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第一章 17

 インターフォンを押して出てきたのは、母親だった。


 捜査員は静かに告げた。

「おはようございます。朝早くすみません。警察の者です。」

「けっ、警察? ……ですか」


 母親は、何が起こっているのか分からなかった。


「事情は後で話します。今は確認を先にさせてください。ここにパソコンありますか? 電源のずっと入ったままの。」


 慌てていたが、一度落ち着きを取り戻そうとしてから、


「パソコンはありますが、いつも使わない時は、電源は入れてないと思います」

 その返事を待っていたように、


「では、パソコンのある部屋を教えてもらえますか? 一つずつ確認させて下さい。何台ありますか?」


「三台です。主人と二人の子ども達が一台ずつ。二階のそれぞれの部屋です。起こしましょうか?」

「いいえ。そのままで。では、失礼します」


 その後捜査員がそれぞれの部屋に入って行った。その中に杉原もいた。


 父親の部屋、兄の部屋、そして、利沙の部屋。


 父親と兄の部屋にあったパソコンは、電源が入っておらず、その形跡すらなかった。


 もちろん利沙の部屋のパソコンも、電源は入っていなかった。

 が、それは、兄から譲り受けた物で、最近は電源すら入れていなかった。


 報告を受けた指揮官は、家族四人に集まってもらい、他にパソコンはないかを聞いた。

 しかし答えはなく、間違いだったかと思われたが、利沙の表情が硬く、何かあると考えた指揮官は、利沙の部屋を、もう一度確かめるように指示した。


 それからしばらくして、


「ありました。子ども部屋の押入れの奥に、サーバーと思われる、電源の入ったままのパソコンを発見しました」


 その声で捜査員達が利沙の部屋に集まり、利沙達もそこへ着いて行った。


「このパソコンは、誰のものですか? この部屋は誰が使っていますか?」


 そう聞きながらも、捜査員の視線は、ずっと利沙の方を向けられたままだった。

 その目はとても冷たく鋭いものだった。


 答えたのは父親だが、驚いた様子は隠せなかった。


「この部屋は、娘が使ってますが、……でも、そのパソコンには見覚えがありません」

「娘さんですか? 少し話せますか」

「でも、娘が……そんな」

 母親は、途中で話せなくなってしまった。


「それでは、娘さん、ええと、名前なんて言いましたか?」

 父親が、

「……利沙、といいます」

「では、利沙さんと話をさせて下さい」 



 利沙の部屋には、捜査員三人が残り一人がパソコンを操作している。

 後の二人は利沙の前に立って、こう切り出した。


「君が、このパソコンの持ち主だね。間違いない?」

「……はい。でも、何もしてませんよ? サーバーだけで」


「知ってる。君が何かしたとは言ってない。ただ、このサーバーが、悪質な使われ方をしている、分かりやすく言うと、犯罪に使われているんだ」


「はんざい?」


「そう。契約している者が誰なのか知りたい。だから、ユーザー情報の提供をお願いしたい。いいかな?」


「……でも、それは、できません」

「どうして? もしかして、君がしてるのか? 犯罪」


 利沙は、驚いて見上げた。

「なっ。……なんで? 私じゃない」

「だったら、見せてくれないかな、名簿。あるんだろ?」


「……それでも無理です。そういうのは、ちゃんとしないといけないんですよ。法律で、個人情報は保護されているはずですから」


「ずいぶん良く知ってるじゃないか。子どもだと思っていたが、なかなか、たいした管理者だよ」

 捜査員は笑顔で褒めてくれた。

 でも、視線は鋭かった。


「それなら、捜査令状があれば、提供してくれるんだね?」

「それなら、……いいよ」


 外にいた捜査員が、部屋に入ってきた。

 その手には一枚の紙が握られていた。


「来たか?」


 受け取った用紙を確認し、利沙の前に突き出した。

 それは目的の捜索差押え令状だった。


 「これでいいかな?」

 利沙はあきれたように言った。


「……準備いいのね。わかった。ちょっと待ってね」


 利沙が、押入れの奥に頭を突っ込んで書類を取り出し、目的の物を探していると、


「でも、このパソコン、なんで押入れになんか入れてるんだ。普通、使いやすい所にあるんじゃないか?」


「親に内緒で買ったパソコンだからね。……見つけて欲しくなかったんだけど」


「内緒でパソコン買えるほど、小遣いもらってるのか? すげぇな。今どきの子は」


「違うよ。小遣いなんてしれてる。自分で稼いだんだよ。って言っても、バイトじゃないけどね」


「へぇ、どんな稼ぎ方してるんだ? まさか……」


「悪い事はしてないよ。オークション。知ってるでしょ。ネットの? あれで色々売って、資金にしたの。部屋の中、すっきりしてるでしょ。……あっ。あった。これ。はい、どうぞ」


 利沙は、一冊のファイルを渡した。

「確かに、女の子の部屋にしては、すっきりしてるかな? ……これこれ、ありがとう」


「でしょ? でもこれで、家族にばれちゃった。きっと怒られるな」

「すまないね。これも仕事なんだよ。ところで、サーバーになってるこのパソコン、持って帰って調べてもいいかい?」


 利沙は、いきなりびっくりした。

 そんな事されると困る。大いに困る。


「それは、だめ」

「なんで、そんなに拒否する?」


「さっき言ったでしょ。パソコンこれしかないんだよ。持って行かれたら、これからどうすればいいの? サーバーだってあるのに」

「しばらくは、無理だな。確認できたら返すから」


「そんなぁ。無期限休止。って事? それって、私の収入なくなっちゃう。しかも、色々しなくちゃいけないし。嫌だな。……でも、持って行くんでしょう?」


「そうだね。出来るだけ早く返すから」

「……仕方ない、なんとかするか。……いいよ、どうぞ」


 その後、捜査員達が帰って行ったのが十時を回った頃だった。

 パソコンをごっそり持って行かれて、押入れの中はすっきりした。


 その時、家にいたのは、母親と利沙だけだった。

 父親は仕事、兄は学校へ出かけていた。


 利沙は、こっぴどく母親からしかられた。

 この日、利沙は学校を欠席したが、次の日からは、普通に通っていた。


 サーバーも何とか、契約者とのこじれる事なく引き継ぎも出来た。


 それからしばらくは、本当にごく普通の中学生をしていた。



 その日までは。



 サーバー確認のために提供していたパソコンは、一ヶ月たっても帰ってこなかった。


 その頃になって、利沙には違う意味での心配事があったが、それほど気にしないようにしていた。


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