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第一話 「杖」

「……よッ!」


俺は掛け声を放ち、手に持っていた斧を床に叩きつける。

その次の瞬間には小気味の良い音と共に斧の刃が地面に突き刺さった鈍い感覚が走った。


「っと」


斧を近くの壁に立て掛けると周りに散らばっている丁度いい感じに割れた木っ端を持ち、それを近くの竈の中に放り込むと、俺を叫ぶ。


「師匠、湯加減はどうですか?」

「うむ、なかなかだ」

「分かりました、なにかあったらまた言って下さい」


壁の向こうに居る俺の義母兼師匠である時空の賢者「エルメンヒルダ」の満足そうな返答を聞くと、こっそりとため息を吐き、壁によりかかった。

ポケットから取り出した封が解かれたセブンスターの箱から一本を取り、右手を近づけて呟く。


『我が右手の人差し指に、小さき炎よ、灯れ』


その言葉を発した瞬間に全身から血の気が引くような寒気を覚えた後に煙草に近づけていた人差し指からライター以下の火が灯る。

火はタバコの先を焦がし、俺の口と先から出た煙が黄昏の真っ赤に染まった森の中を竈の煙突から出る黒煙と共に昇っていく。


「……早く、日本に帰りたいなぁ」


山田一郎、二十四歳、現在地ファンタジー世界。

現代がどれだけ便利だったか再認識中だった。




那由多の彼方から 第一話 「杖」




「本当に君がする事は毎度、驚かされるな」


老女の癖して無駄に艶が良い身体を火照らせた師匠が上機嫌にスープを飲みながら対面に座っている俺に向かって言う。


「俺としては、日常的に風呂に入るという行為をしない方が驚きなんですけどね」


俺は師匠にそう言うと、手にある黒パンをスープに浸してふやけさせると噛み千切る。

そう、噛み千切る。

この世界はどうやら西洋風らしく主食はパンなのだが、現在日本に生きていた俺からするとパンとは到底言えないレベルの代物なのだ。

例えるのなら「ゴム草履」といった辺りだろうか?

どうにも原材料として小麦だけを使っている訳ではなく、大麦にライ麦といった物は当然として時には雑穀は栗、ジャガイモといった物を混ぜているらしい。


そんな貧者の知恵でもって作られたこの灰色のパンはまともに食べると、歯が確実に折れるぐらいに固い。

ペーターのおばあさんの夢が柔らかい白パンを食べる事が納得の固さだ。


目の前のハンドレッド超えは確定しているおばあさんは無駄に歯並びの良い真っ白な歯で素敵に噛み千切って食べていらっしゃるが。


「それは仕方が無いだろう。

あんな風に水や薪を使えるのは余程の大金持ちか貴族、それ以外なら私のように水を生み出す事が出来る魔術師だけだ。

君の世界の蛇口だったか?それを捻るだけで水が出てくる訳ではないからな」


師匠はそう言う。


どうにもこの世界、師匠から色々と話は聞く限り近世と近代の狭間辺りの文明レベルらしい。

超文明ローマの栄光もどうやら無いようで上下水道という概念が発達していなく、日常的に水で全身を洗うなんて事は貴族や王族、金持ちの商人といった人物しか出来ないのだと。

それを聞いた当初はペストが流行したヨーロッパの如く排泄物を窓から捨てている衛生レベルなのかと戦慄したが、さすがは魔法がある世界、一味違った。


エラザ教会、キリスト教のパクリかと思うぐらいにそっくりな教義を持っているこの教会が祝福符なる物を売り出しているのだ。

この祝福符というのには古代語で身体を清潔するという言葉が書かれ、「神の恩寵」とやらで魔力が込められており、魔力を持たない一般人でも発動できる様になっている。

街に住む住民なんかはそれを買って使い、身を綺麗に保つらしい。


まぁ、伝聞で言っているから推測できる通り、そんな代物俺は一度も見た事は無いが。

この森、通称「賢者の森」の近くにある俺や師匠が食べ物や生活必需品を貰いに行く村は教会が無く、村の住民は森の中にある湖に来て沐浴をしている。


俺も最初はこれで身体を洗っていたが、日本人として冷たい水で身体を流すだけの入浴に耐えられず、運よく向こうの世界から持ち出していたクイズゲーム用のwikipediaは当然として経済に医学、動物、その他無数の専門書を詰め込んだノーパソで五右衛門風呂の情報を探しだし、師匠に色々と手伝って貰いながら日曜大工気分で作り上げたのだ。

