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花が咲く 第一部 ~その時見た夢~   作者: 三布
第一章  現在位置
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第一章  14

                 3


 事件から一日たった朝、利沙は病院のベッドに眠っていた。


 その側に杉原がいた。

 椅子に座って、眠っている利沙をじっと見ていた。その手は膝の上で硬く握られていた。


「……ごめんな。こんな事になるなんてな。もっと早く見つけられてれば、……こんな事になるなんて、……すまない。……」


 悔しそうに、つぶやくようにそっと話かけていた。

 事件以降目を覚ましていない利沙に。


 少し伏し目がちだったその目を上げると、布団から出ていた利沙の右手の指が少し動いた。


「利沙? 利沙」


 立ち上がり、動いた利沙の手を握った。

 すると利沙が、ゆっくりとまぶしそうに目をそっと開けた。

 まだ、状況を理解できないでいるようだった。


「利沙。目、覚めたか。利沙?」


「…………」


 ベッドに横になったまま何も言わず目をキョロキョロさせていた。

 利沙は、そのまま、また眠りに入っていこうとした時、主治医により声がかけられ目を開いた。


「友延さん。分かりますか? 友延さん? 友延さん?」

「……聞こえてます。……大きな声出さないで下さい。聞こえてますから」

 利沙は、最初は小さな声で、少しずつ大きな声で迷惑そうに話した。


「分かりますか? 良かった」

 医師の言葉に、


「……良かったって、どうして? 先生って、なんで……? ここは、どこ?」


 利沙は、混乱していた。


「利沙。どうした?」


 杉原が話しかけたが、利沙は興奮していた。

 

「なに? なんでここ。ここはどこ。なんでここにいるの? なにがあったの?」


「利沙、落ち着け。利沙。俺だ。杉原だよ。利沙。落ち着けって。利沙」


 それでもなかなか落ち着かず、

「利沙。杉原だよ。俺だ。俺を見ろ。俺だよ。利沙。利沙。利沙」


 何度目かの呼びかけで、利沙が杉原の方を見た。


「ほら、俺だ。分かるよな? 杉原だよ。利沙」

「……すぎはら、さん?……」

「そうだ。杉原だよ。分かったか? ……よかった。……ふぅ」


 その後、主治医による診察と検査がなされた、小一時間かかった検査が終わり、利沙は一人病室のベッドの上にいた。


 利沙は、大きくため息をついた。


 落ち着いたのは、今のところ危険がないらしいからで、全てに納得したわけではなかった。

 納得どころか、全く状況が分らないでいた。


 考えようとすると、足の痛みがじゃまをしていたから、集中できなかった。


 何よりも集中するのが得意な利沙にしては、ちょっとショックだった。

 たった一つ分かっているのは、何とか無事に助け出された事。


 それだけがはっきりと理解できた。


 そんな時、遠慮がちに部屋に入って来ようとそっとドアを開ける人がいた。

 杉原だった。


「……利沙。ちょっといいか? ……先生が、もういいって言ってたんだが」


 利沙は、返事をためらった。しかし、いつまでもそうしているわけにもいかず、

 「……どうぞ」


 そっけなく言ってから、入ってきた杉原を見た。


「……すまん」

 杉原は、やっとという感じで話した。


「…………」

 利沙の返事は返ってこなかったが続けた。


「すまん。俺が、もう少しでも早く気づいていれば、ここまでにはならなかったかもしれない。……そう思うと、悔しい」


 うつむき加減で言ってから、利沙の方へ視線を移して驚いた。

 利沙が、自分の方をじっと見ていたから。


「……ありがとう。それでも、気づいてくれたんでしょ? よかった」

 利沙は、少しだけ微笑んだ。その後、こう続けた。


「聞きたい事があるんでしょ? どうぞ。何でも話すよ。聞かれればね」


 いつもの利沙に戻っていた。

 それを見て杉原は、ため息をついた。


「……よかった。どうしようかと思ってたんだよ。正直言うと、……助かった。」


「そんな顔して、いかにも困ったなって言ってるんだよ。気にしないで、なんでも聞いてよ」


 利沙の表情は、明るかった。

 多少の無理はしているだろうとは思ったが、それには触れる事なく杉原は、静かに話始めた。


「……事情聴取というわけだが、どうしても、早く確認がとりたくて、本当なら(警察)署で聞くんだが、怪我の具合もあってここで聞く事になった。

 まず最初に聞きたい事は、この事件で、利沙は被害者か。

 そうでないならこの事件でのお前の役割は何だ。


 もう一つは、コードネーム・フラワーポットとして署員しか知らないアドレスにメールを送ってきたのは、利沙、おまえか? もし、そうなら、どうやってこのアドレスを知る事が出来た?」


