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第一章 29(終)

 そうしている内に、ラーメンとシューマイをお盆に載せて、立石が席に着いた。


「おまたせ。食べてね」

 立石は、手際よくラーメンとシューマイをテーブルにセットした。


「いただきます」

 利沙は、割り箸を割った。


「さあ、どうぞ召し上がれ」


 立石はそう言って、自分も割り箸を手に持ったまま、利沙の食べるのを見守った。


「おいしい。……本当に美味しいです。こんなに美味しいの、初めて食べました」

 利沙のその言葉を、待ってましたとばかりに、


「そうでしょう。美味しいのよ」

 立石もラーメンを食べ始め、


「シューマイも、ほら、食べて」

 と、利沙の前に押し出すように薦めた。

「はい」

 利沙は、シューマイも、美味しい。と、言いながら食べ、ラーメンもシューマイも食べ終えた。


「どう、おなかいっぱいになった?」

 立石が、のぞき込むように聞くと


「おなかいっぱいです。すごく美味しかったです。ごちそうさまでした」

 利沙は、本当に満足そうに、立石の顔を見ながら返した。


「それは良かった。もし、味が合わなかったらどうしようって思ってたのよ」

「そんな、本当に美味しかったです。ありがとうございました。

 わざわざ私のために準備までして下さって、本当にありがとうございました」


 後半は、カウンターに向かって、少し大きめの声で話した。その声に、

「いいえ、お口に合って良かったです」

 そう言って、立石の父親は立石に目配せをして、こっちに来いと言っているようで、

 立石もカウンターに近づいて行った。


「何? お父さん。……」

「…………」

 しばらく話していたが、


「そろそろ行きましょう。立てる?」

 立石は、利沙の立ち上がるのを手伝った。


 そのまま店を出て行こうとして、ドアの前まで来た時、カウンターの奥には笑顔が二つあり、

「ありがとうございました。がんばるんだぞ」

 来た時と同じ威勢のよい声が掛けられた。利沙も今度は、


「ありがとうございました。美味しかったです。ごちそうさまでした」

 笑顔で落ち着いた返事ができた。


 そのまま店を出て車に向かうと、

「ごめんね、私のわがままにつき合わせてしまって」

「いいえ。美味しかったです。それに、楽しかったです。ありがとうございました」


「良かった。さあ、行きましょうか。これからが本番よ」

 利沙を車に乗せてから、立石も車に乗り込み、出発した。


 利沙は、窓の外を見ていた。

 立石はさっき父親と話した事を、思い返していた。



「何? お父さん。何の用?」


「……ああ。お前が連れて来たって事は、これから施設に行く子なんだろ?」

「何を聞くのかと思ったらそんな事。それは、お父さんには関係ないでしょ。

 そりゃ、定休日にわざわざお店開けてもらって、悪いとは思うけど」


「いや、なんか今までの子ども達とは、違っているなと思ってな」

「違うって、何が?」

 父親は、首をかしげながら


「今までお前が連れてきた子は、あいさつもろくにできない子が多かった。

 しかも何も話さなかったり、いかにも不満そうな顔してる子だったり。

 意気消沈って言うのかな、世の中に希望なんかなんもない、みたいな子ばかりだった」


「だから、なに? 仕方ないでしょ。そんな境遇の子ども達が多いんだから」

 立石は、少し興奮しながら言うと、


「そうじゃない。今度の子は、今までの子とはぜんぜん違う気がするんだが……。

 何か、普通の子って言うと変かもしれないが、施設に行かなきゃならない子に思えない。

 ……だって、ちゃんと俺達にあいさつやら、返事やらおまけにニコッって笑ってくれたりしただろ。

 あれは、その辺にいる子と同じか、それ以上にいい子だろ? 

 何であんな子が施設に入らなきゃならないんだ。


 あんなに人を気遣える子どもだぞ。


 ……あの子は、そんな子には、見えないがな」

 父親の言葉が立石の頭の中を巡っていた。何かが引っかかる気がしたからだ。


 ただ、それが何か分からずにいた。

 立石は、後日気づいた。


 というのも違う日に、同じように子どもを施設に預かりに行って、その子との違う事で気がついた。


 利沙は、常に人目を気にしていた。

 そして、利沙と対峙する相手に合わせていたのだ。


 相手が自分に何を望み、何をして欲しいのか。

 その期待通りに振舞っていた。


 そして、立石自身にも身に覚えがあった。

 自分も、そんな所があった。

 期待に背くというより、自分に敵意を持たせないように振舞っていた時期が、一時期とはいえあった。


 利沙が同じように接していのだ。

 好かれるためではなく、嫌われないために。


 だから、気遣いの仕方に違和感を覚えた。


 なんとなく、人によって対応の仕方が変わった事に。

 でも、その結論に至った事で納得がいった。


 正しいかどうか、それは分からない。


 ここで、第一章は終わります。

 これからは、第二章に入ります。

 まだまだ、利沙が窮地に追い込まれるようになりますので、ご期待ください。

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