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第二章 2

 部屋に入るとソファーに座るように促された。

 ご主人夫婦と、向かい合って立石と利沙が座ると、


「はじめまして。私達はこのホームの経営している小立(おだち)と言います。

 小さく立つと書いておだちです。

 ただここの周りの人達には、‘こたつ’なんて言われてますが。おだちホームがここの名前です。

 私は、小立歩(あゆむ)こっちは(婦人を指して)(かおり)です。

 子ども達からは小立先生と、香先生と呼ばれている。よろしく」


 立石は、利沙に向いて、


「こちらの小立先生には、今までの事を話しています。

 あなたがなぜここに来る事になったのか、リハビリが必要な事も。

 私達が知っている事で、今後の友延さんに必要だと思われる事をね」


「そうですか。私は、何も話さなくていいって事ですか。」


 立石は、少し驚いた。

 今までの子でこんなにあっさりした言い方をした事はなかった。

 しかし、驚いたのは立石だけはなかった。


「あなたの事、勝手に話した事に抵抗はないの?」


 そう言ったのは、香先生だった。


「……なぜですか? 私の事知らなかったら、私を受け入れようなんて思わないでしょう?

 だったら、知らない方が不自然だと思います。

 しかも私の事を知った上で受け入れてくださった、ありがたいと思います。

 家にいた時も、両親でも持て余していたのに……。本当にありがとうございます」


 利沙は、淡々と言った後、頭を下げた。

 それに対して、小立先生は

「自分の事を、どう考えている? 持て余らされる子だと思うかい」

 利沙は少し考えた後、


「分かりません。もしそうだったとしても、私は自分が好きです。ただ、不器用だとは思います」


「不器用って。どんな所が?」

 小立先生が聞くと


「……自分をどう言っていいのか分からないし、あえて理解してもらおうと努力しないところかな」

「なぜ、努力しないの?」


「無理に分かってもらわなくていいかなと。知りたかったら、そっちから聞いてくれって思ってるからかも」


「友達は、多い方だと思う?」

 小立先生は、質問を変えてきた。


 利沙は平然と、

「さあ。多いとか少ないとかって、友達に関しては量じゃないと思います」

「では、どう思う?」

「そうですね、あえて言うなら……」


「あえて言うなら?」

「質かな。仲の良さとか、相談できるかとか」

「親友みたいな事?」


「そう、かも知れません」

「友延さんには、親友と呼べるような友達はいたの?」


「…………」


 小立先生の質問に利沙は返事をしなかった。

「友延さん」

「利沙で、いいです。利沙で」

「そうか。では利沙さん、改めて聞きたい。親友はいた?」


 利沙は、一呼吸置いて、

「いいえ。いません。中学の時以来、親友どころか、友達は作らなかったから」

「作らなかった?」

 そこにいた三人とも、顔を見合わせた。


 その場を代表して小立先生が、

「作らなかったってどういう事かな?」

 利沙は躊躇する事なく、

「中二の時、補導されるまでは友達もいたし、普通に学校にも行ってた。

 でも、補導されてからは、学校に行けなくなって、友達も離れていったし、

 親にも、目立つ事はするなって言われて、大人しく振舞っていたから。

 ……普段話すくらいはしたけど、それ以上の関係にならないように気を遣って。

 ……友達作ると親が不機嫌になったから。」


「どうして不機嫌になるの?」

「……、私が楽しそうにしているのが、嫌だったみたいです」

 立石は不思議に思い、


「子どもが楽しそうにしていると、不機嫌になったの?」

 利沙は、それに対して、

「私が補導されてから家に戻るまで、……一ヶ月くらいあったと思います。

 その間も家族には、ずいぶん迷惑掛けたみたいで。

 警察や弁護士さん達が家に出入りしてた事で、近所の人達からいろいろ言われたらしいです。

 家に帰った後、兄から聞きました。

 両親はそれで、すごく疲れてたみたいですから、当事者の私が楽しむのが許されなかったのかもしれません」


「でも、それと友達を作らない事とは、違う気がするけど」

 立石がその上に言うと、利沙は冷静に、


「私がいない間に、それまで仲の良かった友達から、頻繁に電話がかかってきてたらしく、

 それも気に入らなかった理由だと思います。

 電話を掛けるなって、掛けてきた友達に激しく言ってたらしいので。

 その後、友達が出してくれた手紙も、そのまま破いて捨ててたと言ってました。

 余程の事がないとそこまではできないと思います。

 私がした事で家族、特に母を傷付けたのではないかと、……私はそう思いました。

 それに、友達にも申し訳ないなとも思ったので、しばらくは大人しくしといた方がいいかなって。

 それで友達というか、あまり親しくならないようにしてました」


 今度は、小立先生が、

「それで、友達を作らないようにしていたわけか?」


「そうです」

 きっぱりと、利沙は言い切った。

「それでも、友達はできるもんだろ。違うか?」

「……そう、思います」


 今度は、少し自信なげに言い、小立先生に向いた。


「だから、今回のように事件が起こったと思います」

「……一概にそうとはいえないが、少なくともそんな中途半端な気持ちでいた事が、

 今回の事件の始まりかもしれない。ここでゆっくり考えるといい。私達も協力させてもらうから」


「はい。よろしくお願いします」

 利沙は改めて、頭を下げた。


 それを今まで見ていた香先生が、気を遣ってくれた。


「話も一段落したって事で、そろそろお部屋に案内しましょうか? 二階だけど、上がれるかしら?」

「大丈夫です。多分ですけど。階段の練習もしていたので」


「そう。だんだんに慣らしていきましょう」

 それを見ていた立石が、すっと立ち上がり、


「荷物は、私が持ちます」

 すると、利沙は、


「ありがとうございます。お願いします」

 そう言うと、杖を持ち立ち上がった。それを合図に二階へと向かった。


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