第一章 1 現在位置
1、にはないですが、2、以降は犯罪関係の表現が、出てきます。
過激な表現を、使う予定はないですが、よろしくお願いします。
まさかこんな事が…………。
そんな事あると思う? もし、そんな事がすぐそばにあったとしたら……。
第一章 現在位置
桜の花の舞い散る頃、私は、高校一年生になった。
学校は、適当に決めた。選ぶにも選択肢は多くなかった。その中で、まあまあ面白そうなのを選んだ。
だから、学校そのものにあまり興味はなかった。
友達の何人かが同じ学校を希望したらしい。でも、入学試験でそのうちの誰にも会わなかった。なにしろ、進学校とか、そんなにレベルの高い学校という事もないのだから、他に選べる学校があるなら、そっちに行っても不思議はない。
ただ、私には、少しは魅力を感じる授業がある。
とにかく、学校には楽しんで通っている。
1
足元のタンポポの綿毛が目に付くようになった頃、陽射しが気持ちいい風を運んできた。
ドタドタとした誰かの足音が、廊下の端から聞こえてきた。
そう思っていると、突然教室のドアが勢い良く開いた。
「次の時間、自習だって!」
一人の女子生徒の息を切らし叫ぶような声が、教室中に響いた。
その声を聞いた男子生徒が、黒板に大きく自習の文字を書いた。教室のあちこちから、歓喜の声があがった。
それというのも、ここのところあらゆる科目で小テストが続いていた。
そのため、みんなうっぷんがたまっていたからだ。
今は、もうすぐゴールデンウィークを控えた、良く晴れた五時間目と六時間目の間の休み時間。
最近、先生達はこぞって小テストをしたがる。噂では、もうすぐ行われる定期考査の準備をしてるのではないかとも言われている。
出来ない問題をテストに出そうとしてるという事らしい。
そんな噂が校内をめぐっているが、誰も信じてはいない。
一方で、先生が授業の手抜きをしている、という見方をしている人もいる。
何が正しいかなんて、誰も知らないし、知っていても知らなくても、テストを受ける事には変わりない。
だから、誰も真実に興味がない。
今は、授業を一時間受けなくていい事が嬉しい。それだけ。
そんな中、一人が、
「何があったんだろう。住田先生、確か職員室にいたよ」
「なんで、そんな事一々気にするんだよ。自習は自習、それでいいんだよ」
「でも、あの住田が授業休むなんて、よっぽどの事だぜ。あいつ、熱出ても授業してただろ。あの日も」
「あったあった。確かあの日、熱でうかされて、小テストの答えをテストする前に黒板に書いたままテストしたよな……」
「そうそう、それで採点してから」
「皆さんすごいです。先生はとても嬉しい。皆さん百点です。ってすっげぇ喜んでたろ」
と、当時の先生のまねをしながら話すと、教室中が笑いの渦に包まれた。そこへ、教室のドアが開いた。
六時間目の始業のチャイムが鳴って教室に入って来たのは、住田先生ではなく、自習用のプリントを持った教頭先生だった。
「住田先生は、急用が出来たので、みんなには迷惑をかけますが、六時間目を自習にします」
そう言われて一年C組の生徒は、にこにこしながら聞いていた。
「六時間目は、このプリントをして下さい。六時間目終了後、回収します」
教頭先生は、プリントを配り始めた。
一年C組の教室は、生徒も空気もザワザワしていた。
プリントを配り終えた教頭先生は、教壇に戻り教室を一度見回した後、ドアに向かって歩き始め、生徒はじっとそれを見ていた。
早く行け、と言わんばかりの視線を送りながら。
ドアを開けて、今、出て行こうとしたその時、
「ああ、そうだ」
突然教頭先生が、振り返った。ドアに手をかけたそのままで、
「友延さん、ちょっと来て下さい」
と、一人の生徒の名前を呼んだ。
「……はい」
呼ばれた生徒が立ち上がり、同級生の熱い視線の中をドアへ歩いて行った。
教頭先生は、小声で、友延と呼ばれた生徒に話し、
「すぐに職員室に来なさい」
そんなやりとりを、クラスのほとんどが見ていた。
「他の生徒は、プリントを終わらせるように」
