第一章 11
目的地のビルのすぐ裏の入り口前に車を横付けし、利沙の立てた計画通りにタカシとシンがビルへ入り、ユウがビルの入り口に見張りに立っていた。
その間、利沙は一工夫した監視カメラの映像に見入っていた。
当然三人の目から利沙は外れるが、逃げ出せる状況になかった。
と、いうのも、足の傷もあるが、両足をくくられ、その上から、ロープが巻かれて車に縛られた。
動かせるのは、手と顔だけだった。
しかも入り口に横付けされている事で、見張りのユウが、利沙の見張りを兼ねていて、どうにもならなかった。
利沙の見ているカメラ映像は、警備会社の監視カメラの映像だが、これは、現在のもの。
警備会社の警備員が、今見ているのは、利沙が警備会社から仕入れた過去の映像で、都合のいい所を切り貼りしたものを見せていた。
要は、だましているわけだ。
このビルの周辺は、ファッションビルの立ち並ぶ一角にあり、昼間は若者達で賑わっているものの、夜は一転、人通りがぱったり途絶え、静まりかえっていた。
これも利沙の作戦の一つ。
夜中にうろついているのは、警備員か、強盗だけだろう。
警備員も午前一時の巡回を終えると、次の四時の巡回までこの辺りにはいなくなる。
利沙達が現場に来たのは、午前二時。
次の巡回まで、ぎりぎり二時間ある、それだけあれば、十分だ。
ビルの裏口に車を横付けし、入り口の電子ロックを解除、侵入するまで時間はかからなかった。
三人が思わず、
「早ぇ」
と、感心したほどだった。
警備映像に細工したとはいえ、どこまでごまかせられるか。
それは警備員の質によるだろうが、何とかなりそうな予感が利沙にはあった。
この警備会社は、モニター監視に、あまり人員をさいていないスケジュールになっていたからだ。
でも、油断は禁物。
二店舗行くとなると、時間の問題があるが、電子ロックの入り口や、ショーケースの鍵など、必要な物の場所をの利沙の指示を、ユウが携帯電話で繋いだまましていた。
二人ともなんとか順調に作業を進めていき、午前三時を過ぎて二人を車に帰ってくるように伝えた。
二人の持つ荷物に大量の収穫がある事は、すぐに見てとれた。
「行くぞ。ユウ、早く出せ」
利沙は、二人が車に乗ったのを見て、裏口の入り口をロックした。
それを見たタカシが、
「何してる。警察に連絡してるんじゃないだろうな?」
「ちがう。……入り口をロックした。それなら少しは、時間がかせげる。それに、警備システムをカメラ映像以外、元に戻しただけ。捕まりたくないでしょう?」
利沙は少し早口で話したが、納得した様子で、
「……それで、終わったんだな?」
「終わったよ。もう、いいでしょう? 私を帰してよ。この事は絶対に話さないから」
しかし、タカシから意外な言葉が聞かれた。
「今度は、違う店に入ろうと思う。さっきシンとも話したが、この調子なら他の店も出来そうだろ。お前さえいれば」
ユウは、驚いたようだが、バックミラーの中で頷いていた。
それを見て、
「だから、まだまだ、する事はたくさんあるよ。帰すわけにはいかないな」
そう言いながら、利沙の手を後ろで縛って、嫌がる利沙の口にテープを貼った。
「変な事考えても、無駄だ。こんなに上手くいくとは思ってなかったから。これからが、楽しみだ。覚悟しとけよ。俺等はまだまだいけるぞ」
車の中は興奮していた。
工場に着いて、利沙は再び抱えられて、二階の部屋に連れられた。
利沙は、手と足を縛られたまま、横になっている状態だが、足の痛みと少しずつ続いている出血で、体力に余裕がなくなっていた。
そこへ、ユウがパンとジュースを持って現れ、利沙の体を無理やり起こし、手のロープをはずし口のテープを剥がした。
利沙は思わず、足と口の痛みに唸った。
「いいか。これ食ったらまた縛るから、さっさと食えよ。今晩もう一回行くぞ」
と、伝えた。
三人は、集まって、なにやら話し合っていた。
今は、午前六時。
ここに戻ってすぐは、あまりの興奮にわいわい騒いでいたが、落ち着いてきていた。
利沙は、手の紐がほどかれた事で、自分で足の紐をほどき、足をさすりながら、ここから逃げ出せないかと考えていた。
食欲はないが、強いのどの渇きを感じ、与えられたジュースを一気に飲み干した。
あまりにも勢いよく飲んだので、最後に少しむせた。
その事は、三人には気づかれなかった。
このままの状況が続くと、また同じ事をさせられる。
そう考えた利沙は、どうしても逃げ出したかった。
そんな事を考えているうち、ユウが、やってきて、
「なにしてる。ロープほどきやがって。逃げるつもりだろう」
その声を聞いて、シンとタカシがやってきた。
タカシは、利沙を押さえ込んでいるユウをどかしてから、利沙の傷を思い切り踏みにじった。
「ぎゃぁっ。……」
利沙は、大きな声をあげた。
「なにしてんだよ」
タカシは、強く冷たく言って、
「ロープかせ、俺が縛ってやるよ」
タカシは、今まで以上にきつくしばった。
利沙は、悲鳴をあげたが、それにかまう事はなかった。
縛り終わると、利沙の前にかがみこみ、
「何度も言わせるな、お前は、俺等の言う通りにしてればいい。余計な事をするんじゃない。そうでないと、どうなっても知らんぞ」
ナイフを利沙の目の前に突きつけた。
利沙の口にテープが貼られ、利沙は、何もできなくなった。
三人はその後、盗んできたものをじっくり見ながら、色々話をしていた。
利沙は、その間も痛みに耐えた。




