沙の所に来たかと思うと、

 さっきよりも激しく今度は両手で利沙の胸倉を掴んで持ち上げた。


 その顔はさっきのニコニコ顔とは正反対の、これぞまさしく鬼の形相になっていた。


「な・に・を・し・た?」


 マサノブは、答えを待たず、


 利沙をそのまま床にたたきつけるかと思うほどの勢いで少し下ろすと、

 利沙のおなか目掛けて右膝を激しく蹴り上げた。


 ほんの一瞬で、利沙は崩れ落ちた。


 利沙が前のめりで床に膝を着くとそのまま右足で利沙を蹴り上げた。

 利沙はすぐ後ろにあった壁に激しくぶつかり床に倒れた。


 その間ほんの数秒。


 利沙は、息も絶え絶えになり、壁に頭をぶつけたらしく意識も一瞬とんだ。


 それほどマサノブの怒りは、最高潮に達していた。


 倒れたままでいる利沙を足で何度も蹴り、利沙の胸倉を掴み上げて蹴り上げたり、

 拳で殴ったり、壁に体ごとぶち当てたり、とにかく激しかった。


 マサノブは怒りに我を忘れていた。


 それを見ていた四人は、あまりの激しさに手を出す事も出来なかったが、

 そのうち利沙の意識が薄れ、脱力したのを見て、慌ててマサノブを止めに入った。


「もう、やめた方がいい」

「これ以上すると死ぬよ」

「マサノブ。もうやめろって」


 四人に無理やり引き剥がされた。

 マサノブもそこまできてやっと我に返った。


 大きく息をついて、

「……分かった。もう大丈夫だ」

 四人の体から離れた。


 そして、利沙に強い口調で、

「お前、いったい何をした? 金が消えた。下ろす金がなくなっているだと?」


 利沙は、何とか意識はあった。

 両手を後ろで縛られたままなので、起き上がる事は出来ないが、

 体を寝かしたまま、男達の方へ顔だけ向けた。


 声に力はなかったが、思い切り見下したように、


「お金は消えてない。最初から入ってないのに出せるわけないでしょう? 

 私はお金を入れたなんて一言も言ってない」


 それから、利沙は自分が何をしたのか、すべて話した。


「馬鹿じゃないの? 人のお金目当てにして。そんなの卑怯者のする事よ。

 そんなだから、こんなどうしようもない事しか思いつかないのよ。

 本当に馬鹿は何人集まっても馬鹿よね」


 そこまで言って、今度はその場にいた全員が怒った。


「馬鹿だと。俺達は馬鹿じゃない」

「ふざけるな。お前だって犯罪者だろうが」

 今度は、ほとんど全員で、利沙一人をリンチした。


 利沙の意識は、もうほとんどなくなった。

 蹴られる事も、殴られる事も、もう何も感じなかった。


 利沙が、抵抗しないのをいい事に、散々暴行を加えて、どれくらいの時が過ぎただろう。

 気づいた時には、すでに利沙の意識はなくなっていた。


「どうする。死んだんじゃないか?」


 コウイチが、利沙がまだ息をしている事を確かめて、

「生きてる。まだ、生きてる。でも、やばいよ」


「どうするんだよ。ここで死なれたら、俺達?」

 男五人、どうするか話していた。


 ここに放置したままどこかに行くか。

 それともどこかに連れて行くか。

 でも、誰かに見られたら。など、誰も助ける事は考えていなかった。


 みんな自分の事ばかり。


「今はもう夜だ。今なら、誰にも見られずに、捨てて来れるんじゃないか?」


「捨てる。って、どこに?」

 男五人は、利沙をどこかに放置する事にした。


 今いるここは、自分達が以前から良く出入りしている。

 ここで何かあれば自分達がすぐに疑われる。


 だったら、ここに置いているのは、自分達がしたと認めた事になる。

 それは出来ない。


 色々話した結果。


 少し離れているが、小高い山がある。

 そこは夜になると人も車もあまり通らなくなる。そこに放置する事にした。


 まずは、車だ。


 これはいつも使っているし、ここに利沙を連れてくるのにも使った。

 高校生といっても、マサノブは一年留年している年長者。

 なぜか、車の免許だけは持っていた。


 車は親の持ち物。

 だが、親も車を盗難するよりまし。と、車を乗り廻す事は黙認していた。


 五人は、車の後部座席に利沙を乗せるため、余分なものをどかした。


 そして、利沙を運ぼうとして体を動かすと、うめき声をかすかだが上げた。

 そして、リンチしている最中に縛っていた紐も、ほどけている事に気づいた。


「おい。口を塞げ。手と足を縛り直せよ。紐じゃなくてもいい、その辺の……針金でいい」


 紐は弱くなっていた。

 予備もないため、そこらに転がっていた使い古しの針金で代用する事にした。

 口はガムテープを使って塞いだ。


 利沙の準備を終えると、マサノブとカツヤ、リキトの三人が車に乗り込んだ。

 この三人の力が強かったからだ。


 サトルとコウイチは、一度家に帰る事になった。

 車の三人も利沙を放置した後、解散する事にした。


 車は夜の道を山に向かって走っていた。

 山に近づくにつれ、車も人影も少なくなっていた。


 もう夜の九時を過ぎていた。


 山の中腹まで来た時、道の脇が雑木林になっていて、下草も茂っていた。

 人を投げ込んでも、見つかりにくいと思える場所を見つけた。


「ここにしよう」


 三人は力を合わせて、人が来ない事を確認しながら、利沙を車から降ろし、雑木林に向かって落とした。


 利沙の体は、月明かりに照らされながら、下の方へと落ちていった。

 もう、上からは見えなくなっていた。


 利沙が見えなくなった事を確認して、車に乗り込んだ三人は、山の暗闇に消えていった。


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