第一章 2
今、面接スペースにいるのは、杉原・真鍋の二人の捜査員と生徒指導の住田先生・教頭先生と利沙の五人だけになった。
そもそも、面接スペースは色々な事に使用される。
進路指導・授業の補足・生徒からの質問に対する説明など。今回のように警察官との話し合いに使われた事はない。
完全な個室ではないが、奥まった所にあり衝立が空間を仕切っているせいか、ここでの会話は外へもれにくい。
意識して聞いていれば聞こえなくはないが、そうそう漏れ聞こえる事はないといっていい。
しかし、中で話す者が、大きな声を出せば別問題ではあるが。
そんな空間で、五人のやり取りが始まった。
手探りで話を始めたのは、住田先生。
「私達、ここにいてもよろしいですか?」
二人の捜査員に向かって聞いている。それには杉原が、
「構いません。別に、彼女……友延さんをいじめるつもりはありませんから。二・三質問に答えてもらいたいだけですから。友延さんも、それでいいね?」
杉原は、利沙に向かって、確認を取るように聞いた。
利沙もその事に、あえて触れようとはせず、
「私は、何度も言うけど、用事はない。だから、教室に戻ります」
再度、利沙は、立ち上がろうとして右腕をつかまれ、座らされた。
「なら、この質問に答えてもらおうか? 関係ないと判断できれば、教室に戻ってもらっていいよ。昨日、学校でパソコンは使ったかどうか。それだけ、確認したい」
そう言うと、じっと顔を利沙に向けた。
利沙は、それに対して少し考えてから、
「昨日? なんで?」
少し驚いて聞き返した。ちょっと驚いたのには訳がある。
昨日なら、授業でパソコンを使用した。もし、それに問題があったとしたら……、と考えたから。
しかし、捜査員がそんな様子を、見逃すはずもなく、そこを突いてきた。真鍋の方だ。
「昨日使った? 学校で」
「…………」
利沙は、一瞬言葉に詰まった。そこをすかさず、
「ナ・ニ・を・し・た」
妙に冷静な声が響いた。少しの沈黙の後、声を出したのは住田先生で、
「昨日は、授業でパソコンを使用してます。その事で何か?」
「記録は、どうなってますか? メモリー管理はされていますか?」
との質問に、住田先生は、
「メモリーは個人で管理させています。しかし、一年生に関しては、現在作成中のもののみですから、何をお調べかは分かりませんが、目的のものはないと思われます」
と、説明して、利沙を立たせようとした。が、そこで杉原が、
「申し訳ありませんが、友延さんと直接話させて頂けませんか。ここには、いて下さって構いませんから」
と、先生の口を閉じさせた。そこで、杉原は、
「久しぶり、今日はたいした事はない。ある事案に関係ないと示してくれれば、教室に戻っていい」
「そんな事言っても、私は何かの容疑をかけられてるんでしょ? 無実の証明が、一番難しいんだよ」
利沙の反論、これは正しい。すると、
「それは、良く分かっているよ。それに、私達は利沙が関わっているとは、考えていない。だから確認に来たんだ」
利沙は、そんな事を言われても納得できる事なんてない。
だったら、学校になんて来ないで、違うどこかですればいい。
と、思いながら、口に出さずにいると、杉原は、
「利沙の言いたい事は分かる。違う所でいいだろ、って思ってるよな? 何も学校に来なくてもって」
少し笑みを浮かべて言ってきた。利沙は、よほど不快感が表情にでていたらしい。
「だったら、なんで学校なんかに来たの? 私を疑ってないならここまで来る事ないでしょう。他にいくらでも聞ける所もある。わざわざ、学校まで来るって、嫌がらせか、逃げるとでも思ってなければ、来ないでしょう。違う?」
利沙は、興奮して、一気に捲くし立てた。立ち上がった利沙を先生達がなだめて座らせた。
そして、住田先生が、
「いったいどういった要件でしょうか? 先ほどからはっきりと聞かされていませんが。……捜査に協力させて頂きます、でも、何を調べているんですか? それが分からないと、協力出来ません」
きっぱりと言い切ると、捜査員達も顔を見合わせて頷き、
「では、単刀直入に話します。実は、昨日ある企業の被害届を受理しました」
今度は先生達が、顔を見合わせた。
「被害届? ですか」
二人の先生が同時に聞いた。先生達はお互いに驚き、今度は教頭先生が、
「そ、それが、……何の関係があるんですか?」
半分動揺しながら、なんとか口にした。それに対して、杉原は、
「はっきり関係があると分かった時点で、お話します。今はまだそこまでしか話せません。すみませんが、もう一度、友延さんと話してもよろしいですか? もしかしたら、友延さんには、心当たりがあるかもしれませんがね」
それを見て、杉原は利沙に向き直り、
「利沙、改めて聞く、昨日はパソコンを学校で使った?」
「使ったよ。授業以外は何もしてない。それだけ。……心当たりなんて、あるわけないでしょ?」
落ち着いて答えるが、どこか、冷たい。
「メモリーは?」
「あるよ」
そっけない。こんなやり取りを、二人の先生がじっと見ていた。
「で、それを使った具体的な時間と、場所を教えて」
「ここのパソコン室。時間は、……。二時間目だから十時くらいだと思う。具体的には、見てみないと分からない」
「そう……」
と、言いながら、杉原は先生に、
「パソコン室を見させていただけますか?」
「いいですよ。ただ、パソコン室が空いているか、見てきます」
と、住田先生は席を立って行った。しばらくして戻ってきた住田先生は、
「パソコン室空いていますので、今からすぐに行けます。どうされますか?」
「では、行きましょう。利沙はメモリー持ってきて」
と、捜査員二人は立ち上がり、利沙に声をかけた。
「メモリーは持ってる。このまま行く」
そこで、五人はパソコン室へと向かって、職員室を後にした。
投稿順に間違いがありました。
申し訳ございません。こちらが、2話目です。
これからは気を付けます。