言い終わると、教頭先生は、職員室に向かって歩き出した。友延と呼ばれた生徒は、一度自分の席に戻り、改めて教室を出て行こうとした。
「利沙。なんなの?」
「さあ? よく分かんない。……行って来る」
利沙は、教室のドアを閉め、職員室に向かった。
その後の教室は、六時間目の間中、静かになる事はひと時もなく、一部の生徒が頑張ったプリントを、その他大勢が、六時間目の終了間際に慌てて写す光景がみられた。
一方、職員室に向かった利沙は、今、職員室前までやって来た。
ドアをノックして開けると、残っていた先生が一斉に利沙を見た。
「失礼します」
利沙は挨拶した後、教頭先生を探し始めた。職員室に呼ばれる理由が全く分からなかった。
それを見た住田先生が、職員室の奥まった所にある面接スペースから、
「こっちへ来なさい」
と、指示を出し、手招きしていた。
利沙は、その方向へ歩き出し、三歩進んで、不意に百八十度向きを変えて、職員室を出て行こうとした。
「ちょっ、ちょっと待って。友延さん。こっちに来なさい」
慌てて、住田先生と教頭先生、おまけに校長先生までが、引きとめようとした。それでも利沙は、先生達の言葉を無視して出て行こうとしていた。
そこへ、面接スペースにいた、どう見ても学校には似つかわしくない風体の二人の男性が立ち上がり、こう言った。
「久しぶり。友延利沙さん」
と。
その声を聞いて、利沙は歩みを止め、振り返った。そして、ゆっくりとこう言った。
「お久しぶりです。杉原さん。真鍋さん」
半分以上、というか、ほとんど、睨みつけた顔で、
「私は、ここに用事はないので、失礼します」
利沙はそう言うと、改めて出て行こうとするので、先生達は、おどおどしている。
「話は、あるから、こちらに来なさい。友延さん」
「この方達が、君に確認したい事があるそうだ」
「待ちなさい。話は終わってない……」
先生が交互に引き留めようとする。
そうした声を制したのは、杉原と呼ばれた男だった。実は、この二人は警察官で、しかも、難易度の高い犯罪専門の捜査員であり、友延利沙とは、過去に面識があった。
「利沙。逃げるのか。話も聞かないとは、やましい事でもあるのかと思うだろ?」
少し大きめの威嚇じみた言い方をした。その声に、利沙も思わず反応した。
「私は、用事がないと言っただけ。やましい事って何?」
つっかかる言い方で返した。
それをはらはらする思いで聞いていた先生達はたまらず、
「少し、落ち着きましょう。まずは、……座りましょう」
と、双方を面接スペースへと促した。
しかし、利沙は、なかなか動かず三人の教師に半ば強引に、座らされた。
先生達にしてみても、意外な事が起こっている。
それは、利沙の態度。
いつもなら、進んで何でも積極的に協力してくれるはずなのに、今日というか、今の態度は、見た事がない。
しかも、警察官に対してとる態度とは、とてもではないが、納得がいかなかった。
利沙は、しぶしぶ面接スペースの椅子に腰を下ろした。これでやっと、話らしい話ができるようになった。
先に切り出したのは、意外にも利沙だった。
「私は、教頭先生に来るように言われたの。だから、職員室に来た。あんた達には、用はない。そうでしょう? 教頭先生」
利沙は、教頭先生を見上げるように言った。すると、教頭先生の隣にいた、住田先生が口を開いた。
「友延さん。私が教頭先生に、君を呼んでもらうように頼んだんだ」
住田先生は、周りを見回しながら続けた。
「こちらの(二人の捜査員を手で示しながら)方々が、君に用があるそうだ。我々は、捜査に協力する事になる。分かったら、聞かれた事に正直に答えなさい。私達がいない方が良かったら、私達は、席をはずす。どうかな。分かってくれたかい?」
住田先生は、落ち着いた口調で話した。動揺しているのだろうが、それを感じさせない。確かに、生徒指導には、適任だと言える。
若干、迫力には欠けるかもしれないが。
この話の後、周りで見ていた先生達が、一人また一人と自分の仕事へと戻っていった。
これから、まだまだ続きます。
頑張りますので、よろしくお願いします。