買ってきた当初は叩きつけて壊そうかと思った超ハイパワーを自称していたソーラチャージャーのお蔭でノーパソは「それなり」に使える……まぁ、晴れの日に丸一日充電して二、三時間持つレベルだが。


「それを聞くと、科学がまるで魔法みたいですね」


俺が苦笑いを浮かべながらそう言うと、師匠は笑って言う。


「君自身が私に教えてくれたじゃないか。

行き過ぎた科学は魔法と違わない、と。

確か、ろけっとだったか?

私からすればそんなのが天を飛び越え、あの夜空で瞬いている星に降り立っているという方が信じられんよ。

過去に私もどれだけ高くまで空を飛べるかやってみた事はあるが、ある一定以上まで上ると息が苦しくなってな、どうやってもそれを対処する事が出来ずに諦めたのだ。

それを魔法が持たない人間が飛び越えた時点で君がいう科学は魔法の上だと思っている」


それはおそらく酸素が足らなくなったせいだろう。

メーヨーの説はまだこの世界には広まっていないらしい。

まぁ、魔法がある世界でラヴォアジエやプリーストリーといった人物が台頭できるかいささか疑問は残るが。


「向こうにいけば、魔法も凄いと思いますよ。

こうするのですら、あっちはコイツが必要ですからね」


俺をそう言うと、再ぶポケットから煙草を取り出しライターで火をつけて吸う。

魔法でやってもいいが、あの全身の血を抜き取られるような感覚は好きになれない。

それにライターオイルをケチる必要はもう無いのだ

ノーパソを入れていたバッグの中に入れていた分と最初に持っていた分を合わせると全部で五箱、これは四箱目なので次が最後の一箱。

封を開けてしまえば、四、五日程度でしけるので吸う時は一気に吸わなければいけない。


「相変わらずなのかね?君の魔力操作は」

「残念ながら相変わらずです、実際に使うレベルだとこれの火種を出すのが精いっぱいですよ」


召喚されてから半年、魔法について色々と学んできたが俺が実用的に使える魔法は「ライター魔法」だけだ。


「しかし君は不思議だ。古代語は理解できるのに魔力操作が駄目とは。

逆なら珍しくはないのだが」

「異世界人だからじゃないですか?」


俺をそう言いながら煙草の苦味を噛みしめる。


魔法とは基本的に二つの要因で決まるのだ。

一つは当然、古代語の知識。

符や、彫り込みといった行使方法の違いはあれど、この知識がないと魔法は行使できない。

加えて古代語は言葉に認められないと行使が出来ないという訳の分からない機能があり、「水」という古代語を知っていても使う事は出来ないのだ。

師匠曰く、古代語とは物事の本質を現した物でありそれは知るではなく識るという行為によってそれを会得できるとかなんとか。


お蔭で師匠が俺の言語の補助を止めてからは色々と苦労した。

頭の中で喋ろうと思った言語が口に出せないのだ、その度に何度舌を噛んで悶絶した事か。

それでも俺の習得の速さは師匠を超えるような勢いだったらしいが。

まぁ、おそらくそれは科学知識があるからだろう。

水の本質なんて水素原子二つと酸素原子一つが共有結合で結ばれた物質な訳だし。

これは個人の感覚なのだが古代語というのは言葉というより「概念」その物な気がする。

上手く言葉には出来ないが、そこらへんが虚偽を許されない原因につながっているのだろう。


で、そんな自分なりの学説を持ち師匠と討論が出来る優等生だった俺がこけたのが二つ目の魔力操作だ。

体内にある魔力を練り上げ、言葉や符に乗せる事で魔法は発動するのだが俺はその練り上げる行為がヘボという致命的な弱点を持っている。


「異世界人といっても、君の魔力量は歴史に名を遺す程に多いという訳ではないが普通の魔術師としては大成は出来る程にはある。

それにこちらの世界の「人間」に比べて少々貧弱だったとはいえ身体の構造も大して変わらん。

