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第一章 19

 病院に着いた藤川と増井の二人は、利沙のいる病室へと向かった。


「増井さん、実際のところどう思います? やっぱり被害者なんでしょうか。

 それとも首謀者だと思いますか?」


「それは、調べてからだ。とにかく話してみないと……」


 藤川が聞いているのは今回の宝石店強盗のついてだった。


 状況から考えると、利沙は被害者に見える。

 しかし、一歩踏み込むと首謀者として見えなくもない。


 要するに、まだ分かっていない事が多いのだが、事件解決に利沙が大きく貢献した事は、間違いない。


 捜査本部は、利沙がどんな関わり方をしたのかを、出来るだけ早めに知りたいと思っていた。

 被害者ならそれでいい。

 でも、事件の重要な立場であったなら、それが知りたい。


 もし、事件の被害者を装うための芝居だったとしたら、大問題になる。


 そう言っている間に、利沙の病室前までやってきた。面会の許可はさっき取ってきた。


 利沙の部屋は個室だった。

 警察の要請で個室に入れられている。


 ドアをノックすると、はい。と返事が返ってきた。

 状態はいいらしい。


「失礼するよ」


 まず、増井が先に入り藤川がその後に続いた。


「…………」


「驚かせたかな? 私達は、」

 増井が言いかけて、その後を利沙が引き継いだ。


「刑事さんでしょ? さっき杉原さんが来て教えてくれたから。でも……」


「でも、なに?」


「……でも、思ったより早かったなって。ちょっとびっくりしただけ」

 利沙と増井の話を聞いていた藤川が、


「早くはない。遅いくらいだ。おま……。君が回復するのを待っていたんだから」

 藤川の話を聞いて、利沙は少し不安になった。


「遅いって?」


「君は、救出された後、丸一日眠っていたんだよ。で、目が覚めたと聞いて駆けつけたというわけだ。分かったかな?」


 増井が優しい口調で説明してくれた。

 利沙は少し驚いたが、納得できた。


 目を覚ました時の杉原の驚きようが理解できた。


「そういう事か。……」

 利沙は独り言を言った。


「う、うん? 何が?」

 増井が聞いてきたが、


「えっ、なんでもない」


 藤川は、だんだんとイライラしていた。

「それより、本題に入りましょう。時間がもったいない」

 話を進めようとした。


「まあ、いいじゃないか?」


 増井がとりなすと、利沙が、

「いいですよ。何でもきいて下さい。ちゃんと答えますから」


「そう言ってくれて嬉しいよ。では、色々聞かせてもらおう」

 そして、増井が話し始めた。


「君と先に逮捕した三名とは、知り合い。仲間かな?」

「違います。会った事もない」


「では、どこで知った?」

「知るも何も、全く知りません。初めてです。あんな人達」


「ネットで話したとかは?」

「いいえ。知りません。あの人達に聞いてください」


「その三人が、君とネットで知り合ったと言っているとしたら、どう?」

「……知りません。そんなの。学校から出た所で無理やり車に押し込められたんです。

 その時はじめて見ました。……ネットなんて知らない」


「そうか。だとしたら、あの三人はどうやって君の事を知ったのかな?」

「分かりません。あいつらにもう一回聞いてください。私は知らない」


「何度も聞いた。それで、確認してるんだ。掲示板に書いてあったと」

「そんなネットなんてしてない。掲示板? 何の事かもわからない」


 利沙の口調がだんだん激しくなってきていたが、そんなのお構いなしで、今度は藤川が続けた。


「もう一度聞く。君はネットの掲示板に書き込みをした。それを見た三人にネットで話し始めた。詳しい内容は確認中だが、そういった書き込みがある事は確かだった。だから、聞いてるんだよ」


