表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異 空 間  作者: 本城沙衣
8/78

* 旅館 其の一 * 2


私たちを部屋へ案内して来てくれた仲居さんが、お茶を入れながら、旅館の中を口頭で説明してくれていた。


その旅館には、大きな温泉浴場が4つあるらしい。


鈴木先輩は、その温泉目的で選んだと言っていたので、それは熱心に仲居さんの話を聞き入っていた。


森田先輩は、部屋が気になるのか、いつものように、空中に手をかざして、何かを探っている。


“いつものように”というのは、霊感が恐ろしく強い森田先輩は、初めての場所などへ行くと、いつも、そのようにして、そこの空気感などを確かめている。


なので、見慣れているといえば見慣れている森田先輩の行動。


しかし、その時は、その旅館へ着くまでの経緯や、旅館の階段で感じた怖さなどを経験した私にとっては、不安を掻き立てられる行動であった。


まだ仲居さんが部屋にいたので、「大丈夫そうですか?」という言葉も掛けることも出来ずにいた私。


鈴木先輩の横に座って、何となく、窓の外の景色を見ていた。


新緑が窓のすぐそこにあり、手を伸ばしたら届きそう。


遠くに湖が見える。


湖!?



『まさか……あの湖じゃないよね!』



森田先輩を見ると、私と同じ方向を見ている。


アイコンタクトで森田先輩へ、そのセリフを言ったつもり。


森田先輩は、私のそのテレパシー(!?)を受け取ってくれたのか、小さく頷いていた。


その頷きが、「そうだよ」というものなのか、「違うから大丈夫」という意味なのか判らなかったけれど、それ以上は聞けずいた。


同じ湖だったらと思うと……。


一通りの説明をしてくれた仲居さんが「ごゆっくり」と言い残し、部屋を出て行った。



「なんか、疲れたね~」



鈴木先輩が、大きく伸びをしながら言い、「さて!」と意気揚々と荷物が置かれた場所へ立って行った。



「さて!温泉、行こう!」



かなり嬉しそうな鈴木先輩。


朝からのことは何処ぞといった感じ。


そして、あの沈んだ感じの鈴木先輩自身も。



「もう、行くの?」


「だって、これ目的で来たんだもん」


「そうだけどさ……」



森田先輩も、朝からのことを気にしているのか、すぐに動きたいないという感じに見えた。


私も同じだったから、余計かもしれない。




パタパタパタパタ……




何処からか、小さな音が聞こえてきた。




……パタ……パタパタパタパタ……



パタパタパタパタ……パタパタパタ



……パタ……パタパタパタパタ……




断続的に聞こえていたその音がだんだん多くなっていた。



「何の音?」



鈴木先輩が聞いてきた。



「なんか……子供の足音みたい……?」


「ん……」



森田先輩と私との会話に、鈴木先輩は「上から?」と、天井を見上げた。



「きっと、上の階の子供が遊んでるんだよ」


「でも、こんなに音って響きます?」


「古い旅館みたいだから、仕方ないんじゃない?」


「親、もう少し、注意したらいいのに……」


「嬉しいんでしょ、きっと」



鈴木先輩と私が話している間、森田先輩は、また、いつものように天井に手をかざしていたけれど、何も言わなかった。


私も、敢えて聞かずにいた。


その時の私には、“音”は聞こえるものの、“嫌な気配”は感じなかったから。


その音の正体が何なのかを知ることで、更に気味悪いような、変な不安にだけはなりたくなかったのかもしれない。


無意識の行動。




「そんなことより、温泉温泉♪」



やけにハシャイデいる鈴木先輩につられ、私たちも、部屋にあった浴衣に着替え、温泉がある1階へと向かった。




パタパタパタパタ……パタパタパタパタ……




部屋を出る時にも、まだその音は聞こえていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