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第二章 6

「夕食はみんなでそろって食べましょう」


 どこかで聞いたスローガンのように、家族の団らんを大切にしている人はどれくらいいるだろう?


 いくらなんでも、毎日夕食の時間に、家族全員がそろう事は難しい。

 なぜなら、

 両親のうちのどちらか、

 例え両親がそろっていても、子どもが習い事や塾の通っていたりすると、

 家族みんなでの夕食は難しくなる。


 そんなご時世の中で、ここ小立ホームでは生活のルールとして、そろって夕食を食べる事。

 これを取り入れている。


 みんなの一日に起こった事や、みんなの表情を見たい、そのために小立先生の方針として立案。


 このホームを設立した当時から二十年間ずっと、夕食を子ども達と食べるようにしている。


 時々、部活動が長くなった時は例外を認めている。



 もちろん、今日も夕食はみんなが食堂に集っていた。


 その場所に利沙の姿があった。

 子ども十人と小立先生と香先生の十二人がテーブルについていた。


 おもむろに、小立先生が切り出した。


「もうみんな知ってると思うが、改めて先生から紹介したい。……友延さん立って」


 その言葉で、利沙が立ち上がった。利沙は、入り口に一番近い身動きのしやすいところにいた。


「友延利沙さん。十六歳。

 見ての通り、足に怪我をしているために、杖を使わないと歩けないので、気をつけてあげてほしい。

 歩く以外は、だいたい不自由はないそうだ。そうだね?」


 小立先生は、利沙にあいさつを促した。

 利沙もそれを理解して、


「はじめまして、友延利沙です。利沙と呼んでください。

 今日からここにお世話になる事になりました。よろしくお願いします」


 そう言って、軽く頭を下げた。

 それと同時に何人かの拍手が起こった。


 男の子から、


「十六歳って、高校一・二年って事だよね? 高校どこに行ってるんだ?」


「利沙はね、学校には行ってない。だから……」

 小立先生が話している時に、里美が、


「西城高中退したんだよ。去年。

 しかも、たいした勉強しないで受かったんだから。嫌味だよね?」


 ぶっきらぼうに言うと、それに反応したのが、同じ高二の啓太(けいた)だった。


「嘘だろう? 俺、あそこ落ちたんだよ。第一志望だったのに。悔しい」

 椅子に座っていた利沙は、


「ごめん」


 一言だけ言うと、啓太は、

「謝られてもな。俺も違う所行ってるし、別にいいけど」


「俺、(ひろし)。東城高三年。よろしく」

「俺、勇也(ゆうや)。中学三年。よろしく」

「俺、保志(やすし)。中学一年。よろしくお願いします」


 そんな自己紹介が始まり、一通り済んだところで、


「さあ。晩ご飯にしよう。みんなも今日一日良く頑張ったね。いただきます」


 小立先生の挨拶で晩御飯が始まった。


「いただきます」

「おしょうゆ取って」

「はい」


「今日、部活見学して来た。何部に入ろうかな?」

 保志の言葉に、

「なんでもいいから、入っとけよ。内申書にひびくから」

「そうそう。でも、三年間続けられるものにしろよ」

「分かってるよ。だから、悩んでるんだよ。何部がいいかなって?」


 宏と啓太の高校生が、中一の悩める少年にアドバイスしていた。


「おいしいでしょう? 香先生のお料理」

「そうね。おいしい。私も好きよ。」

「でしょう? 私も手伝ったんだから、私の料理でもあるんだよ。

 だから、お礼はいつでも受け付けてるから」


 奈月の言葉に、保志がからんだ。


「サラダの野菜を皿に載せただけだろう? 俺、見てたぞ」

「うるさいわね。載せ方にもいろいろあるでしょう。おいしくなるのせ方があるのよ」

「へえ。あんな適当にしてたのにな?」

「なんですって。もう一回言ってみなさいよ」

「ああ、何回でも言ってやるよ」


 さすがに、このやり取りを周りにいた数人で、


「いい加減にしなさい」


 と、なだめる事になった。


 そんな楽しい食事も終わると、当番が片付けをする。

 そのために、自分の使った食器を流し台に運ぶのだが、利沙には、簡単な事ではなかった。


「僕、持って行ってあげる」

 俊一が、利沙の使った食器を運んでくれた。

「ありがとう。俊君」


「俊、やさしいね」

「よっ、やるじゃん」


 みんなに冷やかされて、ちょっと照れながら運ぶ姿は、とても愛らしかった。


 それからというもの、食事の時、利沙の隣には俊一がいた。

 俊一は利沙の事が大好きになり、とても慕っていた。


「利沙おねえちゃん。僕がしてあげる」

 利沙もまんざらでもなかった。

 初めての年少者とのつながりが、嬉しかった。



 ここにいる子は、何かしらの理由があり、親元で育つ事が困難な子ども達だ。


 その理由も、一人一人違っている。

 赤ちゃんの時から乳児院で育った者。

 親から虐待されていた者。

 両親の離婚に伴い、一緒に暮らせなくなった者。

 親に仕事がなく、子どもを育てるだけの経済的な余裕がなくなったために、仕方なく預けられている者。

 親が介護で忙しく、子どもを手元に置いておけなくなった者。

 また、養育者が入院したため、短期間だけでも入所してくる者もいる。などなど。


 ほかにも理由は様々だが、共通しているのは、親元で育っていく事が出来ないという事。

 もしくは、それが難しい事。


 しかし、愛情が足りないわけではなく、

 親との面会や、週末の外泊、手紙や電話などで連絡を取れる者もいる。


 親の愛情だけではない、施設の職員の愛情も注がれている。


 それで十分というわけではないだろうが、子ども達は、愛情を受けてここでは育つ事ができる。

 安心してすごす事の出来る環境。これが欠かせない。


 その環境作りに、日々努力されているという訳だが、

 もちろんそんな努力のされている事を子ども達がどこまで知っているかは、分からない。


 でも、ここでの生活は、危険な事から守ってくれる人も、温かい食事もあり、

 寂しい気持ちを分かち合ってくれる友達もいる。


 その点では、幸せかもしれない。

 一人寂しく過ごす事はないはずだから。



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