「そんなの知らない、何度聞かれても知らないものは知らない。掲示板なんて、最近見てないし」


「じゃあ。次の質問。宝石店に盗みに行く事は君から持ちかけたのか?」

「そんなわけないでしょ。無理やりやらされたのに決まってるでしょう。なんでそんな事聞くの?」


「では、盗みに入る宝石店を決めたのは君か?」


「…………」


「どうした。君が、二つの店舗を決めたのか?」


 利沙は、言葉に詰まった。

 半分はそうだと思ったから、でも、強引にそうなっていた。

 それを言ったとしたら、この人達はどう思うか……。


「君が、店舗を決定したのか? どうした? 今までの勢いはどこにいった」


「でも、するつもりなんてなかった」


「やっと認めたね。するつもりがなかった? 誰がそんな言葉を信じられる?」


「気がついたら、そうなってた」


「君に決定権があったという事だろう? 拒否する事も出来たろう。なぜ引き受けた?」

「それが出来たら、とっくにしてた。それが出来なかったから……」


「何で出来ない? 断ればいいだろう。しかも警備会社をハッキングして、事件の発覚を遅らせるなんて事。普通は考えつかない。もともと計画してたんじゃないのか?」


「出来るわけないでしょう。拒否なんて、……」

 その言葉に、増井が口を挟んだ。


「何で、嫌だ。と言えなかったのかな? 拒否できなかったのはなんで。隙を見て逃げ出せたかもしれないだろう?」

「やった。逃げ出そうともした。だけど……出来なかった」


「どうして?」


「……逃げようと思った。だから、車から降ろされた時、一人の隙を突いて逃げようとしたけど、捕まった。その後、部屋に投げ込まれて……」


 利沙はそこで、唇を噛んだ。

 それを見て、増井が、


「部屋に入って、何があった?」


「……その後、」

 利沙は、話せなかった。


 あの時の恐怖が頭によみがえってきていた。

 なんだか傷を負った足が余計に痛い感じがして、右手が無意識に傷を包帯の上からさすっていた。


 その様子から、増井は察した。


「足が痛むかい?」


「部屋に入って突き飛ばされて、……うつぶせに倒れこんだところを背中から押さえ込まれた。

 かと思ったら、……足にナイフを刺されてた。

 一瞬の事でよく分からなくて、でも、……足が熱くて、怖かった。……殺されるかと……思った」


 最後の一言は、消えそうだった。


「ナイフで刺されたのは、連れて行かれてすぐの事か? それとも、一連の事が終わってからか?」

「最初の所から次に移動して車を降りた時」


「盗みに入る前という事か?」

 増井はつぶやく様に言ってから、


「怪我をしてから、一連の強盗におよんだという事だね?」

「……そう」


 その言葉を確認してから、藤川と目配せをすると、藤川は、部屋を出て行った、どうやら連絡を入れにいったらしい。


 連絡し終えて藤川が戻ってきた。増井と耳打ちすると増井は頷いて、


「間違いないね? 本当に最初に怪我をしたんだね、おかしいな?」

「何がですか? 嘘なんてついてません」


「今、確認したら、怪我をしたのは、全て終わってから仲間割れした時ではないかな?」

「そんな事ない。絶対ない」


「まあ、記憶は自分に都合よく書き換えられるものだからね。間違いないと思いたい気持ちは良く分かるがね」

「どうして、信じてくれないの?」


 利沙は、やるせない気持ちでいっぱいになった。

「本当の事を言ってくれれば信じてあげよう。でも、作り話に付き合うつもりはない」


 藤川が話すと、利沙は興奮して、

「全部本当の事でしょう。わざわざ嘘つくような事、なんでしなくちゃなんないの」

「なら、金額にして二億円以上の物を、脅されたからって盗ませるか? それも、二つの店をだぞ? 

 面白がっているとしか。……楽しんでいるとしか思えないんだよ。

 嘘をつくなら、もっとましな嘘をつくんだな」


「嘘じゃない。本当だって。なんで信じてくれないの?」


「今まで、散々俺達警察をなめた事してくれて、どうして、今だけ信じられる?

 今回の事も、自分の欲求を満たすために企てた事だろう? 警察を馬鹿にするにも程がある」


「そんな事ない。今までだって、そんな事してない。警察を馬鹿にした事なんてない」

 二人とも少し興奮してきていたが、増井が、


「今はこれで帰る。また話を、本当の事を聞きにくる」


「……何を言っても、私が言う事を聞いてはくれないんでしょ? もういいよ。そっちで好きに書いてくれれば、……もういい」

「そうやって、被害者ぶっても、事実は事実なんだよ」


 少し脅し気味に藤川は言い捨てた。


「私は、確かにハッキングしたし、強盗に手も貸した。だけど、……」


「君は、手を貸したんじゃない。君が、この事件のリーダーだ。

 ハッキングしたい気持ちを抑える事が出来ず、たまたま三人との利害が一致して、この事件を起こした。 ただ、計算違いだったのは、仲間を作ってしまった事だ。

 仲間は、いつも自分の言う通りに動いてくれるわけではなかったんだ。

 それで、これではまずいと思って、急遽被害者になる事にした。どこか、違うところがあるか?」


「……そんな」


「ハッカーとしては、かなりの腕を持っているかも知れないが、犯罪者としては、最低だ」


「違う。ちがう。なんで。……信じて」


「無理だ。それに、こういった時、側にいるはずの家族がいないのはなぜだ?

 子どもがこんな事になっているのに、家族が一度も来てないっていうのは、普通じゃない。

 というより、親にも見離されてるんだろ?

 親にさえ信じてもらえない子どもの言う事を、俺達に信じろって言われても困るんだよ。

 さっき、杉原さんも言ってた、

 「あいつが、首謀者かもって」

 結局、君は、誰にも信じてはもらえないって事だ。

 そろそろ、自覚しろ。自分が何をしたかを。また来る。その時は、素直に答えてくれ」


「……本当?」


「何が?」

 藤川は、軽く流すようにきいた。


「杉原さんが、本当にそんな事を言ったの?」


 利沙の真剣な表情に一瞬驚いたが、

「本当だ。さっきここから出て行く時、そう言っていた」


 そう言って二人は、病室を後にした。


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