まぁ、私が生存可能な世界の知的生命体を呼び寄せたのだから変わっていたら困るのだがな。

故に出身世界の問題というより君自身の問題な気がするのだが?」

「そうは言いましてもね、では俺にどうしろと?」


煙草の灰を手作り灰皿に落とし、俺は師匠に聞く。

彼女はそんな俺と一度と目を合わせた後に、少しの間沈黙すると再び口を開いた


「…………ふむ、ならば杖を作ってみないかね?」

「杖ですか?」


杖?

いつも師匠が持っているようなあの巨大な樹の棒みたいなやつか?

魔力を増幅させる効果を持つらしいが、自分の魔力を扱うだけでも不安定な俺の魔力を増幅させても、意味は無いと思うのだが。


「杖って師匠が作っている魔力増幅器の事ですよね?

増幅なんてしたら俺の場合、余計に不安定になるんじゃないですか?」

「私が使っているような物を作ればな。

君に作らせようと思っているのは別の物だ」


そう言った師匠は杖を地下に向けて振るう。

その数秒後にはログハウス地下にある書架から魔法で移動させられた本がテーブルの上に乗っていた。


「魔術師というのは魔力が無くてはなれないだろう?

昔、それを解決しようとした人物がいてな。

そやつは魔力を別の物に貯める事で魔術師以外でも魔力を使えるようにしようとしたのだよ。

まぁ、結果から言ってしまえばそれは失敗に終わったのだがな。

しかし、その時の副産物で魔力操作を安定させる為の「杖」の開発に成功したのだ。

だが、これが結構面倒な物でな。

それなりの古代語知識が無ければ作れない物でそこまでの知識を得た物はわざわざそんな物に頼る必要も無い程に魔力操作はうまくなっている。

お蔭で発表当初は世を騒がせたが、すぐさまに忘れ去れてしまった」


具体的な例を出すならば、自転車に乗らなければいけない場所に補助輪がつけられる店があるって感じか?


「そんな杖があるなら俺にとってありがたいですけど、杖の作製には希少な素材を使うと以前に読んだ本に記されていましたがそんな材料がココにあるんですか?」


魔法を勉強していく途中に師匠が持つような杖を使って魔法を使いたいと思って調べた事があるから分かるが、杖を持つこと自体が一流の魔術師である事の証なのだ。

師匠の物なんかは世界樹と呼ばれる核爆弾の爆発にも耐え抜きそうな樹木の枝を三か月くらいかけて儀式を行い折った物で、その芯には幻想種と呼ばれるドラゴンと友誼を結び、代償と引き換えに分けて貰った鱗や牙を混ぜ込んでいるらしい。

無論、一般の魔術師の杖はそこまでの素材は使っていないが一般の人間なら目玉が飛び出る程の高価な希少物質を使わないと「杖」として実用には耐えられない。


「だから、それは増幅器としての杖を作り場合の話だろう?

君にこれから作って貰う杖にそういった物は必要ない」


師匠は本を開き、中を読みながら俺に言う。


「魔力を増やすのではなく、整えるという行為に使う杖だ。

必要なのは、術者に関わり深い物。

ある程度の思い入れがあり、少なくとも二年以上は殆ど肌身離さず持っていた物がいい。

例としては、書物、武器、装身具。

イチロー君、そういった物で何か持っているかね?」

「……持ってませんよ

俺がこの世界に来たのは半年前ですし、書物はまだしも武器なんて物を日頃から持ち歩いていたら俺の国では捕まります」


財布とかそういったあまり変えずに身に着けていた物も就活の前に買い替えたし、この世界に来た時に身に着けていた物は殆どが新品だ。


「それならば、代用品として術者の肉体構成物でも可能らしい。

本にはお勧めとして「歯」と書いてあるがどうする、抜くか?」

「え?」


いやいや、待て待て待て。

今夜飲みに行こうぜみたいな軽い感じで抜歯しようぜ!っておかしいよな?