 利沙は、しばらく答えず、


「……どう言ったらいいのか、……私は、自分から関わったわけじゃない。気づいたらこんな事になっていたし、事件の重要な部分は良く知ってる。

 ……警察へあの形で知らせたのは、あの時一番安全だと思ったから」


 利沙は、はっきりと告げた。

 一言一言を確かめるように。


 杉原は、それを聞いて、

「それでどうしてあのアドレスなんだ? どう見ても……。普通では一般に公開されているアドレスにメールを送るんじゃないか? 安全って。でも……どう考えても」


 言葉に詰まった杉原を助けるように、


「あの時は、メンバーの一人がコンピューターに強くて、普通にメールを送っても気づかれてしまうとから、警察のコンピューターに直接アクセスしてメールを送った。一番、目に付きそうなところに送ったの。本当は、もっと派手にしたかったけど、犯人に気づかれるわけには……、いかなかった。警察にハッキングしたのが、事実。でも、おかげで気づいてくれたんでしょ? 私は、間違った事をしたとは、思ってない」


 利沙は、途中下唇を軽くかむように話していたが、最後の方は、力がこもっていた。

 そんな利沙の態度に、杉原は、


「確かに、事件の発生している事に気づいたのも、即時に対応し解決にいたったのは、あのメールがあったからだが。そもそもあんな面倒なメールを送る前に、事件を起こさずにすむ方法も、もっと、簡単に事件が起こっている事を、知らせる方法だってあっただろう? 

 警備会社に知らせるとか、派手に警報鳴らすとか。なのにそうしなかった。それどころか、ハッキングをしかけてまで、強盗に手を貸すなんてしないだろう?」


 杉原は一気に話し、利沙を鋭い目で見た。


「…………」

 利沙は、その目を悲しそうに見返し、起き上がりながら、


「……それで、警察は、今回の事どういう風に考えてるの?」


「今回の事件は、……すでに逮捕された三人によると、ハッキングをしたがっていたハッカーから連絡があり、宝石を手に入れたがっていた自分達と、利害が合ってハッカー主導で事件が発生。

 それも自分達は一店舗でよかったのに、二店舗にわたって強盗させられた。強盗し終わってから、分け前の話でもめてしまい、その際に怪我人が出て、ハッカーに裏切られた。情報がこれ以上漏れるのを恐れて、ロープで縛った。と、いう経緯らしい。が、俺は信じてない」


 杉原が話している間、利沙は、ただ悔しくて、悔しくてしかたなかった。

 手は、硬く握られ震えていた。


 利沙は、静かに、

「結局、私がしかけて墓穴を掘った。って言いたいんだね? 

 私が、ハッキングしたがっていたところに、ちょうどタイミングよく、宝石がほしいと思っていた人が現れ、強盗する事になった。だけど、仲間割れして事件を漏らした。

 事件が発覚しにくいようにしたのは、そのまま逃走を図るつもりでいたためで、予定外の事だった。ってところ? ……」

こう告げた。


「……そうなのか? 利沙がハッキングしたかったから、この事件を起こしたのか?」


 覗き込むように見る杉原に、


「……どう思う? 私が彼らにさせたって……思う?」


「……俺は、利沙を信じている。俺に出されたSOSを、俺は信じる。でも、捜査一課の連中がどう考えるかは、これからの捜査しだいだろう。

 俺は、ハッキングに対する捜査はするが。強盗は、管轄外になる。この後は、捜査一課に捜査権が移るから、捜査協力という形でしか関われない。……悔しいんだよ。それが」


 本当に悔しそうに話す杉原の姿に、利沙は、


「まあ。そんなに力まなくても、なんとかなるんじゃない? 今までもなんとかなったし。

 ……でも、信じてくれて、ありがとう。それだけでも嬉しい」


 笑顔で答えた姿に杉原は、少しだけ表情が和らいだ


「そうだった。利沙に伝える事があったんだ」

 思い出したってタイミングで、杉原が話し


「なに? そんな慌てて」

「ああぁ。それが、お前が、事件で怪我をして病院に運ばれたって、友延家に連絡入れたんだ。だが、……」


「来れないでしょ? 分かっているから、気を使わなくていいよ」

「でも、こういう時には、どんな事があっても、駆けつけるもんなんじゃないのかと思うんだが……」


「いいって。気にしなくて。兄さんの事があって来られない。母も忙しいから仕方ないよ。いつもそうだから、杉原さんが気にする事ないって、それに、ここにある荷物、家から持って来てくれたんでしょう? ありがとう。杉原さんって、優しいね。本当にありがとう」


「すまん。でも、これはちゃんと準備してくれたんだからな。お母さんが」

「うん。ありがとう」


 利沙から素直な返事を聞いて、杉原は、利沙の顔を見る事が出来ず、うつむいたまま病室から出て行こうとして、


「それじゃ、また来るから」

 利沙は、そのまま見送っていた。


「ありがとう。さようなら。あっ、でも無理しないでください。私は大丈夫だから、お医者さんもいるし」


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