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第一章 13

「……ハッカー、ですか?」


「今回の宝石店強盗の方法ですが、ハッカーの存在は不可欠です。ハッカーが関わっていなければ、不可能な犯罪です」


「……では、そのフラワーポットとは、どんな男ですか?」

「男ではありません。少女です。高校一年生の少女です」

「少女、ですか? フラワーポットですよね、あの?」

「そうです」


「以前とんでもない事をいくつもやってのけた、ハッカーですよね? 男ではなかったんですか? 私は、男だと思っていました」


「驚かれるのはわかります。あの当時から、未成年のため詳細は伏せられていましたから。しかし、フラワーポットは、現在、十五歳の少女です」


 現場にいる人間でこの情報を聞いていた捜査員は、例外なく驚いた。


 フラワーポットとは、三年以上前から一年ほどの間に、数え切れない数の企業や政府の出張機関などの不正や贈賄及び収賄についての詳細を証拠と共に告発をし、簡単には見抜けない不正を暴いていった。


 一部で一種のヒーローのように騒がれていた。あの知る人ぞ知るハッカーだった。


 告発の内容が内容で、とても子どもの仕業には思えず、しかも女の子なんていうのは、考えにくい事だった。

 そのフラワーポットも二年前に検挙されたため、その後、フラワーポットは出てこなかった。

 そのため、忘れてしまっていた。


「とにかく、今回の事件はハッカーが関わっており、そのハッカーは、自分の意志とは関係なく強要されていたとしたら、何らかの規制があり、そのうえでSOSを送ってきたという事になります」


「では、人質になっているのは、そのフラワーポットというハッカーですか? しかし、フラワーポットだったとして、なぜ、彼女だと思われたんですか? まず、本人がここにいる根拠はなんですか? メールには、差出人の記名はありませんでしたが」


「それでしたら、サイバーチームが検証し、あのメールがフラワーポットのものである事は、確認済みです。

 フラワーポットこと、本名友延利沙の所在が、不明である事も確認済みです。昨日学校から帰宅していません。家族によると、昨日の放課後、帰宅せず友人宅に行くとの伝言を受けたそうですが、学校を出た後の足取りはまったくなく、今現在も目撃者を捜索中です」

「分かりました。人質を救出する事を前提にした作戦とします」


 現場の緊張感が高まっていった。

 特殊班が到着し、建物の中の様子を確認する作業に入った。


 しばらくしてから、

「確認しました。中には、男性三名と女性一名の計四名です。なお、女性は高校のものと思われる制服を、着用しています。それに、怪我を負っているもよう。女性は怪我を負っているもよう。身体を拘束されています」


「拘束。……人質ですね。やはり人質はいた。状況から、人質は友延利沙、十五歳。と、見ていいようです」

「これより、チームの役割に追加します。B班およびD班バックアップ頼みます」

「了解しました。バックアップ担当します」

「では、作戦を展開するに当たって一部変更します。具体的に指示するので、各班の班長は、一度指揮車まで来て下さい」

「了解」


 指揮車の周りに班長が集まり、作戦内容の変更は一部のみだが、具体的に全員の意識を確認した。



 そういった事情までは分からない容疑者が、いったい何をしていたか。

 それは、ただ、時間が解決すると思ってはいなかった。

 だから、これからどうここを切り抜けるかを考えていたのだが、全く思いあたらず、


「これからどうするんだよ。なんでこんな事になってんだよ?」


 パニックになっているのは、シン、ユウの二人だけではなかった。

 いちばん慌てたのは、タカシだった。


「…………」


「タカシ。どうするんだよ。ばれない筈だろう。なんでこんな事になってんだよ?」

「……知らない。……知るかよ。こいつが何かしたんだ。何したんだよ?」


 タカシが思い切り利沙を、揺さぶって文句をぶつけた。


「お前しかいないだろ。いつ何したんだよ。あいつらなんでここにいるんだよ?」


 利沙は、痛みにうなるのが精一杯で、顔をしかめた。当然口は塞がれたままだったから、話せないが。


「おまえが悪いんだ。おまえが悪いんだ。おまえが……」


 話が続かない。しかし、かなり興奮している。

 その勢いで窓から、


「助けてくれよ。俺等何もしてないぞ。したとしても俺等が悪いんじゃない。俺等は言われた通りにしただけだ。本当だ」


 それに驚いたのは、シンとユウの二人。

 そこで、二人もこれに便乗する事にした。


「助けてくれ。俺等だまされていたんだ」

「犯人は、ここにいるやつだ。俺等が捕まえたんだ」


 それに対して、警察もただでは応じない。

「そこから、出て来なさい。話は聞こう。そこから下に降りてきなさい」


 その言葉に三人は、一瞬ひるんだ。

「……分かった。これから、そっちに行く」


 三人は、我先に階段を下りて行った。

 階段下で待っていた警察官達に、身柄を確保されていた。


 三人が階段を降りたのと入れ違いに、何人かの警察官が階段を上がり、二階の部屋になだれ込んだ。

 そこには、手と足にロープが巻かれ、口にテープの貼られ倒れている少女がいた。


 利沙は、警察官により抱き上げられた。

 テープを剥がされ口の周りは赤くなっていたが、話が出来るようになった。


 この時には、利沙は怪我の影響か、発熱し意識も朦朧としていた。

「君は、友延利沙さんですか?」


 利沙はその言葉に、なんとか頷く事はできた。

「友延利沙の身柄を確保しました。救急車の要請依頼」

 現場指揮車に情報が来るまで、時間はかからなかった。

 

 その後、利沙は警察官に背負われて部屋を出て、階段を降り、たくさんの警察官がいる中へ連れ出された。


 すると、両手に手錠のかけられた三人の男、タカシ、シン、ユウが口々に、


「こっ、こいつに指示された。こいつが首謀者だ。俺等はこいつの言う通りにしただけだ」

「そうだ。こいつに言われた通りに動いただけだ。俺等は悪くない」

「こいつが悪いんだ。こいつがハッキングしたいなんて言うから、こんな事になったんだ」


 利沙は、朦朧とした意識の中で、この言葉にぞっとした。いったい何言い出すんだろうと。


「……ちがう。……違う。……」

 小さな声で利沙は繰り返しつぶやいた。


 警察官が、

「こんな子どもに何言われたって、簡単に断れるだろうが。何言ってるんだ」

 と、男の言った事に対して、相手にしていなかった。


 男達は、それでも何度も叫んでいたが、無理やりパトカーに押し込まれて、警察署に連行された。


 そうしている間に、到着した救急車に利沙は乗せられ、病院へと向かって行った。


 事件現場には、残された証拠や盗まれた宝石類などを、警察官達がそれぞれの職務をこなしていた。


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