麻酔とかないし、魔法で気絶ぐらいはさせて貰えるかもしれないが後で絶対地獄の苦しみを味わうだろ、それ。


「何、一本ぐらいなら問題なかろう」

「あ、いや、ちょっと待って下さい!」


何か、何か使い続けていた物はないのか!?

服?

いや、ダメだ。

出不精でわりかし引きこもりガチだった俺とはいえ、さすがに毎日同じ服は着ていない。

それに召喚された時の服は帰る時に必要だと思って、この半年間はこの世界の服を着ているから使えないだろう。

財布もダメ、携帯も最近にスマートフォンに買い替えたばかりでダメだ。

家の鍵……いや、これも駄目か。

九か月前ぐらい前にアパートの鍵を一斉につけかえて新しい物を貰ったばかりだ。

後、こっちの世界に持ってきた物は一年半前くらいに買ったノーパソくらいしか……。


「師匠、一年半前ぐらいの物は駄目ですかね?」

「一年半か……少々厳しいがいけなくもないな」

「なら、これでお願いします」


俺をそう言って、部屋の窓際に置かれていた黒い鞄を机の上に置いた。

中には勿論、ノーパソと同時に買った付属品が入っている。


クイズゲーム用に買ったノーパソだが、容量限界まで詰め込んだ豊富な資料とワープロ、エクセルといった機能も入っている為に卒論やら講義やらで使い、わりかし持ち運んでいたから条件はギリギリ満たせる筈。


「これは……いや、いい選択かもしれん。

これなら一種の書物とも取れる。

相性自体はかなり良いな」


予想以上の良い反応を師匠をみせてくれた。

パソコンが書物の一種というより、パソコンが出来る機能の一つに書物の代わりになるというのが正しい気がするが、藪蛇をつつく必要もないだろう。

というか、何か下手な事を言うと抜歯に変更されかねない。


「ふむ、ならば早速やるがいいか?」

「構いませんが、準備とかはしなくていいんですか?」

「この杖の作成に準備はいらん。

必要な材料と術者の古代語知識さえあれば、数十秒で片付く。

では、始めるぞ」


そう言った師匠は着ている服で口元を隠し、杖を振ってブツブツと何かを唱え始める。

すると、置いたノーパソが入った黒い鞄を中心として青い色を放つ魔法陣が浮かび上がった。

円状に広がったそれは円周に文字、古代語を浮かび上がらせる。


「それを君が読めば契約完了だ」

「あ、はい、分かりました」


魔法陣に見惚れていた俺は頭を振って意識をはっきりさせると、目の前を流れる文字を確認し、それを口からだす。


『我、ここに上記の契約を認可する』


そう俺が呟いた次の瞬間に魔法陣は白い光を放ち視界が真っ白になる程の光を放ち、消え去る。

数秒の後に白かった視界は晴れ、いつものログハウスの姿がそこにあった。


「いや、あの、師匠。

これで終わりですか?」

「そうだが?」

「思わず言っちゃったんですけど契約って」

「勿論、杖契約の事だ。

本の通りにやると何十ページと続く契約内容を読み上げなくてならないなら私が圧縮詠唱で代わりに代読し、君が最後に了承の返事をするだけにしたのだよ」

「…………あ、はい、分かりました。

色々とありがとうございます師匠」


なんというかドヤァという感じで胸を張る師匠の姿を見ていたら言う気が失せた。

いや、うん、まぁ、どうせ俺は規約とか読まずにOKボタンを押す人間だし、結果的には何も変わっていない……筈。


「うむ、それでどんな感じかね?」

「えっと、どんな感じとは?」

「だから、杖契約して何か変わった感じはないのかと聞いているのだよ?」


いや、何も変わった感覚とか無いんですけど。


「えっと、何も変わった感じはないのですが」

「おかしいな、それは。

本によれば、思念や思考が飛んでくる筈なのだが」


思念や思考ですと?


「師匠、思念や思考とはどういう事なんですか?」

「あぁ、この杖は杖自体が微弱ながらも意志を持つのだ。

まぁ、会話が出来る程ではないがな。

契約が出来ている筈なら、魔力のラインがつながり杖の意思が君に伝わってくる筈なんだが」


なんというか「杖」ってより「使い魔」に近いな、それ。

意志を持つとか魔力のラインとか。

とはいえ、そんな感覚を今の俺は微塵も感じていない。


「というか、師匠。ノーパソが消えてますし。

これ、もしかして失敗したんじゃないですか?」

「いや、それは無い。

失敗したのなら、ライン形成が出来ないだけで「杖素体」が消えたりはしない。

むしろ、成功したからこそ「杖」が消えているのだ。

この「杖」は杖自体が術者の魔力によって全て形成されるからな。

本の記述によるならば、その意思に魔力を注ぎ込む事で実体化するのだが……。

そういう感覚は無いのかね?」

「うーん、ちょっと待って下さい」


目を瞑り、意識を集中する。

魔法の習い始めた頃にやった魔力を感じる訓練と同じように全身に意識を張り巡らす。

そして――唐突に俺は気が付いた。


「これ、ですかね?」


そう言うと、俺は「杖」に力を込め、出現させるようにする。

すると、俺の魔力光である紫の光と共に机の上にノーパソが顕れた。


「できるじゃないか」

「できましたねぇ」


なんといえばいいのだろうか。

どうやって指を動かしているのか言葉で説明できないのと同じようにこれも説明できない。

動かせる身体の延長線上にコレがいつの間にか存在していたとしか言い様がないのだ。


とりあえず、閉まっていた蓋を開け電源を入れる。

すると、見慣れた四色で出来た旗が画面に現れ数十秒後には何時もの通りのデスクトップ画面が出てきていた。


「私には何が変わったのか分からないが、君には分かるのかね?」

「いえ、俺も分かりませんよ。

まぁ、だからちょっと探してみます」


意識を集中させ、顕現させた無線タイプのマウスを握りしめ俺はそう言うとカーソルを動かし確認していく。


「ん?……こいつは」


スタートボタンを押すと『新しいプログラムがインストールされました』という表示が出ている。


「ビンゴかな?」


俺はそのポップアップをクリックし、新しいプログラムがインストールされたフォルダを開ける。

そこにはたった一つ『Magic Player』と名付けられたプログラムが存在していた。


プログラムの詳細画面を開いてみれば、その殆どが文字化けしている。

しかし、その文字化け文のなかにはなんとなく古代語を思わせる部分があった。


もうこれで確定だろう。

しかし、杖がプログラムになっているとは。

まぁ、現代人である俺には合っているかもしれない。


「さて、どんなことになるのやら?」


詳細画面を閉じ、深呼吸をして気持ちを落ち着けた後、『Magic Player』のアイコンをダブルクリックする。

その次の瞬間には画面は青一色に変わった。

青くなった画面にはブクブクと泡の様なものが画面下から上っており、右上に大きくMagic Playerと書かれ、左の画面端や右下では魔方陣がクルクルと廻っている。


――そして画面奥からこちらに向けて見慣れたアレがこっちに向けて泳いできていた。


「嘘だろ?」


しなやかな身体を振るわしてゆっくりと近づいてくるアレ。

黒いつぶらな瞳に、ちょっと大きい真っ白なお腹がキュートであり、その手には白い巨大な貝を持っているアレ。


アレは画面の右下にたどり着くと薄黄色の画面を展開させる。


『初めまして、マイマスター。

私はマスターの魔術補佐を担当させて頂くために造られました『Magic Player』アシスタントです。

至らない身ではありますが、どうぞこれから宜しくお願いします』


文字が表示されると同時に画面の中で綺麗にお辞儀をするアレ、つまり例のイルカだ。


「……本当に君は私を驚かせるな」


師匠が微妙な笑みを浮かべながら俺の肩を叩き、言う。


俺こと田中一郎、24歳、異世界生活半年目にしてネットで大人気の「お前を消す方法」のイルカと心を繋がりました。


そもそもヴァージョン的に、このパソコンにはあいつは居ない筈なんだけどなぁ。

……異世界ファンタジー情勢は複雑怪奇なり。

あぁ、早く日本に帰りたい。

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